ちいさな物語屋

うらたきよひこ

文字の大きさ
458 / 526

#456 変わらぬ先生

しおりを挟む
うちの担任のことを話そうか。

ぱっと見は二十代後半、生徒にも人気の若い先生だ。笑顔も明るく、授業もわかりやすい。女子は「イケメン」って騒ぎ、男子も気さくに話せる。まあ、完璧すぎるくらいの先生なんだよ。

だけどある日、高齢の先生にぽろっと言われたんだ。

「君たちの担任の先生……わしが子どもの頃から、この学校におるぞ」

冗談かと思った。

だってそのおじいちゃん先生はもう定年を超えてたんだ。当時はよくわからなかったけど、嘱託の先生だった。

もし本当なら、少なく見積もっても五十年近く前から姿が変わってないってことになる。

でも気になったんだ。それって何かの勘違いじゃないかな。あり得なさすぎる。

図書室には歴代の卒業アルバムが並んでいる。

最近は個人情報の観点から、司書さんにお願いしないと閲覧はできないし、昔のものは生徒の住所や電話番号が入っているので、そこにはシートが貼られている。

当時の俺は好奇心に負けて、学校の歴史を調べると嘘を言って、友達と一緒に古いアルバムを片っ端からめくっていった。

そして見つけたんだ。

昭和初期のアルバムの片隅に、担任そっくりの若い教師が写っていた。いや、そっくりなんてもんじゃない。同じ顔、同じ笑顔のつくり方……。

ページをさらに遡る。大正時代のアルバムにもいた。戦前の集合写真にもいた。

――全部、今と同じ姿で。

背筋が凍った。

「これ、どう考えてもおかしいだろ……」

「先生のおじいちゃんとかじゃないの?」

そう言いながらも友達も青ざめていた。

そのとき思い出したんだ。去年卒業した先輩も言ってた。「うちの担任、年取らないぞ。俺の兄貴が在学してた頃から全然変わってない」って。

聞いたときはただ若々しい先生なのかなくらいに思っていた。大人の年齢のことはあまりピンとこなかったし。でも本当に文字通りの意味だったのか。

その日から、俺は先生の行動を観察するようになった。

別段、変わったところはなかったが、疑ってかかるとちょっとしたことが気になってくる。

授業中のちょっとした発言、「電気が普及したときは本当にびっくりしたよ」とか、「汽車で旅をしたときに……」とか。

みんな冗談だと思って笑ってたけど、もしかしたら本当なのかもしれない。

一番ぞっとしたのは、夜の校舎でのことだ。部活の帰りに荷物を忘れて戻ったとき、音楽室からピアノが聞こえた。

覗いてみると、先生がピアノを弾いていた。涙を流しながら、誰もいない音楽室で。

とても古い曲だった。それを知ったのもかなり後のことなんだけど。

俺は息を殺して逃げた。

それ以来、先生に普通に話しかけられると、心のどこかで恐怖を感じるようになった。

この人は人間じゃなくて、何かこの学校でよくないことをたくらんでいるんじゃないかってね。

だけど時間が経つとやっぱり先生はいい人なんだって、嫌でも気づいてしまうんだ。本当に生徒思いで、相談にも乗ってくれるし、叱るときはきちんと理由を説明して叱ってくれる。

それでも気になる。

「先生って……何者なんですか?」

思い切って放課後に問いかけたことがある。先生は笑って、「君の先生だよ」と答えた。

だけどその目の奥には、何か説明ができない複雑な光が宿っていたんだ。

俺はもう先生にまつわる不思議なことを全部忘れることにした。俺にとってはすごくいい先生で、この学校で悪いことは何も起こっていない。それがすべてだろ?

――でも、先生はいつまでこの学校にいるんだろうな。

きっと俺が卒業しても、そのまた次の世代も、その次の世代も、同じ姿で黒板の前に立ち続けるんだろう。

そう考えると、やっぱり少し怖いんだけどね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...