受付バイトは女装が必須?

なな

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第1部:スーツの中のワタシ

第二十八章:まだ、言えないこと

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翌日、日曜の午後。
なおは真帆と美月に誘われて、駅近くのカフェにいた。

休日のカジュアルな服装で現れた二人は、どちらも明るくて自然体で。
それだけで、なおの心は少し軽くなった。

「で、どうだったの? 昨日のデート」

真帆がカフェラテを両手で包みながら、興味津々の目で覗き込む。

「……うん、優しかった。すごく、ちゃんと私のことを見てくれてたと思う」

「おお~。じゃあ、進展アリ?」

「……」

言葉を詰まらせたなおに、美月がそっと言った。

「まだ……言えてない?」

なおはうなずいた。

「……うん。言おうって思ったんだけど、
 顔を見てたら、怖くなっちゃって……」

言葉を飲み込んだときの、あのやさしい眼差し。
あれを曇らせてしまうかもしれないと思っただけで、息が詰まってしまった。

「わかるよ。あんなふうに見つめられたら……何も言えなくなっちゃうよね」

真帆が、苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。

「でもさ、なおちゃん。今のままでもすごく綺麗だし、仕草も自然だし……
 彼、気づいてるんじゃない?」

「……そう思うときもある。
 でも……私の口からちゃんと言わなきゃ、って思ってる」

「それ、正しいよ。すっごく勇気がいることだけど、
 なおちゃんが“ちゃんと好き”だからこそ、そう思うんでしょ」

美月の言葉に、なおは小さく頷いた。

「……でも、あと少しだけ、このままでいたいって、思っちゃう。
 “なお”として、愛されてることが、幸せで、怖くて」

ふたりとも、黙ってその言葉を受け止めてくれた。



帰り道、駅のガラスに映った自分の姿を見て、なおは思った。

(こんなに自然になってるのに、
 まだ私は、“自分”の全部を見せられていない)

ウィッグをやめて、メイクが手に馴染んで、
ブラのホックも下着も、もう“女装”じゃない。

それでも、名前と身体の境界線はまだ心に重く残っていた。

その夜、河合から届いた短いメッセージ。

「今日も、ありがとうございました。
今度、よかったらもっとちゃんと“なおさん”のこと、聞かせてほしいです」

“もっとちゃんと”。

それは、なおのなかで“核心に触れる予感”として響いた。
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