婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

こもど

文字の大きさ
3 / 35

第3話 家族の証言

第3話 家族の証言

王宮の大広間。

カリスタが去ったあとも、舞踏会のざわめきは収まらなかった。

だがそのざわめきは、すぐに別の空気へと変わっていく。

「やはり……あの噂は本当だったのか」

「妹に毒を盛るなど、恐ろしい女だ」

「公爵家の令嬢でも、あそこまで落ちるとは……」

人は一度“悪女”と決めつけると、そこから先は早い。

証拠など必要ない。

噂が真実になり、真実が物語になる。

ディオン王太子は満足そうにワイングラスを掲げていた。

「皆の者」

「今夜は祝いの夜だ」

そして隣に立つヴァネッサの肩を抱く。

「この哀れな少女は、長年姉に苦しめられてきた」

ヴァネッサは俯いた。

肩を震わせ、必死に涙を堪える。

その姿は、まさに“悲劇の令嬢”だった。

「……もういいのです、殿下」

小さく呟く。

「お姉様のことは……忘れます」

それを聞いた貴婦人たちが一斉に感嘆の声を上げた。

「なんて優しい子なの」

「自分を虐げた姉を許すなんて」

ディオンは大きく頷く。

「そうだ」

「ヴァネッサは心が美しい」

そして声を張り上げた。

「このような令嬢こそ、王太子妃に相応しい!」

拍手が起きる。

誰も異論は言わない。

王太子の言葉は、この国ではそれだけ重い。

その時だった。

「殿下」

低い声が響く。

人々が振り向く。

そこに立っていたのは、伯爵ヴェルナー。

ヴァネッサとカリスタの義父である。

灰色の髪に厳しい顔立ち。

貴族としての威厳を漂わせていた。

その隣には妻のマルセルもいる。

ディオンは頷いた。

「伯爵」

「ちょうどよい」

「皆に真実を話してやれ」

ヴェルナーはゆっくりと頷いた。

そして大広間を見渡す。

「皆様」

重々しい声。

「娘カリスタの件について……」

一度言葉を切る。

「私は父として、大変心を痛めております」

その言葉に貴族たちが息を呑む。

ヴェルナーは続ける。

「ですが」

「残念ながら」

「殿下のおっしゃる通りなのです」

会場がざわめく。

「何と……」

「父親が認めたのか」

ヴェルナーは深く頭を下げた。

「カリスタは昔から……」

「ヴァネッサを嫌っておりました」

ヴァネッサが震えた。

「お父様……もういいのです……」

涙声。

ヴェルナーは首を振る。

「いいや」

「もう隠す必要はない」

そして言った。

「ヴァネッサの食事に毒が混入していたのは事実です」

どよめきが広がる。

「毒……!」

「本当だったのか」

マルセルがハンカチを目に当てた。

「私たちも信じたくありませんでした……」

涙ぐむ。

「ですが、あの子は昔から嫉妬深く……」

「ヴァネッサが可愛がられることを嫌っていたのです」

貴族たちの表情が変わる。

疑いから確信へ。

そして軽蔑へ。

ディオンは腕を組んだ。

「聞いたか」

「これが真実だ」

ヴァネッサは必死に首を振る。

「違います……!」

「お姉様はそんな人では……」

ディオンは彼女を抱き寄せた。

「もういい」

「お前は優しすぎる」

ヴァネッサはその胸に顔を埋めた。

だがその瞬間。

彼女の唇の端が、ほんの僅かに上がった。

誰も気づかない。

ただ一人を除いて。

会場の端。

柱の陰。

そこに一人の男が立っていた。

黒い礼装。

背の高い体。

冷たい金色の瞳。

男は静かにその光景を見ていた。

ヴァネッサの演技。

伯爵夫妻の証言。

王太子の断罪。

すべてを。

そして小さく呟く。

「……なるほど」

その声は低かった。

「これがこの国のやり方か」

男の隣に立つ護衛が小声で言う。

「殿下」

「そろそろお戻りを」

男は頷いた。

「そうだな」

そしてもう一度、舞踏会を見た。

そこでは王太子がヴァネッサの手を取っていた。

「安心しろ」

「もうお前を苦しめる者はいない」

ヴァネッサは涙を流す。

「殿下……」

完璧な芝居だった。

だが男は知っている。

この舞踏会で、一番興味深い人物は。

すでにここにはいない。

男は小さく笑った。

「面白い」

そして言う。

「カリスタ・ヴァレリオン」

その名を口にした。

「ようやく見つけた」
感想 0

あなたにおすすめの小説

性格が嫌いだと言われ婚約破棄をしました

クロユキ
恋愛
エリック・フィゼリ子息子爵とキャロル・ラシリア令嬢子爵は親同士で決めた婚約で、エリックは不満があった。 十五歳になって突然婚約者を決められエリックは不満だった。婚約者のキャロルは大人しい性格で目立たない彼女がイヤだった。十六歳になったエリックには付き合っている彼女が出来た。 我慢の限界に来たエリックはキャロルと婚約破棄をする事に決めた。 誤字脱字があります不定期ですがよろしくお願いします。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

何度時間を戻しても婚約破棄を言い渡す婚約者の愛を諦めて最後に時間を戻したら、何故か溺愛されました

海咲雪
恋愛
「ロイド様、今回も愛しては下さらないのですね」 「聖女」と呼ばれている私の妹リアーナ・フィオールの能力は、「モノの時間を戻せる」というもの。 姉の私ティアナ・フィオールには、何の能力もない・・・そう皆に思われている。 しかし、実際は違う。 私の能力は、「自身の記憶を保持したまま、世界の時間を戻せる」。 つまり、過去にのみタイムリープ出来るのだ。 その能力を振り絞って、最後に10年前に戻った。 今度は婚約者の愛を求めずに、自分自身の幸せを掴むために。 「ティアナ、何度も言うが私は君の妹には興味がない。私が興味があるのは、君だけだ」 「ティアナ、いつまでも愛しているよ」 「君は私の秘密など知らなくていい」 何故、急に私を愛するのですか? 【登場人物】 ティアナ・フィオール・・・フィオール公爵家の長女。リアーナの姉。「自身の記憶を保持したまま、世界の時間を戻せる」能力を持つが六回目のタイムリープで全ての力を使い切る。 ロイド・エルホルム・・・ヴィルナード国の第一王子。能力は「---------------」。 リアーナ・フィオール・・・フィオール公爵家の次女。ティアナの妹。「モノの時間を戻せる」能力を持つが力が弱く、数時間程しか戻せない。 ヴィーク・アルレイド・・・アルレイド公爵家の長男。ティアナに自身の能力を明かす。しかし、実の能力は・・・?

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓
恋愛
 子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。  激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。  婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。  婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。  翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

初夜に放置された花嫁は、不誠実な男を許さない~不誠実な方とはお別れして、誠実な方と幸せになります~

明衣令央
恋愛
初夜に新郎は元婚約者の元へと走り、放置された侯爵令嬢セシリア。 悲しみよりも屈辱と怒りを覚えた彼女は、その日のうちに父に連絡して実家に帰り、結婚相手に婚姻無効叩きつけた。 セシリアを軽んじた新郎と元婚約者は、社交界の制裁を受けることになる。 追い詰められた元婚約者の男爵家が放った刺客に襲われそうになったセシリアを救ったのは、誠実で不器用な第三騎士団副隊長レオン。 「放置どころか、一晩中、離すつもりはないよ」 初夜から始まったセシリアの物語は、やがて前回とは違う初夜へと辿り着く――。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。