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14 ふり返り魔ンドラゴラの赤ちゃん
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アンバーを見つめるエリーザの瞳は、いつも真っ直ぐだった。
「私も手伝うわよ。」
扉を開けた化学研究室は、ムワッとした蒸し暑い空気が流れている。奥から見たことのない妖魔が突然あらわれても、特別に驚かない程度の樹海を想像させる空間だ。樹海の超ミニチュア版といったところか。所狭しと並べられた鉢植えが、エリーザを見てふさふさと揺れていた。
その一角に、アンバーが立っていた。
「しー、この魔ンドラゴラが、今、産気づいたんだ。」
ひーひーふー、ひーひーふー
苦しそうな魔ンドラゴラに合わせてアンバーはどこかで覚えたラマーズ法を試している。
「私、初めて見るわ。魔ンドラゴラの出産なんて……」
「この1週間の留守中に何かがあったんだ……、気をつけていたつもりだったのに……」
ひーひーふー、ひーひーふー
「力み始めたぞ……。生まれたら48時間以内に植え替えをしなければならない。」
アンバーは顔を真っ赤にして一緒に力んでいる。手に土を握る勢いだった。
「よし、もう少しだ……この鉢植えじゃ、狭すぎるし、母親を休ませてやらないとな……」
おぎゃー、
土の中から小さな産声が聞こえてきた。
「生まれたての産声って、こんなに小さなものなの。もっと大きい声を想像していたわ。」
「いや、これは『ふり返り魔ンドラゴラ』と言って、すべてが控えめな品種の魔ンドラゴラなんだ。野生はもっとすごい。鼓膜が破れるほどの鳴き声だよ。」
アンバーが生まれたての赤ちゃんの双葉を少しつつくと、一瞬鳴き声が鳴り止んだが、一拍置くと更に鳴き声が大きくなる。隣の母親魔ンドラゴラは怒ったように葉っぱを左右に振り回し、アンバーの手を追い払っているように見えた。野生だとおそらく、その手は魔ンドラゴラの根っこに嚙みつかれ、今頃腫れ上がっているだろう。魔ンドラゴラの樹液には、マムシなみの猛毒が含まれる。
「ごめんごめん。怒っちゃったかな。これからの育児が大変だもんね。」
アンバーはその魔ンドラゴラの様子を見て、嬉しそうに笑っていた。
こんなに楽しそうに笑っているアンバーを見るのは、初めてのような気がしていた。
「あなたも、笑うことがあるのね。最近しかめっ面しか見たことがなかったから、……」
「僕だって、楽しいことがあれば、笑う。しかめっ面が多いのは、最近不安の種の尽きないせいだろう。」
ガチャ、
科学研究室の扉が開かれる。向こう側から元凶と思われる人がピンクのローブを纏いやって来た。
ピンクローブの裾から見えるグレーのスエットが、この空間には、とてもアンバランスで樹海に生息している魔獣よりも奇妙なモノにみえた。
「ビクター先生……」
「いやー、すみません。遅くなってしまいました。学校の魔法図書館に中々入れてもらうのに、時間がかかってしまいまして、おかげで目当ての本がなくなってて、」
アンバーの表情が、また一段と険しいものになる。だが、その瞳の中に温かみが混在していた。
「また彼に、その顔を向けるのね。」
エリーザは、この個性的なビクターが、赴任してからというものアンバーの感情が豊かになったような気がしていた。
「探すのに、この彼に手伝ってもらったんですよ。」
ビクターの後ろからやってきたのは、天文部のシモンだった。シモンは、ちらっとエリーザに視線を向けた。
「図書館に行こうと思ったら、ビクター先生が、図書館のゲートで何度も弾かれているから、ちょっと、見かねまして、……」
エリーザは不可解とばかりに目をパチクリさせ、アンバーを見た。
「弾かれるなんてことあるの?聞いたことないわよ?」
「一定数の魔力に達していない者は、弾かれるとは聞いていたが、まさかな……」
「ピンクのローブ……」
バサッ
「ああ、エリーザさんも、いらしていたんですね。」
ビクターそう言いながら、身に纏っていたローブを後ろに払い、ずかずかとエリーザに歩み寄った。すると全身グレースウェット姿が露わになった。
「ビクター先生、この荷物どこに置きましょうか?」
シモンの両手には、魔法図書館で集めた本となぜかルンバが大事そうに握られていた。
シモンの手の中にある本は、ビクターに噛みつこうとしたそうで、ビクターはその本たちを見るや、威嚇のポーズを取っていた。
「もう、まただ……。俺は精霊とは相性が悪いんですよ。図書館のゲートだって、この精霊たちが意地悪をして、まったく……」
ビクターはその本を受け取ろうとして、手を伸ばすが、その本たちは、大きな口を開けて、鋭い犬歯でビクターの手に噛みつこうとしていた。
「シモン、そっとだ。そっと、俺にルンバの部分だけを渡してくれ、上手くいけば、その本たちを受け取れるはずだから。こら、痛ってば、……焚書にしちまうぞ……、このくそ精霊どもが……」
とても、見ていられるもんじゃない。どうして、ここまで精霊に嫌われるのだろうか。
「分かったから、ここじゃ騒がしすぎるから、化学室に移動しよう。今カギを開けるよ。」
つづく
「私も手伝うわよ。」
扉を開けた化学研究室は、ムワッとした蒸し暑い空気が流れている。奥から見たことのない妖魔が突然あらわれても、特別に驚かない程度の樹海を想像させる空間だ。樹海の超ミニチュア版といったところか。所狭しと並べられた鉢植えが、エリーザを見てふさふさと揺れていた。
その一角に、アンバーが立っていた。
「しー、この魔ンドラゴラが、今、産気づいたんだ。」
ひーひーふー、ひーひーふー
苦しそうな魔ンドラゴラに合わせてアンバーはどこかで覚えたラマーズ法を試している。
「私、初めて見るわ。魔ンドラゴラの出産なんて……」
「この1週間の留守中に何かがあったんだ……、気をつけていたつもりだったのに……」
ひーひーふー、ひーひーふー
「力み始めたぞ……。生まれたら48時間以内に植え替えをしなければならない。」
アンバーは顔を真っ赤にして一緒に力んでいる。手に土を握る勢いだった。
「よし、もう少しだ……この鉢植えじゃ、狭すぎるし、母親を休ませてやらないとな……」
おぎゃー、
土の中から小さな産声が聞こえてきた。
「生まれたての産声って、こんなに小さなものなの。もっと大きい声を想像していたわ。」
「いや、これは『ふり返り魔ンドラゴラ』と言って、すべてが控えめな品種の魔ンドラゴラなんだ。野生はもっとすごい。鼓膜が破れるほどの鳴き声だよ。」
アンバーが生まれたての赤ちゃんの双葉を少しつつくと、一瞬鳴き声が鳴り止んだが、一拍置くと更に鳴き声が大きくなる。隣の母親魔ンドラゴラは怒ったように葉っぱを左右に振り回し、アンバーの手を追い払っているように見えた。野生だとおそらく、その手は魔ンドラゴラの根っこに嚙みつかれ、今頃腫れ上がっているだろう。魔ンドラゴラの樹液には、マムシなみの猛毒が含まれる。
「ごめんごめん。怒っちゃったかな。これからの育児が大変だもんね。」
アンバーはその魔ンドラゴラの様子を見て、嬉しそうに笑っていた。
こんなに楽しそうに笑っているアンバーを見るのは、初めてのような気がしていた。
「あなたも、笑うことがあるのね。最近しかめっ面しか見たことがなかったから、……」
「僕だって、楽しいことがあれば、笑う。しかめっ面が多いのは、最近不安の種の尽きないせいだろう。」
ガチャ、
科学研究室の扉が開かれる。向こう側から元凶と思われる人がピンクのローブを纏いやって来た。
ピンクローブの裾から見えるグレーのスエットが、この空間には、とてもアンバランスで樹海に生息している魔獣よりも奇妙なモノにみえた。
「ビクター先生……」
「いやー、すみません。遅くなってしまいました。学校の魔法図書館に中々入れてもらうのに、時間がかかってしまいまして、おかげで目当ての本がなくなってて、」
アンバーの表情が、また一段と険しいものになる。だが、その瞳の中に温かみが混在していた。
「また彼に、その顔を向けるのね。」
エリーザは、この個性的なビクターが、赴任してからというものアンバーの感情が豊かになったような気がしていた。
「探すのに、この彼に手伝ってもらったんですよ。」
ビクターの後ろからやってきたのは、天文部のシモンだった。シモンは、ちらっとエリーザに視線を向けた。
「図書館に行こうと思ったら、ビクター先生が、図書館のゲートで何度も弾かれているから、ちょっと、見かねまして、……」
エリーザは不可解とばかりに目をパチクリさせ、アンバーを見た。
「弾かれるなんてことあるの?聞いたことないわよ?」
「一定数の魔力に達していない者は、弾かれるとは聞いていたが、まさかな……」
「ピンクのローブ……」
バサッ
「ああ、エリーザさんも、いらしていたんですね。」
ビクターそう言いながら、身に纏っていたローブを後ろに払い、ずかずかとエリーザに歩み寄った。すると全身グレースウェット姿が露わになった。
「ビクター先生、この荷物どこに置きましょうか?」
シモンの両手には、魔法図書館で集めた本となぜかルンバが大事そうに握られていた。
シモンの手の中にある本は、ビクターに噛みつこうとしたそうで、ビクターはその本たちを見るや、威嚇のポーズを取っていた。
「もう、まただ……。俺は精霊とは相性が悪いんですよ。図書館のゲートだって、この精霊たちが意地悪をして、まったく……」
ビクターはその本を受け取ろうとして、手を伸ばすが、その本たちは、大きな口を開けて、鋭い犬歯でビクターの手に噛みつこうとしていた。
「シモン、そっとだ。そっと、俺にルンバの部分だけを渡してくれ、上手くいけば、その本たちを受け取れるはずだから。こら、痛ってば、……焚書にしちまうぞ……、このくそ精霊どもが……」
とても、見ていられるもんじゃない。どうして、ここまで精霊に嫌われるのだろうか。
「分かったから、ここじゃ騒がしすぎるから、化学室に移動しよう。今カギを開けるよ。」
つづく
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