収納魔法になりました

αラブッ

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1話 旅のお供

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  国を出てもう半月が過ぎた。今は林の中にいる。
「ほんとに何でもいいから早くどこかにつかないかしら··········」
 また言ってるよこの人。そんなに都合よく着く訳ないじゃん··········
 俺は何故か収納魔法になった元人間。これといった名前は無い。"収納魔法"とか"あんた"とか色々呼ばれてる。
 俺の主人ラフィーは··········俺は主人と認めてないからな! 認めてないからな! ··········コホン。
 ··········で、俺の主人様であるラフィーが林の中をまっすぐ歩いていると、開けた所に出た。ここ2、3日は薄暗かったので開けたところに出ると多少の目眩がするものの、やっぱり陽の光は落ち着くものだ。
 するとラフィーは立ち止まった。
「? ··········どうした?」
「··········そろそろ疲れたわね。ここらで休憩にしましょうか」
 疲れたらしい。やっと俺の出番か。
「あんたテリュト出しなさい」
「はいはい、ちょい待ちちょい待ち」
 と収納魔法である俺自ら魔法陣を展開する。ちなみに今俺に収納されているものの大半がラフィーが家出をする時に家から掻っ攫ってきたものだ。半ば強盗じゃねーか。家の人、ごめんね··········。
 その中のひとつ、テリュトと呼ばれる結界付きのテントの様なものだ。ラフィーが奪って来たのは風呂もベットもついている高級品だ。いやぁ便利だねぇ··········って尚更ダメじゃねーか。
 ··········あったあった。
「ほい」
 と床に展開した陣からテリュトを出す。壊れてキレられたら困るのでそーっと優しく出してあげた。
「遅いわよ」
 何だこいつ、キレそう。
「っるせーな! お前、この前だってサッと出したって『雑に扱うんじゃないわよ。壊れたらどうするのよ』とか言ってキレれてたじゃねぇか!」
 と大声で反抗する。
「キレてないわよ。事実を言ってあげただけじゃな··········」
 キレそう。
「と・に・か・く! 早く風呂入って寝ろよ」
 とわざとらしく··········というかわざと言葉に被せて早く入るように催促する。
「··········そうするわ」
 と布の扉を開いて中に入ると早速、ッハーとか言いながらベットに横たわる。
「汚いから風呂入ってからにしろよ」
 と言うと枕に埋めていた顔を上げて不満そうな顔をした。
「? ··········何だよ··········」
 と言うとおもむろに立ち上がり、
「何でもない。しらけちゃったからお風呂入るわ。··········見ないでよね」
 と備え付けの風呂に行く。ま、お前の中に俺がいる訳だから見ないで、ってのは難しい話だけど··········俺、魔法だし?
 知識はあっても生殖しないからな。そういう欲もないらしい。もしくはこいつに魅力が無いのか··········
 ラフィーはスレンダーで結構綺麗なんだけどなぁ。俺、実は巨乳派なのかな··········
「はいはい、見ません見ません」
 いったい何だ··········しらけたって··········ベットに興奮でもしてたのか? それとも、そんなにベットが好きなのか? 眠り姫なのか? 
「変な女··········」
 と聞こえないように呟く。
「何か言った?」
「いや? 何も。俺は中にいるから。
 終わったら呼んでくれ」
 ふぅー!!! ··········危ない··········ギリギリ聞こえなかったらしい。マジ危ねぇ! 

 俺は"中"に入る為に意識を集中させる。··········これも習得したのは最近で··········習得する前はラフィーも満足に入れなかったらしい。··········ま、そりゃそうだわな。
 当時はそんな事を気にする人に見えなかったから··········言われた時は驚いたな··········アレは。今となっては··········というか当たり前のことだったな。
 ────さて、その最近習得した"中"に入るというヤツをする。意識を1本の束のように纏める。それを"俺の中"に引き込む。
 最初の頃は感覚が掴めずに上手くいかなかったが、今ではもう慣れたものだ。
 それが"中"に入るというヤツだ。こうなると外の声は聞こえない。どうやって出るのかと言うと、俺から出ていくか、外から収納魔法を使うしかないのだ。ただ、中に入るのもラフィーが風呂に入っている時だけなので、結局は外から収納魔法を使ってもらうしかない。それを"呼ぶ"ということにしている。
 それで、こんな光も何も無い所で何をするのかと言うと··········えぇーっと··········どこにしまったっけか··········って俺が収納魔法なんだから探す必要ないじゃん。
 手(の形をした魔力の塊)を伸ばし、適当な所を掴む。すると、その手にはイメージ通りに1振りの剣が握られていた。これもラフィーが家出と一緒に掻っ攫って持ってきたものだが、銘は忘れた。なんかすげー魔力を通す剣··········だった気がする。通常、剣に魔力を通すのであれば最初に自身の魔力供給効率をあげる為の修行と、それを剣を振りながら行う修行の2つをする。
 これは剣を振るうのと同時に魔法を発動するのだから、これはしょうがないと言える。結果的に他の魔法も魔力の変換効率も上がって発動スピードが上がったりする。おかげでラフィーの魔法の発動スピードも、かなり上がったのだ。

 ラフィーの成長は収納魔法君の成長だ。君の成長はラフィーの成長だ。君は彼女の魔法なんだから。

 そう言った女が居た。ラフィーの、そして俺の師匠だ。今頃何をしているのやら··········帰ったらめちゃくちゃ怒られるな··········いつ帰るかどうかは分からないけど。
 ··········ってめっちゃ話逸らすじゃん俺。
 ··········で、魔法変換効率を上げるのは一生の課題なのだが、一定レベルに達すると次だ。自分以外のモノに自分の魔力を流し込む、という訓練だ··········これが中々にキツい··········。
 自分自身の身体は自分自身の魔力が1番馴染んでいる為、訓練次第でどうにでもなるから難しくないんだが、それを他のモノに流すとなると話は変わってくる。ありえんくらい抵抗がかかるのだ。だから魔力変換効率なんて言っている暇はない。強い魔力圧をかけないと流れない。だが圧を掛けすぎると通常は体の方が持たない。強い圧を掛けるという事は自分が強い圧を作り出さないといけないということだ。
 ただラフィーには才能があった。圧に耐える才能が、圧を自身に掛ける才能が。
 圧に耐えきれなければ最悪、魔力脈が弾け飛ぶ···············らしいです。ラフィー··········凄いな··········。
 ま、魔力脈というのは魔力が血だとすると、魔力脈は血管だと思う。なので地球の人類には無い器官なのではないかと睨んでいる。
 話を戻すと、自分以外の何かに魔力を流そうとするとめっちゃ大変なのだ。もし、一般人でも物質に魔力が流すことが出来れば、どの剣でも斬りながら魔法を発動することができるだろうという事だ。
 そこで人類が開発したのが2つ。
 刀身自体に魔力を通しやすくする仕掛けを作るという試み。
 そしていっその事刀身を魔力で作ってしまおうというもの。
 ちなみにラフィーが家からかっさらってきた"これ"は後者だ。それの土とか砂とかで刀身を作るタイプのものだ。
 ··········ってあれ? 何の話だっけ? ···············あ! 訓練か··········コホン、訓練の仕方は簡単。この剣の刀身を維持しながら色んな魔法を使うというもの。··········これが中々難しい。剣は魔力を流し込むだけでいいものの、それをしながら魔法を使うとなると、やはり他が疎かになるものだ。予め用意しておいた土を取り出し、土と剣に魔力を流す。すると土と剣が磁石の様に引かれ合い、刀身の無い剣に刃を授けた。一瞬土そのままの質感だっが、あたかも己を金属だと思い込むかの様な変わり様だった。一方空いてる左手には炎を纏い、人差し指から火の小玉を発射する。この魔法は火系魔法にしては消費魔力が少なく、連射に長けているものの威力に欠けるのが欠点である。逆にそれだけシンプルな故に訓練には持ってこいの魔法だ。
 さて右手の剣はどうだろうか。土っぽさが戻っており、ポロポロと刃が所々欠けていた。
 以前よりは少し良くなっているがまだまだだ。試しに皮鎧を着た人形があるので切ってみると、刀身の方が粉々になってしまった。
「やっぱりかぁ··········」
 これを100セット行うのがいつものルーティーンと言うやつだ。
「集中集中··········ふぅ」

 10分後

 収納魔法を開き、
「上がったわよ」
 と告げるラフィー。その中から今となっては聞きなれた声が響いた。服に関しては服を上がっても寝巻きには着替えず、風呂に入る前と同じ服を着ている。少々··········というか思いっきり汚いがこればっかりは仕方がない。どっかに着いた時に洗ってもらおう。
 流石に一通り鎧は外すけどね。
「お、丁度いいタイミングだ」
「終わったの? 訓練」
「ああ、いまさっきな」
「そ」
 いつもの会話だった。いつものようにベッドにはいり、頭から足先まで一直線にまっすぐとして両手を腹の下部辺りで組む。いつものルーティーンだった。
「もう日が沈むからすぐ寝ろよ」
「わかってるわよ」
「おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
 とプツンと意識が途切れるように眠りにつく。



「目を開けず起きろ」

 いつもなら「もう朝だぞ、寝坊助め」とか「HEY! HEY! 起きろYO!」だとか··········からかいながら起こしてくるこいつだが今日に関しては声を抑え、冷静だった。
 スイッチが切り替わる様に目を開けずに目覚めた。
「敵?」
 自分にすら聞こえないような声でに聞き、音を立てないように、そして素早く。長い髪も整えないまま寝たフリをしながら情報を探った。2人の足音が聞こえる。更に小声ではあるが話し声も聞こえた。男だ。
「人数は足音からして3人。その中の1人は見張り、残りは分かるな? ここに入ったからには人間だ。準備は?」
「要らない」
「反対側に」
 と言われると、寝相をうつように反対側を向いた。侵入者はチラッとこちらを見たがバレていないようで、別の方向を向いた。
「3の合図で」
 少しだけ頷いた。
「3··········2··········1」
 侵入者の居る方にノーアクションで収納魔法を開いた。流石に気付いたのか、
「クソッ!」
 と言って2人は防御魔法を展開する。さすがの速さだ。もちろんこれは攻撃魔法では無い。収納魔法だ。
 そこからパリン、とガラスが砕けるような音がして、部屋が一瞬真昼の空の様に明るくなった。攻撃魔法ではないため、透明な防御魔法では防ぐことができない。彼は目が眩んで魔法を解除してしまった。
 その隙をついて枕の下に常備しているナイフで1人目の喉を突き刺し、それは抜かずに流れるような動きで残りの男の背後に回って脇と首を押さえ、雷魔法を放った。男は
「んー!」
 と声にならない悲鳴を上げて失神した。2人がドサッと立て続けに倒れたために、異常に気付いた見張りが侵入した。
「どうし──ー」
 が彼も即死だった。針のように細いつららが胸の中から生えていた。心臓を貫かれた彼は即死だった。
 つららが刺さった勢いで後ろに倒れる見張りの男。
 3人をテリュトの外に運び横に並べる。右端の男の頭上に膝立ちをした。そして右手を彼の額に当て、左手で紫色の宝石の首飾りを自身の額に当てた。これは私の故郷に伝わる死んだ者が死後安らかに眠れる様にと願うという風習である。侵入者とはいえ殺すのは流石にやりすぎだったと自分でも思う。
 生きるためだと正当化するつもりはないが、実際自分には自分にはこれが限界なのだ。力が及ばなかった。
 残りの2人にも同様の儀式を行っていると、既に日が上り始めていた。
「ふう、終わりぃー」
 と沈む心を明るく振る舞い無理に誤魔化す。
「じゃ、入れるぞ」
 といつもの調子の声。
「お願い」
 対して自分はどうしても暗くなってしまう。なんで自分はこんなにも弱いんだろう。そればかりを考えてしまう。
 収納を終えた彼がそれを察した様にこう言った。
「そう気に病むなって··········って人間じゃない俺が言えたことじゃないけど、ラフィーはよくやったよ」
「殺しを褒られたって嬉しくないわ··········」
 と首飾りを握りしめて言った。
「···············そう··········だよな」
 明らかに言い過ぎだと自分でも思った。そう思って一息置いて謝った。
「··········ごめん、言いすぎた」
「··········いや、俺の配慮が足らなかったのも事実だ。ごめん」
「··········」
「··········」
 お互い謝ったのは良いものの、雰囲気が悪いので明るく振舞って言った。
「そ、それはそうと今の人たちからなんか良さげなアイテムとか取れない?」
「あ、ああ···············チェストプレートはラフィーにはサイズが大きいし··········こいつら指名手配がかかってた覚えも無いし··········使えそうなのは多少のポーションくらいか···············ポーションと死体以外はこの先着いたどこかか滅多に合わないが行商人にでも売るとしますかね··········」
 と確かめながら言っている様だった。
「このポーションって何ポーションなの?」
「植物系解毒と下位の解呪の2つだ。あるだけマシって感じだな」
「··········そうね」
 植物系解毒のポーションは有難い事は有難いけど毒のによっては効き目が薄い事もあるし、動物系毒には更に効き目が薄いし。あるだけマシっていうほかない。下位の解呪ポーションに至っては解呪というよりも呪いの効果をちょっとだけ弱くする効果がある。モノによっては呪いを掛けた主がキレて呪いが強力になる事もある。···············詐欺じゃん。国によっては解呪のポーションとして売られていない所もあるらしい。
 とアイテムの確認をしていると、空が完全に青くなっていた。
「明るくなってきたし、そろそろ出発にするか」
「そうね。じゃあテリュト仕舞ってちょうだい。あと防具出して」
 すると収納魔法が展開してテリュトを仕舞った後、ラフィーの防具が出てきた。
「ほらよ」
「ありがと」
「どいたま」
 収納魔法はどいたまとかいうどういたしましての略称だと思われる言葉を言った。変なの··········



 いつもの防具を着て、林の中を歩き出す。半日程歩いていると、林を抜けて草原に出た。とりあえず真っ直ぐ進むことにし、林を抜けた喜びもあってかなり進んだ。
 すると、大きな荷物を運ぶ馬を引き連れた行商人を発見するのと同時に小道を発見した。
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