プログレた天使たち 

瑠俱院 阿修羅

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25. 第二のビートルズ&コピー・バンド軍団

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「畜生。天使の拾い子のくせになんてタフなんだ」
唐突に、苦しい息の下から負け惜しみを言ったのは、亡霊を積み重ねてできた塔の一番下に敷かれた男だった。重みで意識を取り戻したのだ。
ダミアンが男の頭をポカリと殴りつけた。
「馬鹿め。生産活動もせず人類最盛期の社会機構や都市機能を食いつぶすだけが能、天使に音楽を創らせて精神的栄養を一方的に消費するしたたかな亡霊のはしくれだぞ。こう見えても」
「それに、一年中ハロウィーンみたいなコスチューム着て、そんな亡霊たちの群れ集う会場から会場へドサ回りする天使たちの養子たち。やわに育ってると思ったら大間違いよ」
キャサリンが気を吐く。
「もう一つ言っておくが、ジョフィエル以外は、もう飛べもしないのにただの見栄で翼付けてるんだぞ」
ディランが真っすぐな目で付け足す。

 ラウエル、ギヒテル、ジョフィエル。それぞれの胸に、3人の子供たちの言葉は矢となって突き刺さった。
子から親へ。
3本の矢の教え。
彼らは腕組みして考えこんだ。けれども、ステージ・コスチュームが派手なのはミュージシャンとして当然だと3人が考え、飛ぶ能力が戻ってきたときのために翼は必要だとギヒテルとラウエルが結論付けたとき、3本の教訓の矢は音もなく折れた。
 
 さっき目を覚ました男はダミアンに殴られてまた気を失ったが、その足首と上の段の足首に胸をはさまれた男が目を覚まして、あとを引き継いだ。
「俺たちは“第二のビートルズ&コピー・バンド軍団”」
発言を終えた男の足元で、また一人目を覚まして続ける。
「かつて、“第二のビートルズ”と呼ばれたバンドと、ビートルズにそっくりな演奏を生業としていたバンドのメンバーの亡霊たちだ」
発言を終えた男の足元で、さらにまた一人目を覚まして言う。
「俺たちは別に、悪さをしようとしてたわけじゃない」
「ヨーコと同じことをしようとしてただけなんだ」

 男たちは、螺旋状に目を覚ましながら話を引き継いでいく。
「ヨーコが‘60年代の後半に開いた個展で展示されたオブジェに」
「ハシゴを登りきると天井に『YES』の三文字、というのがあって」
「それを真似て天井裏にこれを貼ってやろうと思って」
動けない男が黒目をわずかに下にずらし、震える手で示す地面に「YES」とでかでかと書かれた木製のパネルがあった。

「そんなのおおきなお世話じゃない。大体なぜ、事前に何のことわりもなく勝手にそういうことやるの?いったい、何をたくらんでるの?」
キャサリンに追求され、順番のきていた男がいったん開いた目をすばやく閉じた。ダミアンがその男の頭をゲンコツで叩く。
「タヌキ寝入りしないで答えろ」
「ナルコレプシー(発作性睡眠)なんだ」
「やっぱり返事したな。この、タヌキナルコレプシー」
 ダミアンは反対側からまた殴る。

「わかった。言うよ。言うからもう、殴らないでくれ。ジョン・レノンがオノ・ヨーコに惚れたきっかけが、天井に“YES”のオブジェだったことは有名だろう」
「ヨーコの出現が、ビートルズ解散の遠因になった」
「だから、同じようなことをすればきっと、《ケルビム》も解散すると思って」
なんという単純思考と、それに見合わぬ規模の労力であろうか。
誰もがあきれてしばらくものが言えなかった。

 次の番にあたる男が、涙で声をつまらせながらやっとの思いで先を続ける。
「俺たち、一時期は第二のビートルズ、または〇〇製ビートルズ、ビートルズにそっくりそのもの、同レベルともてはやされ、大ヒット・アルバムを出したり、テレビ出演したり、何軒ものパブやクラブを掛け持ちしたりしてたのに、やがて飽きられ落ち目になり、あとは鳴かず飛ばず。いつの間にか忘れられていた。その中のほんの一握りは音楽業界にとどまったが、残りはさらにやくざな稼業に足をつっこんだり、ホープレスなブルーカラーになったり、落ちるところまで落ちてホームレスになったり。
過去を引きずるミュージシャン崩れの気持ち。これは〈前衛天球派〉、ポップ・ロック、そしてまた人気の復活した〈前衛天球派〉と猫の目のようにころころとすばやい変わり身で生き延び続けるあんたらにはわかるまい」

「かつての栄光に未練が残って、死んでも昇天できない。ジョン・レノンが『天国なんかないと思ってごらん』と言ったから、あきらめもつくが」
「亡霊界のコミュニティ・サイトで知り合った我々はオフ会を開き、どうせあの世へ行けず迷うなら、ともにこの世界で同病相哀れみながら演奏活動をしていこうと徒党を組んだ」
「天使バンドがやってるのも、どうせ、天使のオリジナルスタイルに見せかけているが、かつての人間のミュージック・シーンのパクリだし」
「よぼよぼになった天使たちはそのうち天国へ永久にハケて、立場の逆転したオレたちだけがこの世界に残るわけだし」
「それならいっそ、押し出しを早めてやろうと」
「最も歴史が古く、最もしぶといバンドをターゲットに選んで」
 
 上へ行くほど発言者は見分けにくくなり、それにつれて告白の内容が露骨、辛辣、かつ過激になる。天使たちとその養子たちは、そろって険悪な顔つきになった。
ジョフィエルが翼を広げて飛び上がり、ホバリングしながら次の発言者の顔を覗きこんだ。
「で、“ラトルズ”はどこだ?」
「あんな史上最悪のパロディ・バンドと一緒にするなんてあんまりだ。ひどい。それでも人間か!」
「いや、あいにく天使だ。あっ、君、知ってる。“ナック”のメンバーだろ。『マイ・シャローナ』歌ってくれ
「勘弁してくれ。どのライブ会場へ行ってもそればかりリクエストされて、ときにはほかの曲を歌ってる最中でもシュプレヒコールが起こって、ノイローゼになりかけたんだ」
「一発屋のサガだな」
ナックのメンバーを一周して、ジョフィエルはさらに上の段の男の顔を覗きこむ。

「で、実際に演奏活動はしているのか?」
「大多数の亡霊たちはまだ、天使たちが演ってる音楽が本物で、われわれのことは『イカモノ』『ばったもん』と呼んでいる。だから、オーディエンスといっても、目的は野次を浴びせることだけ。誰も音楽に耳を傾けてくれない」
「“第二のビートルズ”はともかく、コピー・バンドなら『イカモノ』『ばったもん』呼ばわりされてもしかたないだろうに」
「今はオリジナルをやってるんだ。ビートルズのように、最初は認められなくてもそのうち、きっと…」
「その日が永遠に来なかったら?」
 ジョフィエルは次の発言者のところへ回りこむ。
「それならそれで、聴衆不在の演奏を続ける。ビートルズだって、耳をふさいで絶叫するだけ絶叫して勝手に失神するティーン・エイジャーたちに囲まれて、聴衆不在の不毛な演奏をしていた時期があったんだ」

「なるほど。それは全員の意志なのか?」
「ほぼ全員だ。多数決で決めたわけだから」
「そういうことは、リーダーが命令すればそれでいいんだ」
「この人数の1/4はリーダーなんだ」
それを聞くとジョフィエルは羽ばたきで少し後ろにさがり、声変わり真っ只中のひび割れた声で叫んだ。
「ふん、そうだろうな。しっかりした指導者さえいれば、ヨーコの真似ごときで我々が解散するなんて安直な思いつきに全員がのっかる事態は防げたはずだ」

「ビートルズが解散したのはヨーコのせいじゃない」
突然地上から、ジョフィエルの割れ鐘のような声をうわまわる大声が聞こえた。
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