受付バイトは女装が必須?

なな

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第7部:新しい春に、もう一人の“僕”

第3話:大学では、ふたりとも“男”だけど ― 秘密を知ってるまなざしだけが、あたたかい ―

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キャンパスは春らしい日差しに包まれていた。
新入生ガイダンスの貼り紙がまだ掲示板に残っている。

(……夢、じゃなかったんだよな)

柊は自分の足元を見ながら歩いていた。
昨日――いや、正確には、ほんの24時間前の自分が、
ストッキングとスカートを履いて、鏡の前に立っていたという事実が、まだ身体に馴染んでいなかった。

(“なおさん”は、あんなに自然だったのに……)

その姿が、焼きついて離れなかった。
スーツのライン、後ろで揺れるハーフアップの髪。
落ち着いていて、綺麗で、優しくて――でも、間違いなく“同じ性別”のはずなのに。

そんなとき、ふと前方から歩いてくる姿に気づいた。

(あっ……)

なお、だった。
今日は大学モード。
すっと伸びた地毛の黒髪は、低い位置で一つに結ばれていて、シャツもきっちりメンズライク。
でも、どこか所作の柔らかさが残っていた。

柊は思わず立ち止まった。

(話しかけていいのかな……?
あれは“昨日のなお”じゃなくて、今日の“直人さん”だから……)

そんな迷いを読み取ったように、なおのほうから軽く笑って歩み寄ってくる。

「柊くん。おはよう」
「……お、おはようございます」

まっすぐな声。
性別でいえば、確かに“男の声”だけど、どこか優しくてくすぐったい。

なおは少しだけ肩を並べ、歩き出した。

「昨日、大変だったでしょ」
「……はい。なんか、いろいろ、ぐるぐるしてました」
「うん、そうなるよね。でも、よく頑張ったと思う」

一瞬、柊はなにかを言いかけて、結局やめた。
でも、なおはそれに気づいているようだった。

「ここでは、べつに無理して話さなくていいよ」
「え……」

「わたしたち、いまは“大学の顔”で過ごしてるだけ。
でも、“秘密の顔”を知ってるってだけで、
ちょっとだけ、仲間意識みたいなのがあるでしょ?」

柊は、胸のあたりがじんわりと熱くなるのを感じた。

スカートを履いていたとき、
唯一、怖くなかったのは“なおさんがいたから”。

そして今も――たしかにそこに、“知ってる顔”がいた。

「また、次のシフトも……お願いしていいですか?」
なおは微笑んだ。

「もちろん。
今度は、口紅の塗り方も教えてあげるよ」

柊は、ほんの少しうつむいて、
「……ありがとうございます」と言った。

そして気づいた。

この人の“ありがとうございます”は、女の子みたいに響く。
でも、ちゃんと“僕にだけ通じる秘密の音”が混じっていた。




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