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#438 神様のお気に入り
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それはある日の朝のことでした。
目を覚ますと、枕元に白い封筒が置かれていたんです。僕は一人暮らしで、鍵もかけている。誰かが忍び込んだ気配もない。気味が悪く思いながら開けてみると、こう書かれていました。
――おめでとうございます。あなたは「神様のお気に入り」に選ばれました。
最初は冗談かと思いました。どこの宗教団体か、あるいは悪質な詐欺か、と。けれど、その日から妙なことが立て続けに起こったんです。
通勤電車に遅れそうになっても、必ず目の前でドアが開いて待っていてくれる。自販機で缶コーヒーを買えば当たりが続き、コンビニの抽選クーポンは毎回当選。小さな幸運が重なりすぎて、偶然では片付けられない。
さらに奇妙なのは、人の態度でした。
会社の上司が急に僕に優しくなり、同僚たちがなぜか僕にお菓子を差し入れしてくれたり、仕事を肩代わりすると申し出たりしてくれる。これまで交流もなかった近所の子どもにまで挨拶をされたりする。
何もしていないのに、周りが僕を特別扱いし始めたんです。
「……これが『お気に入り』ってことなのか?」
最初はラッキーくらいに思っていました。でも、次第に気持ち悪くなってきたんです。
電車では必ず座席が空く。食堂では必ず一番大きな唐揚げが僕の皿にのる。誰もが僕を優先し、笑顔を向けてくる。
「そんなに僕は特別じゃない」
そう思うほどに、周囲の「配慮」は強まっていった。
ある夜、帰宅すると玄関前に果物や花束が山のように置かれていました。差出人は書かれていない。誰が置いたのかもわからない。まるで神様へのお供えものみたいで気味が悪い。
封筒は再び届きました。
――あなたのことが気に入っています。ずっと見ています。
その文面に、背筋が冷たくなりました。
神様が本当にいるのかどうかはわからない。けれど確かに、僕を「選んでいる」何かがいる。
やがて僕の生活は限界を迎えました。
どこへ行っても歓迎され、何をしても褒められる。失敗すら許され、注意すらされない。
「もう耐えられない」
ある晩、堪えきれず叫んでしまったんです。
「もうやめてくれ! 普通に戻りたいんだ!」
すると、部屋の中で声がしました。
「仕方ないです。代わりを探しましょう」
気配はなく、ただ声だけが響いた。
翌朝、目を覚ますとすべての奇跡は終わっていました。
電車は遅れ、コンビニのくじは外れ、会社では上司に叱られる。あの日までの過剰な優遇は跡形もなかったんです。
ほっとしました。誰にも注目されず、誰にもかまわれない日常。
これが「普通」の日々だった――と、徐々に思い出してきました。同時に人間をあんな目に遭わせるなんて、本当に神様だったのか、疑問もわきました。
後から何か代償を支払わせる悪魔だったような気もします。だから気味が悪かったのかもしれません。
そして数日後、新聞の片隅で小さな記事を見つけたんです。
「宝くじ連続の高額当選者現る――前代未聞の連勝記録?」
記事の写真には、自宅らしき場所でインタビューに答えるモザイクがかかった女性の姿。そのテーブルに見覚えのある白い封筒がちらりと見えていました。
――今度は彼女が「神様のお気に入り」になったらしい。
僕は新聞を畳み、深く息を吐きました。まったく羨ましいと思えない。
ただ一つ確かなのは、「神様のお気に入り」に耐え続けられる人間はそういないだろうということです。
今、この話を聞いている人は「自分は耐えられる」「幸運になりたい」と思うかもしれませんが、いざなったら意見を翻すと思いますよ。
目を覚ますと、枕元に白い封筒が置かれていたんです。僕は一人暮らしで、鍵もかけている。誰かが忍び込んだ気配もない。気味が悪く思いながら開けてみると、こう書かれていました。
――おめでとうございます。あなたは「神様のお気に入り」に選ばれました。
最初は冗談かと思いました。どこの宗教団体か、あるいは悪質な詐欺か、と。けれど、その日から妙なことが立て続けに起こったんです。
通勤電車に遅れそうになっても、必ず目の前でドアが開いて待っていてくれる。自販機で缶コーヒーを買えば当たりが続き、コンビニの抽選クーポンは毎回当選。小さな幸運が重なりすぎて、偶然では片付けられない。
さらに奇妙なのは、人の態度でした。
会社の上司が急に僕に優しくなり、同僚たちがなぜか僕にお菓子を差し入れしてくれたり、仕事を肩代わりすると申し出たりしてくれる。これまで交流もなかった近所の子どもにまで挨拶をされたりする。
何もしていないのに、周りが僕を特別扱いし始めたんです。
「……これが『お気に入り』ってことなのか?」
最初はラッキーくらいに思っていました。でも、次第に気持ち悪くなってきたんです。
電車では必ず座席が空く。食堂では必ず一番大きな唐揚げが僕の皿にのる。誰もが僕を優先し、笑顔を向けてくる。
「そんなに僕は特別じゃない」
そう思うほどに、周囲の「配慮」は強まっていった。
ある夜、帰宅すると玄関前に果物や花束が山のように置かれていました。差出人は書かれていない。誰が置いたのかもわからない。まるで神様へのお供えものみたいで気味が悪い。
封筒は再び届きました。
――あなたのことが気に入っています。ずっと見ています。
その文面に、背筋が冷たくなりました。
神様が本当にいるのかどうかはわからない。けれど確かに、僕を「選んでいる」何かがいる。
やがて僕の生活は限界を迎えました。
どこへ行っても歓迎され、何をしても褒められる。失敗すら許され、注意すらされない。
「もう耐えられない」
ある晩、堪えきれず叫んでしまったんです。
「もうやめてくれ! 普通に戻りたいんだ!」
すると、部屋の中で声がしました。
「仕方ないです。代わりを探しましょう」
気配はなく、ただ声だけが響いた。
翌朝、目を覚ますとすべての奇跡は終わっていました。
電車は遅れ、コンビニのくじは外れ、会社では上司に叱られる。あの日までの過剰な優遇は跡形もなかったんです。
ほっとしました。誰にも注目されず、誰にもかまわれない日常。
これが「普通」の日々だった――と、徐々に思い出してきました。同時に人間をあんな目に遭わせるなんて、本当に神様だったのか、疑問もわきました。
後から何か代償を支払わせる悪魔だったような気もします。だから気味が悪かったのかもしれません。
そして数日後、新聞の片隅で小さな記事を見つけたんです。
「宝くじ連続の高額当選者現る――前代未聞の連勝記録?」
記事の写真には、自宅らしき場所でインタビューに答えるモザイクがかかった女性の姿。そのテーブルに見覚えのある白い封筒がちらりと見えていました。
――今度は彼女が「神様のお気に入り」になったらしい。
僕は新聞を畳み、深く息を吐きました。まったく羨ましいと思えない。
ただ一つ確かなのは、「神様のお気に入り」に耐え続けられる人間はそういないだろうということです。
今、この話を聞いている人は「自分は耐えられる」「幸運になりたい」と思うかもしれませんが、いざなったら意見を翻すと思いますよ。
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