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#395 とある記者の取材記録
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俺は記者だ。
剣士でも魔術師でもなく、ただペンを取り文章を書くことを生業にしている。要するに「事実を取材し、人々に伝える」のが仕事だ。
勇者のように剣を振るう気もなければ、王に仕える気もない。
俺が欲しいのは、ただ「よい記事のネタ」だけだ。
今回の取材先は、山あいの村。
「近ごろ魔物に襲われて困っている」という噂を聞き、現地取材に向かった。これは王都の人々に知らせるべき事態である。ノートを広げて村人に話を聞こうとしたその瞬間――。
グオォォォッ!
森から飛び出してきたのは巨大なオーガ。村人たちが悲鳴を上げる中、俺は思わず舌打ちした。
「取材の邪魔をするな!」
ただの記者なので、当然武器は持っていない。仕方なく持っていたペンを投げつけた。するとそれは真っ直ぐにオーガの額を貫く。しまった。大切なペンが使えなくなるかもしれない。
しかし、大地が揺れるような音と共に、オーガの巨体は崩れ落ちた。
村人たちは歓声を上げる。
「救世主だ!」
「勇者様だ!」
……いやいや、違う。俺はただ、記事の聞き取りをしようとしただけだ。
次の取材は王都の政治の中枢、聖霊議会院である。
新しい政令が出るというので、記者として王女に話を聞きに行った。だがその最中、暗殺者が現れ、王女に矢を放つ。
「なんだ貴様! 割り込むな」
そう言って王女の胸をめがけて飛んできた矢を空中でつかみ、思い切りへし折る。そしてついうっかり新調したペンを暗殺者に投げてしまい、それはまたまっすぐにそいつの眉間に突き刺さった。
「うわっ。またやっちまった!」
周りにいた人々は歓声を上げる。
「王女の命を救った勇気ある記者だ!」
だが俺の関心は新しい政令の記事。暗殺者のことなどはどうでもいい。
「王女暗殺未遂事件の記事に差し替えろ!」
「急げ!」
同業者の慌ただしい声が聞こえ、「それはありかもしれない」と思ったが、すでに王女は安全のために姿を消しており、暗殺者も片付けられていた。
その数日後、俺はとうとう取材で魔王の領地に向かうことを決めた。目的はただ一つ。
「魔王が何を考え、この世界をどう見ているのか」
それを聞き、記事にまとめることだ。これは王都のみならず、世界中に読まれる記事になるはずだ。
玉座の間で魔王に問いを投げる。
「領民への重税の理由は?」
「人間との関係をどう考える?」
魔王は困惑していた。
「……なぜ勇者でもないお前が、ここまで来られた?」
「なんの話だ? 俺は記者だ! さぁ、答えてもらおう」
そのとき魔王軍の残党が大勢玉座の間に攻め込んできた。
「今度こそ、侵入者を排除しろ!」
「魔王様に命を捧げろ!」
俺はため息をつき、ペンを投げつけた。
「さっきからなんなんだ! 邪魔をするんじゃない!」
すぐにペンを投げてしまう癖があるので予備は何本もある。何しろ王女を救った褒美でずた袋いっぱいにペンをもらっている。
俺はそのペンを邪魔な者全員に素早く投げつけた。それがすべて連中の眉間に突き刺さる。
玉座の間に静寂が訪れた。
「はぁ。ようやく取材ができる。まったく。なんなんだあいつらは……」
魔王は膝をつき、俺を見上げた。
「……完敗だ」
「何を言っている。とにかく質問に答えてくれ。邪魔も入ったし、後日書簡による回答でもかまわん」
――その後、なぜか世界は平和になったらしい。
俺の「緊急! 魔王に突撃!」という見出し記事は広まり、目論見通り多くの人々に読まれたようだった。世界に平和が訪れて、みんな魔王に興味を失ったのではないかと心配していたが、よかった。
俺の使命はただひとつ。人々の求める真実を正しく伝えること。
そのために邪魔するものは容赦なく排除する。
……しかし、次の取材先が静かであることを祈るばかりだ。もうモンスターに割り込まれるのは、本当にごめんだからな。
剣士でも魔術師でもなく、ただペンを取り文章を書くことを生業にしている。要するに「事実を取材し、人々に伝える」のが仕事だ。
勇者のように剣を振るう気もなければ、王に仕える気もない。
俺が欲しいのは、ただ「よい記事のネタ」だけだ。
今回の取材先は、山あいの村。
「近ごろ魔物に襲われて困っている」という噂を聞き、現地取材に向かった。これは王都の人々に知らせるべき事態である。ノートを広げて村人に話を聞こうとしたその瞬間――。
グオォォォッ!
森から飛び出してきたのは巨大なオーガ。村人たちが悲鳴を上げる中、俺は思わず舌打ちした。
「取材の邪魔をするな!」
ただの記者なので、当然武器は持っていない。仕方なく持っていたペンを投げつけた。するとそれは真っ直ぐにオーガの額を貫く。しまった。大切なペンが使えなくなるかもしれない。
しかし、大地が揺れるような音と共に、オーガの巨体は崩れ落ちた。
村人たちは歓声を上げる。
「救世主だ!」
「勇者様だ!」
……いやいや、違う。俺はただ、記事の聞き取りをしようとしただけだ。
次の取材は王都の政治の中枢、聖霊議会院である。
新しい政令が出るというので、記者として王女に話を聞きに行った。だがその最中、暗殺者が現れ、王女に矢を放つ。
「なんだ貴様! 割り込むな」
そう言って王女の胸をめがけて飛んできた矢を空中でつかみ、思い切りへし折る。そしてついうっかり新調したペンを暗殺者に投げてしまい、それはまたまっすぐにそいつの眉間に突き刺さった。
「うわっ。またやっちまった!」
周りにいた人々は歓声を上げる。
「王女の命を救った勇気ある記者だ!」
だが俺の関心は新しい政令の記事。暗殺者のことなどはどうでもいい。
「王女暗殺未遂事件の記事に差し替えろ!」
「急げ!」
同業者の慌ただしい声が聞こえ、「それはありかもしれない」と思ったが、すでに王女は安全のために姿を消しており、暗殺者も片付けられていた。
その数日後、俺はとうとう取材で魔王の領地に向かうことを決めた。目的はただ一つ。
「魔王が何を考え、この世界をどう見ているのか」
それを聞き、記事にまとめることだ。これは王都のみならず、世界中に読まれる記事になるはずだ。
玉座の間で魔王に問いを投げる。
「領民への重税の理由は?」
「人間との関係をどう考える?」
魔王は困惑していた。
「……なぜ勇者でもないお前が、ここまで来られた?」
「なんの話だ? 俺は記者だ! さぁ、答えてもらおう」
そのとき魔王軍の残党が大勢玉座の間に攻め込んできた。
「今度こそ、侵入者を排除しろ!」
「魔王様に命を捧げろ!」
俺はため息をつき、ペンを投げつけた。
「さっきからなんなんだ! 邪魔をするんじゃない!」
すぐにペンを投げてしまう癖があるので予備は何本もある。何しろ王女を救った褒美でずた袋いっぱいにペンをもらっている。
俺はそのペンを邪魔な者全員に素早く投げつけた。それがすべて連中の眉間に突き刺さる。
玉座の間に静寂が訪れた。
「はぁ。ようやく取材ができる。まったく。なんなんだあいつらは……」
魔王は膝をつき、俺を見上げた。
「……完敗だ」
「何を言っている。とにかく質問に答えてくれ。邪魔も入ったし、後日書簡による回答でもかまわん」
――その後、なぜか世界は平和になったらしい。
俺の「緊急! 魔王に突撃!」という見出し記事は広まり、目論見通り多くの人々に読まれたようだった。世界に平和が訪れて、みんな魔王に興味を失ったのではないかと心配していたが、よかった。
俺の使命はただひとつ。人々の求める真実を正しく伝えること。
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