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#027 魔法道具屋の厄介な仕事
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ガタが来ている店の扉がきしみ、ドアベルが鳴った。入ってきたのは、背の高い男だ。外套のフードを目深に被り、顔はほとんど見えない。でも、感じるんだよ、ただの人間じゃないってことを。
「ここは、魔法道具をなんでも直せる店だと聞いた」
低い声でそう言われて、俺は苦笑いを浮かべながらカウンターに立った。
「そうだな。ただし内容による。うちの職人……つまり俺がやれる範囲内でということだ」
男は何も言わず、外套の長い袖から妙に細長い手を伸ばし、大きな包みをカウンターに置いた。中には、黒ずんだ金属片がいくつも入っている。
「これを元に戻してほしい」
俺は眉をひそめた。この金属片、ただの素材じゃない。魔法回路はずたずたに寸断されているが、まだわずかに魔力が残っている。つまり、完全に死んではいない。
「壊れた魔法道具だな?」
「そうだ。戦いで砕けたものだが、大事な品だ。元の状態に戻せるのは、お前の店くらいだと聞いて――」
正直に言おう、俺はこの仕事を断りたかった。素材を再生する魔法細工は並大抵の技術じゃないし、失敗すれば呪いの類を解放する危険もある。だが男の声には、何か切迫したものが込められていた。
「はぁー。厄介なもの持ってきたもんだな。まぁ、やるだけやってみるよ。ただ、修理には時間がかかるし、お代も通常の二倍はいただきたい」
男は短く頷くと、前金として重そうな革袋をカウンターにどしんと置いていった。その中にはコインがぎっしり詰まっている。報酬としては十分だろう。ここまでして直したいなら、こちらも気合を入れてがんばるしかない。
作業は想像以上に骨が折れた。金属片を一つ一つ手に取って魔力の痕跡を探し、うまく流れるように繋ぎ合わせる。魔法陣をつかい、さまざまな再構築の呪文を試してみた。この魔法道具がどの系統のものなのかわからなかったので、とにかく知識を総動員するしかない。糸口をつかんだのは、ものを預かってから五日が経過した頃だった。
そしてようやく仕上がったのは一振り剣。これで間違いはないはずだが、持ち主に確認をしてもらわなければわからない。しかし何とも見事な魔法道具である。剣の柄には古い紋章が刻まれていて、全身に震えがくるほど強烈な魔力を秘めていた。魔力回路は複雑で何層にもなっている。おそくだが西方のマシントの地で作られたものではないだろうか。
一振りで大地を裂き、いかづちを呼ぶ。だが、ここまでくると使いこなせる者は限られるだろう。
男が再び店を訪れたのは、偶然にもそのすぐ後だった。剣を見せると、彼はフードを外し、深々と頭を下げた。その顔には深い感謝の色が浮かんでいる。予想通り人ではなく獣人だ。
「――見事な腕前だ。もう、駄目かと思った」
そう呟くと、男は剣を手に取り愛おしそうに鞘をなでた。さぞかし大切なものだったに違いない。
男の後ろ姿を見ながら、俺はふと思った。俺が直したのは、ただの魔法道具じゃない。たぶん、あの男にとっては心を支える何かだったのだろう。柄にもなくいいことをしたような気持ちよさがあった。だからこの仕事はやめられない。
「ここは、魔法道具をなんでも直せる店だと聞いた」
低い声でそう言われて、俺は苦笑いを浮かべながらカウンターに立った。
「そうだな。ただし内容による。うちの職人……つまり俺がやれる範囲内でということだ」
男は何も言わず、外套の長い袖から妙に細長い手を伸ばし、大きな包みをカウンターに置いた。中には、黒ずんだ金属片がいくつも入っている。
「これを元に戻してほしい」
俺は眉をひそめた。この金属片、ただの素材じゃない。魔法回路はずたずたに寸断されているが、まだわずかに魔力が残っている。つまり、完全に死んではいない。
「壊れた魔法道具だな?」
「そうだ。戦いで砕けたものだが、大事な品だ。元の状態に戻せるのは、お前の店くらいだと聞いて――」
正直に言おう、俺はこの仕事を断りたかった。素材を再生する魔法細工は並大抵の技術じゃないし、失敗すれば呪いの類を解放する危険もある。だが男の声には、何か切迫したものが込められていた。
「はぁー。厄介なもの持ってきたもんだな。まぁ、やるだけやってみるよ。ただ、修理には時間がかかるし、お代も通常の二倍はいただきたい」
男は短く頷くと、前金として重そうな革袋をカウンターにどしんと置いていった。その中にはコインがぎっしり詰まっている。報酬としては十分だろう。ここまでして直したいなら、こちらも気合を入れてがんばるしかない。
作業は想像以上に骨が折れた。金属片を一つ一つ手に取って魔力の痕跡を探し、うまく流れるように繋ぎ合わせる。魔法陣をつかい、さまざまな再構築の呪文を試してみた。この魔法道具がどの系統のものなのかわからなかったので、とにかく知識を総動員するしかない。糸口をつかんだのは、ものを預かってから五日が経過した頃だった。
そしてようやく仕上がったのは一振り剣。これで間違いはないはずだが、持ち主に確認をしてもらわなければわからない。しかし何とも見事な魔法道具である。剣の柄には古い紋章が刻まれていて、全身に震えがくるほど強烈な魔力を秘めていた。魔力回路は複雑で何層にもなっている。おそくだが西方のマシントの地で作られたものではないだろうか。
一振りで大地を裂き、いかづちを呼ぶ。だが、ここまでくると使いこなせる者は限られるだろう。
男が再び店を訪れたのは、偶然にもそのすぐ後だった。剣を見せると、彼はフードを外し、深々と頭を下げた。その顔には深い感謝の色が浮かんでいる。予想通り人ではなく獣人だ。
「――見事な腕前だ。もう、駄目かと思った」
そう呟くと、男は剣を手に取り愛おしそうに鞘をなでた。さぞかし大切なものだったに違いない。
男の後ろ姿を見ながら、俺はふと思った。俺が直したのは、ただの魔法道具じゃない。たぶん、あの男にとっては心を支える何かだったのだろう。柄にもなくいいことをしたような気持ちよさがあった。だからこの仕事はやめられない。
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