お給仕魔法少女になりまして。

鈴音くるす

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四話 親友

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「ん……」

うるさいアラームが鳴らない。毎朝、鬼の形相で叩き起こしにくる母の姿もない。寝ぼけ眼でスマホを開く。

「そっかぁ…今日は土曜日だったかぁ…」

二度寝を…。
瞼を閉じ、ずれた布団を引っ張り上げむにゃむにゃと身動きする。が、夢の中…昨日の出来事が脳に過り、飛び起きた。


「……本当だったんだ…。あの話」


昨日の怪物の攻撃で滑って擦りむいた箇所にはやはり傷ができていた。そっと触れるとピリッと痛みが走る。

「メモル…だっけ。まだ聞きたいことが沢山あるんだけどな」

メモル。ぬいぐるみはそう名乗っていた。
大きさはぎゅっと抱きしめたら丁度良さそうな感じだが瞳から感じた眼差しも手を握ってくれた感覚もどこか本当に生きているかのような…。いや、生きているのだが現実感を感じるというか不思議な感じだった。


ピロロン。


SINEの着信音が鳴った。トーク画面を開くと癒亜からのメッセージが表示された。


『もう着いたよ、愛華ちゃんは今どの辺?』

キョロキョロと辺りを見回すうさぎのスタンプも添えられたトーク画面。


「…やっば!忘れてた!」


『ごめん!ちょっと寝坊しちゃった!すぐ行くね!』
 

早打ちでメッセージを返し、ベッドから飛び起き洗面所へ直行する。色々な事があって忘れていたが今日は癒亜と新しくできたカフェへ行く約束をしていたのだった。


『大丈夫だよ。待ってるから気をつけて来てね!』

そんなメッセージと共にうさぎが横断歩道を手を上げて渡っているスタンプが送信されてきた。癒亜はどんな時でも怒らないし優しかった。そんな癒亜に心底甘えてしまう自分につくづく呆れてしまう。顔を洗いながら愛華はため息をついた。



⁕ ⁕ ⁕ ⁕


「癒亜~!遅くなって本当にごめん!」

スマホをいじりながらベンチに腰掛けていた癒亜に着くなり秒速で頭を下げる。しかし癒亜はそんな愛華を見て慌てた様子で大丈夫だから、と返した。

「寝坊は…誰にでもあるし…愛華ちゃん昨日は疲れてたみたいだったから…大丈夫…だよ!」

癒亜は微笑みを浮かべ、手を握ってくれた。
愛華は彼女のこういうところがとても好きだし尊敬していた。何て器の大きな持ち主なのだろうか。自分なら寝坊したなんて言われようものなら文句の一つでも溢してしまいそうだった。

「じゃあ…行こっか…!」

癒亜がスマホを持ち、地図を見ながらそう言ってきた。癒亜は昔はこんなに笑う子ではなかった。どちらかと言えば笑顔は少なく、口数も少ない印象の子だったが打ち解けるうちによく話してくれて笑うようになってくれてそれがとても嬉しかった。

「うん!」

癒亜と二人歩きながら、担任の話や行事の話をした。癒亜と話しているともっともっと話したくなる、それくらい愛華にとって楽しくて大切な時間だ。


「あ…」

「愛華ちゃん…どうかした…?」


ふと、足を止めた。視線の先には雑貨屋さん。綺麗な扉の前には新商品の宣伝が書かれた看板と隣にはぬいぐるみが置かれていた。


「これ…メモルに似てるな」

「メモル…って?」

熊のぬいぐるみは看板に寄り添うように置かれていて、きっとここのお店の人の手作りなのだろう胸元には綺麗なブローチが輝いていた。

「な、なんでもないよ!」

癒亜は少し不思議そうに首を傾げたが愛華の様子を見て特にそれ以上聞くことはしなかった。

「行こう…?」

空気を察知したかのように癒亜がぐいっと愛華の袖を引っ張った。
癒亜にこれ以上心配させてはいけないと思い、にっこり笑って頷いた。


「パフェ、楽しみだね!」
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