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#488 給食革命〜おかしなランチ〜
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月曜日の昼休み、いつもと同じ給食時間。でも、その日だけは空気が違った。
「……なにこれ」
俺の隣で、クラスの委員長・佐藤がスプーンを持ったまま固まっている。その日の給食のメニュー表にはこう書かれていた。
【本日の献立】
・ふんわりマシュマロカレー
・みんな大好きチョコおひたし
・校長特製! ビタミンサラダ(要注意)
・牛乳
……「要注意」ってなに?
俺たちは見つめ合った。
カレーの上に、確かにマシュマロが浮かんでいる。しかも、ちょっと焦げてる。
「え、これ、デザートじゃないの?」
「カレーとマシュマロを融合させたんだって、放送で言ってたよ」
放送係の女子が説明したが、誰も納得していなかった。
スプーンを入れてみると、マシュマロがとろけて、ルーが白く濁る。甘い。熱い。辛い。甘い。なんだこれ。味覚の暴力だ。
「これ……食べ物としてのアイデンティティ崩壊してる……」
佐藤が青ざめた顔でつぶやく。
それでも意地で食べた。なぜなら、俺たちはもっと小さな頃から食べ物を無駄にしてはいけないという教育を受けている。食べ物を捨てる選択はできない。
ところが次の「チョコおひたし」で、さらに地獄が更新された。
「おひたし……チョコ……?」
小松菜がチョコレートの海に浮かんでいる。
「見た目がクリスマス」と誰かが言った。
味は——想像通りだった。いや、想像以上だった。草+チョコ。苦いのに甘い。歯ごたえの裏切り。
「なんか……脳が混乱する味がする……」
「これ、もはや料理っていうより、哲学じゃない?」
そして問題の「校長特製! ビタミンサラダ」が配られた瞬間、教室は静まり返った。
皿の上に、なぜかキウイ、トマト、ゆで卵、そしてたくあんが一緒にのっている。ドレッシングは青かった。スライムみたいに光ってる。
「なにこれ、光ってるよ!?」
「校長、SF映画の見過ぎでは!?」
理科好きの森山が、おそるおそるフォークでつつくと、サラダが「ぷるん」と動いた。
「動いた!?」
「おいこれ、生きてる!?」
給食室に確認に行ったら栄養士さんは、真顔で言った。
「校長先生のアイデアです。食べる元気が目に見えるようにって。大丈夫、安全な食材ですから」
つまり、光る=元気。
なるほどなんとなくわかるような? でもおかしい。
午後の授業では、全員が少し光っていた。腕とか、顔とか。たぶんあのドレッシングのせいだ。
「なんか俺だけ教室の電気より明るく光ってるんだけど!」
「ドレッシング食べすぎたんじゃない?」
「いや、なんか意外とおいしくて」
「先生、教室中が明るすぎて黒板の文字が見えません!」
先生が焦って職員室に駆けこんだが、職員室の中もすでに発光していた。
校長がニコニコしながら言う。
「どうだね! みんな輝いているだろう!」
笑顔がまぶしかった。物理的に。
その日のニュースに出た。
《市立第二小学校、給食が光る》
SNSでは「#食べるLED」「#校長の暴走」がトレンド入り。
市の教育委員会が乗りこんできたが、校長は一歩も引かない。
「これからの食育はこうあるべきです!」
翌週の給食、メニューはさらに進化していた。
【本日の献立】
・発光カレーVer.2
・しゃべるみそ汁
・飛び出すデザート(安全確認済み)
しゃべるみそ汁は、飲むたびに「おかわりどう?」と喋った。飛び出すデザートは、ゼリーが勢いよく跳ねて、廊下に逃げた。
「給食逃げたー!」
「誰か捕まえてー!」
放課後、用務員さんがモップでゼリーを追いかけていた。
「給食の掃除じゃなくて、給食の捕獲って……」
だが次の日、ついに事件が起きた。
「先生、牛乳が空を飛んでます!」
窓の外で、牛乳パックが空をゆらゆらと漂っていた。しかも光っている。異変コンボだ。
校長が嬉しそうに言った。
「そういうこともあるでしょう。これがこれからの給食です!」
「校長、牛乳がそっちに行ったんでつかまえてください」
ニュース再び。
《給食、空を飛ぶ》《第二小、牛乳が逃亡》
その日を境に、給食は停止された。臨時で「お弁当持参」になった。
みんなホッとしたような、少し寂しいような顔をしていた。あのカオスな昼休みが、なんだか恋しかったのだ。
ところが翌月の全校集会。校長が壇上でにやりと笑った。
「諸君。新しい給食の形を発見した!」
スクリーンに映し出された文字。
【校長監修・給食アプリ『スマートランチ』】
……え、デジタル化?
「これを使えば、好きな料理をARで投影できる! 食べる気分だけを味わえるのだ!」
「それ、もう食事じゃなくないですか!?」
だが拍手が起きた。なぜか教師たちも盛り上がっている。
その日から俺たちの給食は、机の上にホログラムで映し出されるようになった。見た目はステーキ。匂いはする。でも空気。
「うわ……味しないのにお腹いっぱいになった……気がする」
「校長、ある意味ダイエット革命っすね」
数日後、校長は教育雑誌にこう載っていた。
《食育の未来は光と空気にあり》
――俺たちの学校、未来に行きすぎだと思う。
そして今も、給食時間の校内放送で流れる。
「みなさん、今日の給食も一風変わっているでしょう。これは大切なお話ですからよく聞いてください。今、人類は食糧危機にさらされています。みなさんも『昆虫食』というのを聞いたことがあるでしょう。そうやって、今までは食べたことのないものを食べないと生きていけないということがこれから起こってきます。でもみなさんはそんな中でも生き抜いていく力をすでに持っているのです」
校長がそんな思いでこのおかしすぎる給食をはじめたとは――俺たちは力強くスプーンを空にかざして叫ぶ。
「いただきまーす!」
「……なにこれ」
俺の隣で、クラスの委員長・佐藤がスプーンを持ったまま固まっている。その日の給食のメニュー表にはこう書かれていた。
【本日の献立】
・ふんわりマシュマロカレー
・みんな大好きチョコおひたし
・校長特製! ビタミンサラダ(要注意)
・牛乳
……「要注意」ってなに?
俺たちは見つめ合った。
カレーの上に、確かにマシュマロが浮かんでいる。しかも、ちょっと焦げてる。
「え、これ、デザートじゃないの?」
「カレーとマシュマロを融合させたんだって、放送で言ってたよ」
放送係の女子が説明したが、誰も納得していなかった。
スプーンを入れてみると、マシュマロがとろけて、ルーが白く濁る。甘い。熱い。辛い。甘い。なんだこれ。味覚の暴力だ。
「これ……食べ物としてのアイデンティティ崩壊してる……」
佐藤が青ざめた顔でつぶやく。
それでも意地で食べた。なぜなら、俺たちはもっと小さな頃から食べ物を無駄にしてはいけないという教育を受けている。食べ物を捨てる選択はできない。
ところが次の「チョコおひたし」で、さらに地獄が更新された。
「おひたし……チョコ……?」
小松菜がチョコレートの海に浮かんでいる。
「見た目がクリスマス」と誰かが言った。
味は——想像通りだった。いや、想像以上だった。草+チョコ。苦いのに甘い。歯ごたえの裏切り。
「なんか……脳が混乱する味がする……」
「これ、もはや料理っていうより、哲学じゃない?」
そして問題の「校長特製! ビタミンサラダ」が配られた瞬間、教室は静まり返った。
皿の上に、なぜかキウイ、トマト、ゆで卵、そしてたくあんが一緒にのっている。ドレッシングは青かった。スライムみたいに光ってる。
「なにこれ、光ってるよ!?」
「校長、SF映画の見過ぎでは!?」
理科好きの森山が、おそるおそるフォークでつつくと、サラダが「ぷるん」と動いた。
「動いた!?」
「おいこれ、生きてる!?」
給食室に確認に行ったら栄養士さんは、真顔で言った。
「校長先生のアイデアです。食べる元気が目に見えるようにって。大丈夫、安全な食材ですから」
つまり、光る=元気。
なるほどなんとなくわかるような? でもおかしい。
午後の授業では、全員が少し光っていた。腕とか、顔とか。たぶんあのドレッシングのせいだ。
「なんか俺だけ教室の電気より明るく光ってるんだけど!」
「ドレッシング食べすぎたんじゃない?」
「いや、なんか意外とおいしくて」
「先生、教室中が明るすぎて黒板の文字が見えません!」
先生が焦って職員室に駆けこんだが、職員室の中もすでに発光していた。
校長がニコニコしながら言う。
「どうだね! みんな輝いているだろう!」
笑顔がまぶしかった。物理的に。
その日のニュースに出た。
《市立第二小学校、給食が光る》
SNSでは「#食べるLED」「#校長の暴走」がトレンド入り。
市の教育委員会が乗りこんできたが、校長は一歩も引かない。
「これからの食育はこうあるべきです!」
翌週の給食、メニューはさらに進化していた。
【本日の献立】
・発光カレーVer.2
・しゃべるみそ汁
・飛び出すデザート(安全確認済み)
しゃべるみそ汁は、飲むたびに「おかわりどう?」と喋った。飛び出すデザートは、ゼリーが勢いよく跳ねて、廊下に逃げた。
「給食逃げたー!」
「誰か捕まえてー!」
放課後、用務員さんがモップでゼリーを追いかけていた。
「給食の掃除じゃなくて、給食の捕獲って……」
だが次の日、ついに事件が起きた。
「先生、牛乳が空を飛んでます!」
窓の外で、牛乳パックが空をゆらゆらと漂っていた。しかも光っている。異変コンボだ。
校長が嬉しそうに言った。
「そういうこともあるでしょう。これがこれからの給食です!」
「校長、牛乳がそっちに行ったんでつかまえてください」
ニュース再び。
《給食、空を飛ぶ》《第二小、牛乳が逃亡》
その日を境に、給食は停止された。臨時で「お弁当持参」になった。
みんなホッとしたような、少し寂しいような顔をしていた。あのカオスな昼休みが、なんだか恋しかったのだ。
ところが翌月の全校集会。校長が壇上でにやりと笑った。
「諸君。新しい給食の形を発見した!」
スクリーンに映し出された文字。
【校長監修・給食アプリ『スマートランチ』】
……え、デジタル化?
「これを使えば、好きな料理をARで投影できる! 食べる気分だけを味わえるのだ!」
「それ、もう食事じゃなくないですか!?」
だが拍手が起きた。なぜか教師たちも盛り上がっている。
その日から俺たちの給食は、机の上にホログラムで映し出されるようになった。見た目はステーキ。匂いはする。でも空気。
「うわ……味しないのにお腹いっぱいになった……気がする」
「校長、ある意味ダイエット革命っすね」
数日後、校長は教育雑誌にこう載っていた。
《食育の未来は光と空気にあり》
――俺たちの学校、未来に行きすぎだと思う。
そして今も、給食時間の校内放送で流れる。
「みなさん、今日の給食も一風変わっているでしょう。これは大切なお話ですからよく聞いてください。今、人類は食糧危機にさらされています。みなさんも『昆虫食』というのを聞いたことがあるでしょう。そうやって、今までは食べたことのないものを食べないと生きていけないということがこれから起こってきます。でもみなさんはそんな中でも生き抜いていく力をすでに持っているのです」
校長がそんな思いでこのおかしすぎる給食をはじめたとは――俺たちは力強くスプーンを空にかざして叫ぶ。
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