収納魔法になりました

αラブッ

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2話 死後の村 ① 旅の目的地

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「「死後の村ぁ!?」」
 息ぴったりだった。
「死後の世界やらそういう感じではなく?」
 続けて、商人風の男に率直な質問する。
「はぁ··········そうです。さっきからそう言ってるでしょう。"死後の村"と。
 ····················何回繰り返すんですかこの会話」
「もっかいやる? 死後の··········」
「もういいです!」
 と商人風の男がキレたところで一旦終わっておこう。商人を怒らせたら恐いからな。··········多分。
「一応言っておくが一旦だからといってまた始めるとは限らないぞ!」
「「一体なんの話なのよ(ですか!)」」
 おっと、今度はそっちがハモる番か。
「いや、なんでも?」
 30秒置きぐらいに死後の村ぁ!? とかれこれ3分間ぐらい続けてたので話が全く進んでいない。
 ホントになんで死後の"村"なんだろう。そしてなんで死後なんだろう。全く不思議だ。
 といったところで商人風の男が
「あのー」
 と2人? に
「説明···············要ります?」
「当然」
「即答ですね」
 何を当たり前のことを聞いているのだろうか。この男は。まだ村の名前しか教えられてないのだが。
「何を当たり前のことを? みたいな顔をされても困るんですが。····················顔、見えないですけど」
 男は呆れ気味に言った。コイツ、エスパーか? 
「何でわかったんだ? 凄いな、お前」
「酷ぉ!?」
 からかってみると、面白いくらいに反応するのでつい興が乗ってしまう。
「はぁ··········このくらいにしなさい。商人をからかいに来た訳ではないのよ」
 ··········そりゃそうだ。
「すまん、つい··········」
「つい··········でからかわれてたんですか、僕!?」
 なかなかにいじりがいのあるキャラだ。それにここ最近はラフィーとしか喋ってなかったからな。しょうがないっちゃあ··········しょうがない··········よな。うん、しょうがない、しょうがない。
「そこまでにしときなさい」
「「すみませんでした」」
 威圧的な言葉に2人して咄嗟に謝ってしまった。
「で、その死後の村って言うのはどんな村なのよ」
 と改めて聞く。この人がその情報を持っていたら良いが···············
 そう考えていると、彼はハッと何か思い出したような声を出し、「あのー」と言いずらそうに言った。
「何かしら」
「····················今更なんですけど··········商人に無償で情報を提供しろというのは都合が良すぎるのでは?」
「「は?」」
 ······························もっともだ。つい、は? と言ってしまったが、そういえばそうだった。コイツは商人だった。
「こっ···············ここここここここここれでも商人です! ひ、引く気はありません!」
 2人して咄嗟に、は? と言ってしまったせいか、めちゃくちゃビビらせてしまった。さながら産まれたての子鹿··········ちょっと脅したら引きそうなんですが。
 ゴクリ。
「やめときなさい。あなたがやりたいことなんて言わなくても分かるわよ」
 oh··········当然の事ながら注意されてしまった。じゃあやめとこ。
「?」
 当然意味の分かっていない商人の男は頭にはてなマークを浮かべていた。
「そうだな··········商人だもんな。じゃあアイツらから剥ぎ取った防具とかを売るか」
 ラフィーは一瞬目を曇らせるも、
「そうね、アレ出しなさい」
 なんでもないように振舞った。
「おし、ほれ」
 ドサドサ、ガチャガチャと盗賊の持っていた防具や武器などポーション以外のもの全てを出した。その武具らには統一性はなく、幾つか多少高そうなものはあるものの比較的安価で購入できるものばかりではある。
 なので、正直金額には期待していない。そもそも買い取ってもらえるかすら怪しいからな。盗賊が使っていたものなんて俺だったら不吉すぎて使いたくないな。
 男はその武具の山の前に座り込んでそれを覗き込み、その中のひとつを無造作に取り出してじっくり鑑定しながら言った。
「これは?」
「朝方だったな··········盗賊に襲われたんだよ。俺たち。その時のやつ」
「ホントですか!?」
 と本気で驚く商人の男。
 なぜこんなに驚くのかというと、単純に襲われたということを心配してくれるということもあるだろう。
 だが─────
 この世界、盗賊というものは意外にも少ない。
 それは人々が"獣"と呼ぶ謎の生物が跋扈しているからだ。その"獣"とかいうやつは人の姿をしていたり、動物に擬態していたりする。
 それらから身を守る為に人々は壁を建てた。
 壁というものは非常に金が掛かる。強固な壁であればあるほど金が掛かる。普通の村だったり町だと、大抵の場合は近隣の国と併合して一緒に囲ったり、その国が金を出したりして街を囲う。
 ただ、盗賊となってはそうはいかない。洞窟やら洞穴やら··········そういう場所をアジトにする場合も少なくないが、それにも限りがある。しかも外部から丸見えだったり逆に行くのが不可能だったりする。
 だからといって壁を建てるにも資金が足りない。
 そんなこんなでこの世界は盗賊というものが少なかったりするのだ。
 例外はある。国のお偉いさんが私的に隠し持つ私兵のようなもの。他は単純に強い勢力の盗賊だとか。
 そういう強い盗賊は防衛網を敷いたり、見張りを置いたりしていたりするらしい。
 ···············まあ、簡単に言うとこの世界の盗賊は2つに分類できる。色んな意味で実力があって生き残っている盗賊、そして良い土地を見つけて運良く生き残った盗賊。その真ん中は無い。
 ─────と師匠が言っていた。
 襲われる方が逆に運がいいとまで密かに言われる程らしい。·························運いいわけあるか。大凶だよ、大凶。
「襲われたのはマジだよ」
 と爽やかな感じで言ってみる。
 俺達を襲ったヤツらが前者だったのか後者だったのかは3人とももうこの世に居ないのでわからんが、まあ、気にする事でもないだろう。
「それで、大丈夫だったんですか!?」
 と俺達以上に慌てる男。優しいんだな、コイツ。
「ええ。殺したわ、3人とも····················」
 罪悪感や後悔、そこからくる恐怖がその瞳からは見て取れた。それを隠そうとしていることも。
 そこに敏感に反応して明らかに反応が変わる。流石は商人といったところだ。他人の目をよく見ている。
「! ··········すみません、配慮が足りませんでした」
 だがホントにコイツは優しいらしい。商人として大丈夫なんだろうか。騙されたりしないだろうか。
 その言葉からなのか、彼女の表情が少し和らいだ。
「ありがとう··········心配なんかいいのよ」
 そう言って彼女は嫌になるほど優しく微笑んだ。
「なら··········いい··········ですけど··········」
 とぎこちなく言った。ポケットから小さい虫メガネのような道具を取り出した。
「虫メガネ?」
 俺が思わずそう言うと
「ご存知でしたか。ここから更に西にガラス工芸が盛んな国がありますでしょう?」
 と俺達が出てきた森とは反対の方向を指した。
「詳しくはわからんが、そうなのか」
 虫メガネの事は多少知ってはいるが、正味な話詳しくは知らないものではあった。知ってる物とちょっと違うし。それに世界が違うし。
「··········そうでしたか。ええ、その国の壁はそれはもう綺麗でしてね、観光地としても旅人や我々商人の間でも有名なんです」
 と取り出したソレを覗きはじめた。
 観光地··········そんなものがあるのか。なら··········
「商人も観光をするとか?」
「プッ··········ち、違いますよ··········ハハハハハハ!」
 盛大に笑われた。そんなにおかしな事を言ったか? 
「違うのか」
 と言うと、ラフィーがため息をついた。
「当たり前じゃない。話の流れ的にそうでしょう」
 ようやく落ち着いた商人の男は
「す、すみません··········昔からツボが浅くて」
 笑ってスッキリしたかのように爽やかに言った。それが案外イケメンで、少しムカつきつつ話を戻した。
「そんな事よりさ、その虫メガネを求めてその国に行くんだろ?」
 とわざとらしく言い直した。
「ええ、正しくはムシ・マガーナと言うんですが、大抵の商人はこれを買いに行くんです。
 あっ、ちなみにムシという人が開発したんですよ」
 と人差し指を立てて言った。さすが商人。詳しいな。
「だからムシなのね」
 納得したようにラフィーが言った。
「ええ、なのであの国で虫は金運の象徴とされているんです。ほら」
 と虫メガネ──もといムシ・マガーナの縁の部分を指さしてそう言った。指された箇所を見てみると、確かに虫のようなものの装飾が施されていた。
「へぇ」
 さて、と立ち上がる男。俺達と会話しながら鑑定をしており、それが今しがた終わったらしい。
「それで、代金は『死後の村』についてで良かったですよね」
 と言いながら彼は収納魔法で鑑定済みのものを仕舞った。
「··········」
 他人の使う収納魔法がやけに気になる。魔法ってやっぱり生き物じゃないよな。じゃあ俺って何なんだ? 
 でも······························
「そうよ。··········そんなことより起きなさい」
「はぁっ!?」
 呪いでも込めたかのような鋭い一言に思わず奇声を上げてしまった。
 びっくりしたぁ··········。つい癖で考え込んでたわ。
「ど、どどどどうしたんですか!?」
「あー··········、いや。なんでも。続けてくれ」
 俺のいきなりの奇声に驚いてタジタジになる男。そして羞恥心でタジタジになる俺。··········うわぁ。
 ──客観的に見たら真面目な話の中でいきなり奇声をあげた奴だもんなぁ。恥ずっ! 
 もう顔真っ赤っかだよ! 顔ないけど! 
「は、はい」
 もうドン引きじゃん! 恥ずかしい! 殺してくれ! と心の中でバタバタ転がり回っていると、
「ちょっと静かにしなさい」
「「はい!」」
 そう言われると2人して黙ってしまった。言われたの絶対俺だけだよなぁ。チラッと彼のほうを見てみると、めっちゃ気まずそうにしている。··········かわいそうに。
「すまんすまん、気に病まないでくれ。今のは俺だ」
「そうよ。コイツに言ったのよ」
 そう言って収納魔法オレを開き、指をさした。
「そ、そうですか··········。じゃ、じゃあ」
 と言うとコホン、とわざとらしく咳をして改まり話を続けた。
「えー、『死後の村』についてでしたよね」
「ええ、そうよ」
「そうだな」
 2人揃って彼を急かすような相槌をうつ。そして彼も急かされて、さらに申し訳なさそうに話始めた。
「え、えー、この武具とその他諸々の価値からすると、村までの行き方までにしかならないんですが··········」
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