お見合い相手がAIかと思ったら、慇懃部長でしたが、なぜか今、溺愛されています

加茂茶 芽衣

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17 雪の足跡と栞の行く方

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いつもの喫茶店。

目前には、注文したばかりのコーヒーとチーズケーキがあった。まわりは、茶色い壁と『海底二万マイル』と見覚えのある栞に、コースターと馴染みの物ばかりで、心地良い音楽が流れていた。

佐々木部長は、先週出張から帰ってきたばかりで、喜多山沙耶は、それよりも2日前には会社に出勤していた。

オフィスは、相変わらず噂話で忙しい。人の噂も七十五日というから、そのうち収まるだろう。イチイチ相手をするのも精神的に面倒で疲れる。誰かが燃料を投下しなければ収まらないと思っていた。

佐々木部長とは、会えない日にも電話で話しているし。

あの幼い頃の思い出の部長と今の大人になった彼を思い浮かべながら、ケーキを食べる。

ほっぺたが落ちそうなくらい甘く美味しく感じた。


そこへ、見覚えのある人物が、見覚えのある人物を伴って現れた。

「あれ、沙耶?えっ?うそでしょ?どうして?」

隣で、エスコートをしながら喫茶店の扉を潜って現れたのは、黒いロングコートを羽織った佐々木部長だった。手元の黒毛糸の手袋と脱いだばかりの茶系5色のマフラーが外の寒さを周囲に伝える。

私は、信じられない思いで一杯だった。

だって、昨日の夜も電話越しに「好きだ」って言ってくれたじゃない。

沙耶は、冬だというのに、丈の短いスカートを穿いている。こんな雪の吹雪く最中に、よくそんなものが穿けるものだと、逆に感心してしまう。私なら、この時期にこんな洋服の選択肢はないもの。足首だけのブーツがキラリと光り、まるで私を威嚇しているみたいだった。

──どうして……

胸がキリキリと痛む。

佐々木部長は、私など全く目に入らないとでもいうように、私の座るテーブルの脇を抜け、するすると奥へと進んでいった。

マスターが、親密そうに2人で話し合うテーブルへと、注文を受けに回り込む。メニューを見ながら、向かい合う2人は微笑んでいた。

「何にいたしましょうか?」

「私は、アイスコーヒーとチーズケーキセットで。」

「俺は、コーヒーで。」

微かに、私のいるテーブルまで2人の話す声が聞こえていた。

寒い中に、なんら迷いもなくアイスコーヒーを頼む感覚が、私には分からない。まだ20代前半の独特な感性なのか、若さゆえの性なのか。そんなに身も心もクールになりたいのか。

沙耶の声がした。

「私、喉がすごく渇いていたんですよね。部長、今日は、買い物に付き合って頂いて、ありがとうございました。私、このお店、知りませんでした。」

「いや、それくらい別に、沙耶のためだからね。」

私は、聞いている内に、心臓がドキドキし、胃のあたりがムカムカしてきた。そう言われた沙耶の嬉しそうな顔が見えた。

「部長が選んだネックレス、すごくセンスいいです。」

「そんな事言われると、うれしいな。」

我慢ならない。目前の『海底二万マイル』を手に取り、椅子から立ち上がる。

『沙耶のためとは、一体どういうこと?
昨日、電話した時に、明日は大事な用事があると言ったのは、このためだったの?』

私の頭の中は、いろんな感情でごった返しになっていた。

ツカツカとテーブル席に詰め寄り、『海底二万マイル』を彼の目の前に差し出す。

「今日が、沙耶さんとデートの日なんて知りませんでした。この本は、お返しします。」

何が起きているのか分からないとでもいうように、呆然としている彼に本を叩きつけ、私は喫茶店を後にした。

「コーヒーとチーズケーキ食べ損ねたわ。今日も凄く美味しそうだったのに。あの2人のせいよ。」

足を進める度に、涙が溢れてきたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。早く、この場から立ち去ってしまいたかった。

雪で白くなった小道を進んで行く。そこは、まだ誰も通ったことない雪道だった、ブーツ底の白い足跡が通った道伝いについていた。

「私ってなんて馬鹿なんだろう。これじゃ、本当に私がおじゃま虫じゃないか。」


つづく




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