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5 佐々木部長の意外な顔
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それは、私の常識からは著しく逸脱していた。
いつもの見慣れたオフィス。
私の席の向かい側には、あの佐々木部長がいる。
トラブルが発生したのだ。
ふと目をやる佐々木部長は、どこからどう見てもクールビューティー。その背中には、ピューピューと吹雪が吹き付けているのがわかる。
おっと、油断しちゃいけない。時々、めっぽう鋭い雪の塊が私の顔面目がけて飛んでくるのだ。
ピコン。
メールの通知音が鳴った。
私のパソコンに飛んできたメール内容は、今月の検収の見直しについてだった。
相変わらず、私の弱点をこれでもかとついてくる指摘に、アイアンハートを自認している私でも、心が折れてしまいそうな文面だった。
トホホ……。
これで、今日も残業確定。ラブちゃんごめんよ。ママは少し遅くなる。
たぶん、昨日のあの光景は、AIによる残像だったのだ。そう思わなければやってられない。
佐々木部長と無事に顔合わせを果たした私は、そのあと佐々木部長のマンションにお邪魔して、モモンガ(猫)さんとラブちゃんが2匹喧嘩をしているのを横で眺めながら、佐々木部長の手作りした山盛り餃子を無言でムシャムシャとひたすら食べて帰ってきたのだ。
佐々木部長のお部屋にお邪魔したときは、南国バリのリゾート地を思い起こさせる(行ったことはないが)とてもエロティックでいい匂いがしたというのに、最後には部屋全体が餃子のニンニク臭が充満していた。あの後、部長はどうしたのだろうか?換気をして部屋全体に香水でも、振りかけたのだろうか。
今日、すれ違う時の佐々木部長はとても、シトラス系の爽やかないい匂いがした。
今朝の佐々木部長は、どんな顔で起きたのだろうか?きっと爽やかに6時半に起きて、軽い運動をした後にシャワーを浴びて、パンに目玉焼きにコーヒー、いや、それともご飯派だろうか?まあ、どっちでもいいが、朝食を食べた後に着替えて、あの綺麗な真っ白いマンションのキラキラとしたエントランスを颯爽と降りてきたに違いない。
少しはにかんだ時の真っ白な歯がきらりと光るのが見えたような気がしたが、現実の佐々木部長はというと、眼鏡越しでも分かるほどのギラリと刺さる鋭い目を私に向けていた。
『ひい――。ごめんなさい。変な妄想は致しません。すぐに案件に取り掛かります。』
「沼田、それの提出、分かってるとは思うが、今日までだぞ……」
「はい、すいません、すぐ取り掛かります。」
私は、焦って溜息をついた。昨日見た佐々木部長とは違い過ぎる。昨日見たのは、そう、きっと、双子なのだ。
クルッ、
「もう、ちょっと、どういうこと?これは、沙耶に任せたはずなのに、……!」
椅子を回し、同僚の喜多山沙耶に体を向ける。すると、沙耶は私の顔の前で、可愛く手を合わせていた。もう、部長のいる前だからって、態度が露骨に違い過ぎる。
沙「すみません、沼田さん。今日はデートなんです。」
A「うそー。いいな。もしかして、この前言ってたパーティーで出会った彼氏?」
沙「そう年収1000万の会社役員。海外の有名大卒のエリートだよ。聞いたら、友達に紹介してもいいって。」
B「いいな。私にも紹介してよ。」
――『会社役員、年収1000万!?』私の中の警戒アンテナがピコンと立った。
「ねえ、沙耶、その人、まさか猫飼ってないよね。」
「やだー、沼田さん、何を言ってるんですか?」
「い、いや、何でもないけど……。」と私は気になり、佐々木部長に目配せする。
そんなわけない。そんなわけないと。
ちょうどその時、終業のアラームというか音楽が鳴った。
🎵ホ~タ~ルの~
佐々木部長は音が鳴ると同時に席を立った。カバンに荷物を詰め込むとさっさと帰ってしまった。
――わたしって、曲がりなりにも彼女なんだよね。違うのかな?部長を追って、首を捻りたくもなるよ。
A「先輩、それじゃ私も、お先に失礼します。」
B「私も、用事があるので。」
C「さようなら」
皆が、帰っていくのを見送りながら、涙が出てきそうになる。
「うーー、今日も私一人で、残業なの?」
カタカタと、ただひたすらパソコンを叩く音だけが響いている。なんかナーバスな気分。
あたりは、もうすっかり暗くなっていた。
時刻は7時30分を指していた。
そうだよね。どこかで聞いた。
「ただ一回寝ただけで彼女になったと思うな」って。
私の場合は、寝てもいないし、ご飯と餃子を食べただけだけど。
AI彼氏だったら、やさしく教えてくれるのだろうか。慰めたり、褒めてくれたり、いいな、沙耶は。まともな彼氏で。私の彼氏は、彼氏なのかも分からないし。
「佐々木部長はそりゃあ、モテるだろうな。」
『モテるだろうじゃない。モテるに決まっているのだよ。しっかりしなさいよ、私。あなたが付き合える相手じゃないわ。』と必死に自分に言い聞かせている自分自身が笑えてきた。
それに引き換え、私はただのモテない女32歳なのだ。
「はあ、虚しい……。」
ガチャと、
突然そう思っている所へ、誰かのオフィスの扉を開ける音がした。
「なんだ、まだいたのか」と。
つづく
いつもの見慣れたオフィス。
私の席の向かい側には、あの佐々木部長がいる。
トラブルが発生したのだ。
ふと目をやる佐々木部長は、どこからどう見てもクールビューティー。その背中には、ピューピューと吹雪が吹き付けているのがわかる。
おっと、油断しちゃいけない。時々、めっぽう鋭い雪の塊が私の顔面目がけて飛んでくるのだ。
ピコン。
メールの通知音が鳴った。
私のパソコンに飛んできたメール内容は、今月の検収の見直しについてだった。
相変わらず、私の弱点をこれでもかとついてくる指摘に、アイアンハートを自認している私でも、心が折れてしまいそうな文面だった。
トホホ……。
これで、今日も残業確定。ラブちゃんごめんよ。ママは少し遅くなる。
たぶん、昨日のあの光景は、AIによる残像だったのだ。そう思わなければやってられない。
佐々木部長と無事に顔合わせを果たした私は、そのあと佐々木部長のマンションにお邪魔して、モモンガ(猫)さんとラブちゃんが2匹喧嘩をしているのを横で眺めながら、佐々木部長の手作りした山盛り餃子を無言でムシャムシャとひたすら食べて帰ってきたのだ。
佐々木部長のお部屋にお邪魔したときは、南国バリのリゾート地を思い起こさせる(行ったことはないが)とてもエロティックでいい匂いがしたというのに、最後には部屋全体が餃子のニンニク臭が充満していた。あの後、部長はどうしたのだろうか?換気をして部屋全体に香水でも、振りかけたのだろうか。
今日、すれ違う時の佐々木部長はとても、シトラス系の爽やかないい匂いがした。
今朝の佐々木部長は、どんな顔で起きたのだろうか?きっと爽やかに6時半に起きて、軽い運動をした後にシャワーを浴びて、パンに目玉焼きにコーヒー、いや、それともご飯派だろうか?まあ、どっちでもいいが、朝食を食べた後に着替えて、あの綺麗な真っ白いマンションのキラキラとしたエントランスを颯爽と降りてきたに違いない。
少しはにかんだ時の真っ白な歯がきらりと光るのが見えたような気がしたが、現実の佐々木部長はというと、眼鏡越しでも分かるほどのギラリと刺さる鋭い目を私に向けていた。
『ひい――。ごめんなさい。変な妄想は致しません。すぐに案件に取り掛かります。』
「沼田、それの提出、分かってるとは思うが、今日までだぞ……」
「はい、すいません、すぐ取り掛かります。」
私は、焦って溜息をついた。昨日見た佐々木部長とは違い過ぎる。昨日見たのは、そう、きっと、双子なのだ。
クルッ、
「もう、ちょっと、どういうこと?これは、沙耶に任せたはずなのに、……!」
椅子を回し、同僚の喜多山沙耶に体を向ける。すると、沙耶は私の顔の前で、可愛く手を合わせていた。もう、部長のいる前だからって、態度が露骨に違い過ぎる。
沙「すみません、沼田さん。今日はデートなんです。」
A「うそー。いいな。もしかして、この前言ってたパーティーで出会った彼氏?」
沙「そう年収1000万の会社役員。海外の有名大卒のエリートだよ。聞いたら、友達に紹介してもいいって。」
B「いいな。私にも紹介してよ。」
――『会社役員、年収1000万!?』私の中の警戒アンテナがピコンと立った。
「ねえ、沙耶、その人、まさか猫飼ってないよね。」
「やだー、沼田さん、何を言ってるんですか?」
「い、いや、何でもないけど……。」と私は気になり、佐々木部長に目配せする。
そんなわけない。そんなわけないと。
ちょうどその時、終業のアラームというか音楽が鳴った。
🎵ホ~タ~ルの~
佐々木部長は音が鳴ると同時に席を立った。カバンに荷物を詰め込むとさっさと帰ってしまった。
――わたしって、曲がりなりにも彼女なんだよね。違うのかな?部長を追って、首を捻りたくもなるよ。
A「先輩、それじゃ私も、お先に失礼します。」
B「私も、用事があるので。」
C「さようなら」
皆が、帰っていくのを見送りながら、涙が出てきそうになる。
「うーー、今日も私一人で、残業なの?」
カタカタと、ただひたすらパソコンを叩く音だけが響いている。なんかナーバスな気分。
あたりは、もうすっかり暗くなっていた。
時刻は7時30分を指していた。
そうだよね。どこかで聞いた。
「ただ一回寝ただけで彼女になったと思うな」って。
私の場合は、寝てもいないし、ご飯と餃子を食べただけだけど。
AI彼氏だったら、やさしく教えてくれるのだろうか。慰めたり、褒めてくれたり、いいな、沙耶は。まともな彼氏で。私の彼氏は、彼氏なのかも分からないし。
「佐々木部長はそりゃあ、モテるだろうな。」
『モテるだろうじゃない。モテるに決まっているのだよ。しっかりしなさいよ、私。あなたが付き合える相手じゃないわ。』と必死に自分に言い聞かせている自分自身が笑えてきた。
それに引き換え、私はただのモテない女32歳なのだ。
「はあ、虚しい……。」
ガチャと、
突然そう思っている所へ、誰かのオフィスの扉を開ける音がした。
「なんだ、まだいたのか」と。
つづく
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