ちいさな物語屋

うらたきよひこ

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#411 ニンゲンモドキ育成ゲーム

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いや、ちょっと変な話をするけどさ、聞いてくれるか?

ほら、昔からあるだろ、「育成ゲーム」ってやつ。卵からモンスターが孵ったり、仮想のペットを世話したりするあれだ。俺も子どもの頃にハマってな、学校でこっそりやっては先生に取り上げられたもんだよ。

でもな、数年前だ。俺は本物の「育成ゲーム」ってやつを体験したんだ。いや、ゲームじゃない。現実に存在する。あれをどう説明すればいいか、今でも迷う。

――最初は駅前の路地裏だった。

帰り道に、妙に目立たない中古ゲームショップを見つけたんだ。店構えは古いのに、看板だけはピカピカでな。「本物を育てろ」ってキャッチコピーが書いてあった。

中に入ると、店主らしきじいさんが一人いて、奥の棚から小さなカプセルを持ってきた。

「いいゲームがあるよ。試してみるかい?」

俺が首をかしげると、にやりと笑ってこう言った。

「現実に『存在する』育成ゲームだ」

胡散臭いだろ? でも、そのとき俺はなぜか受け取ってしまったんだ。

家に帰ってカプセルを開けると、中にはビー玉みたいに透き通った玉が入っていた。それを手のひらに乗せた瞬間、玉が震えて、光の粒がふわっと舞い上がった。

そしたらだ。次の瞬間、俺の手のひらに小さな生き物が立っていた。手のひらサイズの、人形みたいな生き物。

目が合った瞬間に、そいつが「パパ!」って言ったんだよ。びっくりしすぎて落としそうになった。「本物」ってこういうことなのか。ロボットか何かだろうか?

でも、不思議とかわいく思えて、俺はそいつを鞄に入れて連れて歩くようになった。

そこからが始まりだった。

毎日、そいつは「ごはん」とか「遊んで」とか要求してきた。餌のこととかは何も聞いていなかったので、ためしに人間と同じものを食わせると、喜んでよく食べた。ハンカチやガーゼを重ねて作った即席のベッドで寝かせるとすやすや眠ってくれた。うんちもおしっこもした。人間の子どもみたいだった。

ただ、普通のペットと違うのは、成長がやたら早いことだ。

一週間もしないうちに、そいつは俺の肩に乗るくらいの大きさになった。二週間目には、人間の幼児と変わらないほどに。

「パパ、あそぼ!」
その声は本当に子どもの声だった。客観的にみておかしいんだろうけど、俺はもうその違和感を無視していた。

とにかくかわいいんだ。世話をするほど、そいつは懐いてきて、家の中を走り回ったり、おもちゃで遊んだりする。

でも、やはりその中でも妙なこともあった。

そいつは、俺が何を考えているかすぐに察するんだ。

「パパ、きょうはいやなことあった?」

俺が仕事でミスして落ち込んでいると、勝手に慰めに来る。そのやさしさが怖くなった。なぜこちらの心を読めるのだろうかと。

三ヶ月も経つと、そいつは中学生くらいの姿になった。知識も妙に豊富で、ニュースを見ながら政治の話まで始める。

「パパ、これから世界はどうなるの?」

答えに詰まる俺をじっと見て、笑うんだ。

「大丈夫、ぼくがいれば平気だよ。パパのこと守るからね」

……おかしいだろ?

たかがカプセルから生まれた存在が、現実の子どもみたいに育っていくんだ。

その頃からだ。

俺の周りに、同じように「育てている」やつらがいるって気づいたのは。電車の中で隣に座ったおっさんが、膝の上の小さな女の子に囁いてた。

「手のひらに乗るくらいだったのに大きくなったな」

その子は俺の「子ども」と同じ目をしてた。

気づいたら街のあちこちにいたんだ。スーパーでも、カフェでも、子どもの姿をした「育成された何か」らしきものが増えていた。

でも、誰も気にしない。

まるで元からそこにいたかのように。俺は怖くなって、あのショップに戻った。けど、そこにはもう何もなかった。更地になってたんだよ。店も、看板も、跡形もなく。……それで今、どうなったかって?

あれから五年。

俺が育てたやつは、すっかり大人になった。見た目も言葉も人間そのものだ。ごく普通に、社会の中に立派に溶け込んでる。「パパ」とはもう呼ばない。

ただ、一度だけ耳元で囁かれた。

「ありがとう。これでぼくら『ニンゲンモドキ』はどんどん増えられる」

あれがどういう意味なのか、俺には分からない。でもさ、今でも電車に乗るとき、周りの顔をつい観察しちまうんだ。本物の人間なのか、それともあいつのいう「ニンゲンモドキ」なのか。

君の隣にいる人だって、もしかしたら――なあ。
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