ちいさな物語屋

うらたきよひこ

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#042 派遣会社からのご案内

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1日目

今日から研修が始まった。通知が来たのは一週間前、差出人は登録した派遣会社からだった。無職の俺は断る勇気もなく、指定されたバスに乗り込む。到着したのは山奥の施設。簡素な建物と、ひんやりとした空気が迎えてくれた。初日の課題は「水をバケツで運べ」だった。川から汲みあげて別の川へ流す。理由は教えてもらえない。俺、何かのドッキリにでも参加してるのか?

3日目

今日の課題は「ロープを結ぶ」。ただ、それだけだ。いくつもの結び方を延々と繰り返す。教官は無口で、正しいかどうかも、結ぶ理由も言わない。俺が「これ、何の意味が?」と尋ねても、「やるんだ」とだけ言われる。意味が分からない。でも、なぜかだんだんと結び方が早くなっている自分に気づいて少し驚いた。

7日目

今朝は山道を走らされた。走るだけかと思いきや、途中で謎の指示が飛ぶ。「あの木に登れ!」「岩にタッチ!」「足元の草を抜け!」
そして、夕方には部屋に集められて「今日の振り返りをしろ」と言われた。俺は単純に走った感想などを言ったが、他の連中は真面目に語っていた。いや、本当にこれ何の研修だよ? そういうことを口にしたやつもいたが、別室に連れていかれた。言わなくてよかった。

10日目

やっと分かった。この研修では、意味がないと思われることでも継続する精神力を鍛えるものだ。無職の俺にはもってこいの研修かもしれない。――と、ちょっと納得したけど、やっぱりまだモヤモヤする。だって、これが終わったら俺は何になるんだろう?

14日目

今日の課題はチームでの作業だった。重い木材を山の中腹まで運んでまた元の場所へ戻す。最初は誰も声を出さなかったけど、だんだん息が合ってきて、最後はみんな笑っていた。俺も気づけば笑っていた。こんな俺でも、仲間となら何かができるかもしれない。しかし気のせいかもしれないが、研修の参加者がずいぶんと減っているような?

20日目

研修が終わった。最後に教官が言った。「お前たちは、何にでもなれる。それを忘れるな」と。俺たちは山を下り、バスに乗り込んだ。この二十日間で、俺が何者かになれたかどうかは分からない。でも、指示さえあれば何でもできるような気がした。睡眠も最低限で問題ない。無意味だと思えることも理由を聞かずに延々と繰り返す根性もついた。

後日、さっそく派遣会社から仕事の紹介が届いた。どんな会社か検索してみると界隈では超有名なブラック中のブラック企業らしい。元社員らしき連中の愚痴が匿名掲示板にダラダラと書かれている。ただの根性なしの戯言にしか見えない。俺なら余裕だ。
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