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15 海底二万マイルとケーキセット
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AIが台頭した時代、コールセンターなんて、なくなると言われている。
ネットを見ても、友達との会話もそんなのことばかり。
私だって、心底、面倒なクレームの電話は、AIにしてもらいたい。それに、今は、私が、クレームを入れたいくらいだ。
「ようやく外出の準備ができたのに、キャンセルの連絡なんて……ラブちゃん、酷いと思わない?昨日デートのために新しいワンピースを買ってきたのよ。デートなんて殆ど経験ないから、凄い悩んだのに。」
仕事が入ったとの突然の連絡に、LINEで、『何かあったの?』と入れてみたが部長が見た形跡はなく、未だ既読スルーだった。
鴨居に掛けているユニクロで買った茶色い裾の長いワンピースを見ながら、私は深いため息をついた。寒風に強いパンツが良かったのか、女の子らしいふわりとしたスカートが良かったのか。
「冬だからね、スカートだと寒いのかな……」
ラブちゃんはワンピースの長い裾が揺れる脇で、壁に向かって爪を研いでいた。
「わっ、ラブちゃん、ワンピースはやめてね……」
急いで、ワンピースを手に持つ。おろし立てのワンピースは、まだ新品の匂いがしていた。
「これは、ここでクヨクヨしていないで、行ってこい……、ということかな。ラブちゃん……」
急に出来た空き時間に、何をしようかと考えた。お昼を食べたテーブルの上には、今日返そうと思っていた本が置いてあった。
今日のお昼は、スパゲッティーを食べた。我ながら、上手くできたと思う。もちろんピーマンたっぷりの入ったスパゲッティだった。ケチャップの酸味とピーマン苦みが歯磨きをしたというのに、今だに口の中で主張をしていた。
次は、甘みが欲しいと。
「今日は、みぞれっぽいな。」
町へ出掛けるときは、ここから少しで歩いていけるので出かけるには、丁度いい距離なのだ。だだし、スーパーへは、少し遠いので車が必須なのだが。
みぞれは滑るので、足元注意だ。何回か転んだことがある。転んだら悲惨。きれいな服が汚れてしまう。足元を見ながら、注意深く歩く。交差点を行き交う人は、スマホを片手に、辺りをキョロキョロしながら歩いてた。
観光客だろうか。信号機を渡ると向こう側で、転んでいる人が見えた。
だから、言わんこっちゃない。
「今日はこの季節にしては、暖かいな……。馴染みの喫茶店に行こうかな。」
観光客は、暖かいから油断していたのだろう。表通りから、裏通りに入る。少し狭い通りの日陰の空間に、建物が立ち並んでいる。その空間の一角の扉を開いた。
チャリン、
「いらっしゃいませ。」
この喫茶店は、読書をするための喫茶店で、両脇に所狭しと本棚が並んでいる。マスターが淹れた暖かいコーヒーを飲みながら、本が読めるというこの場所は、読書好きがたくさん集まる隠れた名店だった。
茶色い木製の壁に、キナリのクロス。マスターのいれたオリジナルブレンドを飲みながら、本を開く。開いた本はもちろん『海底2万マイル』だった。
「アキちゃん、珍しいね。SFなんて……」
「うん、本棚を整理してたら、出てきたのよね。」
「ずいぶんと古い本だね……」
喫茶店のマスターとは、高校の同級生だった。
「あの奥の一角、どうしたの?もしかして、予約席?」
「うん、そうだよ。」
「珍しいわね。この時間に予約なんて……」
それより、ケーキが待ち遠しい。
ここの、チーズケーキが絶品だった。
大きな口を開けて食べたいところだが、直ぐ無くなってしまうのがもったいなく、ちびちび本を読みながら少しずつ食べる。このじっくり流れる時間が、好きなのだ。ここにくるお客さんもそうだと思う。もう少し向こう側に行った所にも、同じようなケーキとコーヒーを出す喫茶店があるが、そこは賑やか過ぎて、回転率も速く私はどうも苦手だった。
LINEが入った。
『ごめん、今日はやっぱり無理かも。』
モモンガさんにそっくりな猫のスタンプが、その下でワンワンと泣いていた。
「部長って、こんなスタンプ流すんだ。」
意外な部長の一面が知れて、私は、なんか嬉しくなって、同じようにラブちゃんそっくりなスタンプを流してやった。
『会いたいよ。でも、仕事なら、残念だけど使用がないよ。また明日会おう。』
ケーキが食べ終わったころには、喫茶店は、満杯なほどになっていた。奥に目を向けるが、まだ来る形跡はない。
「あの席、遅いね。」
「かれこれ1時間近く待っているんだけどね。どうしよう。一時間過ぎると、キャンセル扱いになるんだけど……」
マスターは忙しそうに、ケーキを運んでいた。
私は、御暇することにした。混んでいる空間は苦手なのだ。ゆっくりするために来ているんだから、騒がしいと休んだ気がしない。
つづく
ネットを見ても、友達との会話もそんなのことばかり。
私だって、心底、面倒なクレームの電話は、AIにしてもらいたい。それに、今は、私が、クレームを入れたいくらいだ。
「ようやく外出の準備ができたのに、キャンセルの連絡なんて……ラブちゃん、酷いと思わない?昨日デートのために新しいワンピースを買ってきたのよ。デートなんて殆ど経験ないから、凄い悩んだのに。」
仕事が入ったとの突然の連絡に、LINEで、『何かあったの?』と入れてみたが部長が見た形跡はなく、未だ既読スルーだった。
鴨居に掛けているユニクロで買った茶色い裾の長いワンピースを見ながら、私は深いため息をついた。寒風に強いパンツが良かったのか、女の子らしいふわりとしたスカートが良かったのか。
「冬だからね、スカートだと寒いのかな……」
ラブちゃんはワンピースの長い裾が揺れる脇で、壁に向かって爪を研いでいた。
「わっ、ラブちゃん、ワンピースはやめてね……」
急いで、ワンピースを手に持つ。おろし立てのワンピースは、まだ新品の匂いがしていた。
「これは、ここでクヨクヨしていないで、行ってこい……、ということかな。ラブちゃん……」
急に出来た空き時間に、何をしようかと考えた。お昼を食べたテーブルの上には、今日返そうと思っていた本が置いてあった。
今日のお昼は、スパゲッティーを食べた。我ながら、上手くできたと思う。もちろんピーマンたっぷりの入ったスパゲッティだった。ケチャップの酸味とピーマン苦みが歯磨きをしたというのに、今だに口の中で主張をしていた。
次は、甘みが欲しいと。
「今日は、みぞれっぽいな。」
町へ出掛けるときは、ここから少しで歩いていけるので出かけるには、丁度いい距離なのだ。だだし、スーパーへは、少し遠いので車が必須なのだが。
みぞれは滑るので、足元注意だ。何回か転んだことがある。転んだら悲惨。きれいな服が汚れてしまう。足元を見ながら、注意深く歩く。交差点を行き交う人は、スマホを片手に、辺りをキョロキョロしながら歩いてた。
観光客だろうか。信号機を渡ると向こう側で、転んでいる人が見えた。
だから、言わんこっちゃない。
「今日はこの季節にしては、暖かいな……。馴染みの喫茶店に行こうかな。」
観光客は、暖かいから油断していたのだろう。表通りから、裏通りに入る。少し狭い通りの日陰の空間に、建物が立ち並んでいる。その空間の一角の扉を開いた。
チャリン、
「いらっしゃいませ。」
この喫茶店は、読書をするための喫茶店で、両脇に所狭しと本棚が並んでいる。マスターが淹れた暖かいコーヒーを飲みながら、本が読めるというこの場所は、読書好きがたくさん集まる隠れた名店だった。
茶色い木製の壁に、キナリのクロス。マスターのいれたオリジナルブレンドを飲みながら、本を開く。開いた本はもちろん『海底2万マイル』だった。
「アキちゃん、珍しいね。SFなんて……」
「うん、本棚を整理してたら、出てきたのよね。」
「ずいぶんと古い本だね……」
喫茶店のマスターとは、高校の同級生だった。
「あの奥の一角、どうしたの?もしかして、予約席?」
「うん、そうだよ。」
「珍しいわね。この時間に予約なんて……」
それより、ケーキが待ち遠しい。
ここの、チーズケーキが絶品だった。
大きな口を開けて食べたいところだが、直ぐ無くなってしまうのがもったいなく、ちびちび本を読みながら少しずつ食べる。このじっくり流れる時間が、好きなのだ。ここにくるお客さんもそうだと思う。もう少し向こう側に行った所にも、同じようなケーキとコーヒーを出す喫茶店があるが、そこは賑やか過ぎて、回転率も速く私はどうも苦手だった。
LINEが入った。
『ごめん、今日はやっぱり無理かも。』
モモンガさんにそっくりな猫のスタンプが、その下でワンワンと泣いていた。
「部長って、こんなスタンプ流すんだ。」
意外な部長の一面が知れて、私は、なんか嬉しくなって、同じようにラブちゃんそっくりなスタンプを流してやった。
『会いたいよ。でも、仕事なら、残念だけど使用がないよ。また明日会おう。』
ケーキが食べ終わったころには、喫茶店は、満杯なほどになっていた。奥に目を向けるが、まだ来る形跡はない。
「あの席、遅いね。」
「かれこれ1時間近く待っているんだけどね。どうしよう。一時間過ぎると、キャンセル扱いになるんだけど……」
マスターは忙しそうに、ケーキを運んでいた。
私は、御暇することにした。混んでいる空間は苦手なのだ。ゆっくりするために来ているんだから、騒がしいと休んだ気がしない。
つづく
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