プログレた天使たち 

瑠俱院 阿修羅

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26. 第二のビートルズ&コピーバンド軍団を撃退するディラン 

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 声の主はナイジェルだった。
ヒュリエル以外の天使たち(その中にはヒュリエルの単独捜索をあきらめたテュリクセルの姿もあった)も、亡霊でできた塔の周りを囲んでいた。
そして今は全員が、日頃穏やかなナイジェルの怒声に息をのんでいた。

「マネージメントの面でトラブって、ポール・マッカートニーが『もはやビートルズというグループは存在せず』と裁判所に申し立てたのを君たちが知らないはずはなかろう。他のビジネス上のごたごただって」
「それを言わないでくれ」
数十人の声が見事にハモッた。ファンがオリジナルのビートルズに永遠を望んだ、絶妙のコンビネーションである。

「真実から目をそらしてはいけないな。ジョン・レノンが暗殺された直後、ポール・マッカートニーは何をした?追悼アルバムを創ったか?NO!ボディガードの数を増やしただけだ。さらに、没後15年も経ってからやりかけの曲を3人で寄ってたかっていじくっていた。休暇で旅行に行くからと頼まれたことにして。レノンは生前、休暇で旅行に行く時に他人に自分の曲をいじってくれとメッセージを残したことはない。
さらに、没後40年以上経ってからメンバーが二人しか残っていない状態で、人工知能を使ってビートルズとしての新曲を発表した。自分が中心人物でいられないならと解散し、レノン亡き後ビートルズのノレンにしがみついたポールの情けない姿を君たちが知らないわけはないだろう。
歴史は正しく伝えなければ、次の世代が苦労するんだぞ。後れてきたファンの中にはそういうことを知らない者も多いし、亡霊の中には『Roll over Beethoven』(ベートーベンをやっつけろ)というタイトルだけ聞いて、18世紀の作曲家だと思ってる者もいる。ビートルズそのものを知らない世代もいる。君たちにも子供くらいいただろう」

「うう…ジョン」
「ジョージ」
「ポール」
「リンゴ」
かつて生身の人間として生きていた頃子供たちにビートルズのメンバーの名前をつけた者たちが、あちこちですすり泣きを始めた。
だが、悪いことに一人、つけたくても男の子が生まれず、しかたなく、一人娘に母方の祖母の名前をつけた男がいた。
「じゃあ、解散から1年後に節操もなく寄り集まった《ケルビム》残党の子供たちは『覆水いくらでも盆に返る』と教えられて育つようなもんだな」

「『過ちを改むるにためらうことなかれ』」
「『仲よきことは美しき哉』」
「『一人はみんなの為に。みんなは一人の為に』」
3人の子供たちが言い終えると、“第二のビートルズ&コピー・バンド軍団”は苦しげに頭を動かし、手の自由になる者はのどを掻いた。

「無重力のシャトルから地上と交信した宇宙飛行士だって、そこまで歯の浮くようなことは言わなかったぞ」
そんな彼らの周りを、ジョフィエルは不敵な表情を浮かべて無言で飛び回り、他の天使たちも余裕の表情で見上げている。
「これは第一期《ケルビム》のオールド・ファンからのことづてだが」
空から突然声がして、ジョフィエルの顔から笑みが消えた。地上の全員に緊張が走る。空からの声は神の声と、相場が決まっているのだ。

 だが、よく聞いてみると声は空からではなく亡霊塔の頂上から発せられていた。
「『かつての人間のミュージシャンを手本にしてるわりには、麻薬も黒魔術も愛人殺しもやらない。火も吹かなきゃ、“スモークやってぶっとぼうぜ”なんてオーディエンスを煽らないし、ライトに頭から突っ込んだりもしない。だから、安心して応援してたのに。
再結成後の変わり果てた《5エンジェルス》は妖怪変化だし、元のスタイルをセルフ・コピーして生き残ろうとする第二期《ケルビム》はまるで醜悪なゾンビよ。私たちの青春が腐る前に一日も早く伝説になってちょうだい。匿名希望の泣き虫エミリーより』」

「そのエミリーとかいうヤツをここに連れて来い、こら」
ダミアンがこぶしを振り回してわめく。
「そんなヤツはいない。あいつが他人の名前を使ってお父さんたちの悪口を言ってるだけだ」
ディランはそう言うなりジャンプして、目にもとまらぬ速さでジョフィエルを追い抜き、頂上の発言者にとび蹴りをくらわした。

 亡霊塔全体のバランスが崩れ、“第二のビートルズ&コピー・バンド軍団”は、井形に積み上げられた状態で頂上からゴムのようにびよーんと伸びて溶岩原の上に弧を描いた。一番上が着地すると、今度はそこに引き寄せられるように縮む。自律移動するばね状の玩具スリンキーのように、彼らは伸びては縮み、伸びては縮みしながら湖畔を回ってゆき、やがて外輪山を越えてはるがヴェスビオ山の方角へ消えていった。

「ディラン。あんなことができるなら、一言言っておいてくれないとパパ、驚くじゃないか」
ラウエルがかがんで、息子の両肩に手をおいた。ディランがはにかんだ表情でその手を見ながら答える。
「だって、そんなことをするヒマがあったらギターの練習をしなさいって叱られると思って」
「確かにギターの練習は大事だ。しかし、努力して何かを成し遂げることが自信につながる。何にせよ、特技を活かすことだよ」
ラウエルが優しい目になった。

「しかし、あの連中、中国雑技団顔負けのあんな特技があるんだから、あれでショーでもやればよさそうなものを。今さらビートルズにこだわることもないと思うがなぁ」
ジョフィエルが言う。
「でも、あんまり格好よくない」
ゼピエルが遠くを見はるかす。
「そうだな」
ラウエルの相槌。
「やっぱり音楽が一番」
しみじみとロドフェル。
「ミュージック・シーンに生き残ってよかった」
と、テュリクセル。

彼らがこうしてインスタントの家族的雰囲気になだれこもうとした時、〈レイク・スタジオ〉のほうから声がした。
「どうした?何が起こったんだ」
「ヒュリエル、無事だったのか」
 ふりむいたテュリクセルの顔がにわかにくもる。
「ヒュリエル、そこ、気をつけろ」
「わあっ」
言われるそばから彼は転んだ。テュリクセルが慌てて駆けより、抱き起こす。
「だから、気をつけろと言ったのに」

「何?このワイヤー」
「『ジョフィエルの声変わり』という、伏線だ」
「どうして、ドアの前に伏線なんか張っとくんだよ、危なっかしい」
「みんな、さりげなくまたぎ越したんだがなあ」
「目立たないところに張っておいて、忘れると困ると思って」
「いったい、誰が困るっていうんだ」
「それは言えない」

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