お見合い相手がAIかと思ったら、慇懃部長でしたが、なぜか今、溺愛されています

加茂茶 芽衣

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6 手作り餃子の怪

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 残業で午前様を覚悟した私の前に現われたのは、どこからどう見てもクールイケメンの佐々木部長だった。

「飯食った?」

 私は、口をあんぐり開け、プルプルと顔を横に振る。

「良かった。今家に帰って作ってきたんだ。」

 その手に持つ風呂敷から出てきたものは、豪快中華三段重。

 ――これは夢だろうか?私は、今もしかして残業のしすぎで意識を失っている最中なのかもしれない。それなのに……

「一緒に食べようと思って、作ってきたんだ。急いで作ってきたから、味の保証はできないけど……、ラブちゃんも、待っているだろ。」

 なんの取柄もない平凡OLの私は、佐々木部長の言葉にうんうん見惚れてうなずくしかなかった。
 それはそれは、すごくおいしそうだった。三段重から匂い立つ、オレンジのスパイシーなこの物体は、エビチリだろうか?

「急いで作ってきたから、……それは市販のチリソースなんだ。どうかな?」

 私は、結構な大きさのエビを口の中に入れた。

「おいしいです。」

 はあ、エビチリなんて何年ぶりだろうか。忘年会でもない限りは食べることはない手のかかる豪華な代物だ。ちなみに、弁当はとても辛い四川麻婆弁当だった、春雨がたっぷり入っていておいしかった。

 ――しまった。可愛くおちょぼ口にするつもりが、いつもの癖で大きな口を開けてしまった。しかも、こんな大きなエビを一口で平らげるなんて、私ってなんてことをするの。むかし散々お母さんが言っていたではないか。女は大きな口を開けて食べるもんじゃないって。

 そう思い、顔をあげると普段見ることのないニコニコ顔の佐々木部長がいた。それにしても、顔が近い、近すぎる。私は、顔を下げ、急いで手を口元に当て、口臭チェックをする。今日は、お昼に歯磨きをしたっきり、何も対策をしていなかった。これは、残業確定時点で、ガムでも噛んでおけば良かった。

「アキちゃんは、ホントに食べるとき、美味しそうな顔をするね。」

 ――はい、いま何とおっしゃいましたか?いま、アキちゃんと?こんな、身内にしか呼ばれたことのないこの親し気な一人称の名前。

『違う違うよね』、と私はぶんぶん首を横に振る。
 私の勘違い、これは、おそらくモテなさ過ぎて、幻聴がきこえてきたのだよ。何と言ったっけ。この病気。そうフェルメール病だ。どうしようもない妄想に取り憑かれた女性が掛かるといわれる、自分がさも物語のヒロインになってしまったかのような錯覚に陥る夢遊病。

――これは、いまとっさに私が、名付けた病名なのだが。お願いだから、私のことを変な人と思わないでね。

 何しろ、佐々木部長との間には、何もない。キスどころか、手も握っていないのだ。この関係を何という?そう、それは、ただの友達というのではないのか?

 困った、食事中に大きな口を開けてしまった手前、なんかモジモジしてしまう。

「あの……私は、これから部長のことは、なんとお呼びすればいいのでしょうか?オフィスで、アキちゃんと呼ばれると、なんかむずがゆくて……」

「そうか……。それじゃ、さっさと、仕事を終わらせてしまおう。俺も、手伝うよ。」

 首を傾げていた佐々木部長は、資料ファイルの大半を自分のパソコンデスクに移してしまうと、引き出しから眼鏡を取り出し、無言でパソコン作業に取り掛かった。

 それからは、あっという間だった。
 7時半から取り掛かった作業は9時前には終わっていた。

 そのあとは、私は何事もなくラブちゃんとのラブラブタイムを一晩中満喫して過ごしたのだった。

 **

「おはようございます!」
「おはようございます。」

私が、オフィスに入ると、みんなは沙耶の話で持ちきりだった。椅子を沙耶のデスク近くまで移動させ、みんな聞き耳を立てていた。

「ねえ、沙耶、昨日のデートどうだったの?年収1000万の彼氏!」
「どこで、デートだったの?」
「それがね、7時の約束がなんか仕事で遅くなるとか言って、9時過ぎになっちゃったのよ。」

「えー、嘘でしょ。さすがエリートね。月末に残業なんて、何をしている人なの?」

「IT系の会社で部長職なのよ。しかも昨日は部下のミスのリカバリーだったんだって。せっかく一緒に高級中華料理を食べる予定だったのに。だから、ちょっと、お話をしただけで終わっちゃった。」

――7時の約束が9時?IT系会社の部長?どこかの誰かと重なるのだが、いや、なにかの間違いだろう。

「中華?って、沙耶の彼氏も中華好きなの?」

「やだ、沼田さん珍しいですね。恋バナに興味を持つなんて。そうなんですよ、なんでも彼は料理が趣味で、特に餃子が手作りするくらい好きなんですよ。昨日ご馳走してもらえる約束だったのに……」

――いま、餃子と言ったよね。まさかね……、そんなはずは、ないよね。

A「餃子を手作りで、すごいわね、沙耶の彼氏?」
B「あれっ、そう言えば、イケメン佐々木部長も、料理が趣味で餃子は手作りするって言ってなかった?」
C「えー、まさか、佐々木部長と?抜け駆け?」
沙「ち、ちがうわよ……もう、」

ABC「うそでしょー!ずるい!私だって狙ってたのに!」

沙「だから、ちがうって……。しかもね、私も餃子が好きって言ったら、彼がね、……一緒に手作りしようって言ってくれたの。……今度部屋に招待してくれるって……」

――なに?部屋に招待だと?

沙耶の周りで、同僚や契約社員たちがひそひそと話し合っている。私は、それを横目に聞いていて、とても、まともに立っていられる神経を持ち合わせてはいなかった。

「キャー、ほら、噂の佐々木部長がご来場よ。」
「かっこいい!ほら、沙耶!」

スマホを耳に当て、何やら電話の相手と話している部長は、私には一瞥もせず、目の前を通り過ぎた。その最中、隣の沙耶は身の置き所もなくソワソワしている。それは、沙耶だけではないみたいだが。

「クールかっこいい……!私だったら、目が合っただけで、激しい氷のブリザートに充てられて死んでしまうわよ。」
「アイスビューティー……、いつ見ても綺麗なお顔だわ。あの激しい氷の束のような瞳に撃ち落されたいわ。」
「私は、恐れ多くて、隣に並んで歩けないわ……、沙耶はこんな人を射止めるんだもの。凄いわね。」

「そんなことないわよ、……でも、どうしよう……私、いま佐々木部長と目が合っちゃった。これは、呼ばれたのかな……」

「沙耶。いいなあ。私とは、全くだったよ。」
「ほら、早くしないと、奥の部屋に行ってしまうわよ。」
「朝のコーヒーを淹れてあげたら?」

「そうよね……給湯室は……」

「ほら、はやく、はやく……佐々木部長、待っているわよ……」
「そうよ、待たせちゃだめよ。」
「給湯室は、右奥よ。」


つづく


 
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