434 / 526
#432 みらいさま
しおりを挟む
むかしむかし、ある山あいの村に奇妙なものが落ちてきたそうな。
夜の空が昼のように明るくなり、どーんと火の玉がすっと降りてきて、畑の真ん中に黒い箱を残したのじゃ。
村人たちは驚いて集まり、その箱を囲んだ。
「これはなんじゃ」
「火薬か、それとも鬼の道具か」
箱は人の胸ほどの大きさで、金属のようにつややかに光り、触れるととても熱かったそうな。
しばらくすると箱の表に文字のようなものが浮かび上がった。
それはこの村の誰も知らぬ印だったが、不思議と心には意味が流れ込んできたという。
――パスワードを入力してください。
村人は顔を見合わせた。
「ぱすわーど、とはなんじゃ?」
だれひとり答えられなかった。
だが子どもが面白がって石で叩くと、箱は光を放ち「エラーです」と言ったそうな。
人々は震え上がった。
「しゃべったぞ!」
「やはり鬼の道具じゃ!」
それでも若者のひとりが言った。
「待て、これはきっと未来の宝だ。使えば村が豊かになる」
その言葉に長老も迷ったが、結局「しばらく祀ることにしよう」と決めた。
こうして箱は社に納められ、米や酒が供えられるようになった。
すると不思議なことに、その年は周りの村が凶作であったにもかかわらず、この村だけは作物がよく実ったのじゃ。
「やはり未来の神の道具じゃ!」
人々は喜び、ますます大事にした。
しかし時が経つにつれ、箱はまた別の声を発するようになった。
――アップデートを開始します。しばらくお待ちください。
光が激しく点滅し、村人はみな地にひれ伏した。
数日のあいだ、村は嵐のような風に包まれたという。
けれども終わったあと、なぜか川の水は澄み、魚が多く獲れるようになった。
村人はますます信じ込み、箱を「みらいさま」と呼んで祀り続けた。
だが長い年月ののち、ある若者が禁を破って箱を開けようとした。
力任せにこじ開けると、中には薄い板のようなものが入っておった。
それは夜の闇でも自ら光り、指でなぞると絵や文字が浮かび上がった。
若者は夢中になり、それを毎日触り続けた。
やがて村の人々もその板を見ようと群がり、仕事を忘れ、畑も荒れていった。
「これは神ではない、呪いの道具だ!」と叫ぶ者もいたが、だれも耳を貸さなかった。
そうして村人たちはだんだんと気力を失い、畑は荒れ果てていったそうな。
ただ、今も山奥にはぽつんと社が残っていて、中には黒い箱と光る板が眠っておると伝えられている。
そして夜中に近づけば、こんな声がするそうじゃ。
――充電してください。
――アップデートがあります。
……さてさて、これがほんとうの話かどうかはわからぬがな。
神の道具を自分たちのためにつかってしまった村人の話か、それとも未来から迷い込んだ道具の話か。結局――わからんなあ。
夜の空が昼のように明るくなり、どーんと火の玉がすっと降りてきて、畑の真ん中に黒い箱を残したのじゃ。
村人たちは驚いて集まり、その箱を囲んだ。
「これはなんじゃ」
「火薬か、それとも鬼の道具か」
箱は人の胸ほどの大きさで、金属のようにつややかに光り、触れるととても熱かったそうな。
しばらくすると箱の表に文字のようなものが浮かび上がった。
それはこの村の誰も知らぬ印だったが、不思議と心には意味が流れ込んできたという。
――パスワードを入力してください。
村人は顔を見合わせた。
「ぱすわーど、とはなんじゃ?」
だれひとり答えられなかった。
だが子どもが面白がって石で叩くと、箱は光を放ち「エラーです」と言ったそうな。
人々は震え上がった。
「しゃべったぞ!」
「やはり鬼の道具じゃ!」
それでも若者のひとりが言った。
「待て、これはきっと未来の宝だ。使えば村が豊かになる」
その言葉に長老も迷ったが、結局「しばらく祀ることにしよう」と決めた。
こうして箱は社に納められ、米や酒が供えられるようになった。
すると不思議なことに、その年は周りの村が凶作であったにもかかわらず、この村だけは作物がよく実ったのじゃ。
「やはり未来の神の道具じゃ!」
人々は喜び、ますます大事にした。
しかし時が経つにつれ、箱はまた別の声を発するようになった。
――アップデートを開始します。しばらくお待ちください。
光が激しく点滅し、村人はみな地にひれ伏した。
数日のあいだ、村は嵐のような風に包まれたという。
けれども終わったあと、なぜか川の水は澄み、魚が多く獲れるようになった。
村人はますます信じ込み、箱を「みらいさま」と呼んで祀り続けた。
だが長い年月ののち、ある若者が禁を破って箱を開けようとした。
力任せにこじ開けると、中には薄い板のようなものが入っておった。
それは夜の闇でも自ら光り、指でなぞると絵や文字が浮かび上がった。
若者は夢中になり、それを毎日触り続けた。
やがて村の人々もその板を見ようと群がり、仕事を忘れ、畑も荒れていった。
「これは神ではない、呪いの道具だ!」と叫ぶ者もいたが、だれも耳を貸さなかった。
そうして村人たちはだんだんと気力を失い、畑は荒れ果てていったそうな。
ただ、今も山奥にはぽつんと社が残っていて、中には黒い箱と光る板が眠っておると伝えられている。
そして夜中に近づけば、こんな声がするそうじゃ。
――充電してください。
――アップデートがあります。
……さてさて、これがほんとうの話かどうかはわからぬがな。
神の道具を自分たちのためにつかってしまった村人の話か、それとも未来から迷い込んだ道具の話か。結局――わからんなあ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる