ちいさな物語屋

うらたきよひこ

文字の大きさ
47 / 526

#046 チャラ男ホストの人気の秘密

しおりを挟む
「いらっしゃいませ~♡ 今夜は姫のために俺を捧げちゃうよん♪」
 
銀座の高級ホストクラブ。
テーブルに座るのは、やや疲れた様子の女性客。彼女の向かいで軽快にシャンパンを開けたのは、No.1ホスト・レイ。
 
「レイくん、相変わらずチャラいねぇ」
 
「いやいや、姫の前だからテンション上がっちゃうんよ~!」
 
白い歯を見せて笑うレイ。しかし、その目はふと、女性の肩越しを見た。そこには、誰もいないはずだが……。
 
(またか)
 
彼には、小さな頃から霊が視える能力があった。もちろん、ホストの世界ではそんな話をするわけにもいかない。だから、彼は何にも気づかない”チャラ男”を演じて生きていた。そうでもしないとやってられない。
 
「姫、きれいなお顔がお疲れモードじゃん。最近なんか悪いこと続いてない?」
 
「え……わかるの?」
 
「ん~、オーラがちょっとモヤモヤしてる気がするんよね~」
 
本当は、女性の背後にしがみつく黒い影が視えていた。生霊かもしれない。女性は名うての経営者。恨みを買うことも少なくないだろう。
 
「ヤダ、オーラってなによ。また変なこと言い出すんだから」
 
「姫さま~、ちょっと手出して?」
 
「え、なんで?」
 
「いいからいいから! 姫だけに、レイくんの秘密のおまじない♪」
 
彼は女性の手を優しく握り、念を込める。これは別になんらかの呪法とかそういうものではない。接触することで声が届きやすくなるだけだ。「お前、ふざけてんじゃねぇよ。どうなるかわかってて生霊飛ばしてんのか?」と、心のなかで啖呵を切ると、一瞬だけ空気が震え、影がフッと消えた。
 
生霊を飛ばせば本人も気づかない間に寿命を削られるらしい。まさに命をかけての呪いだ。実をいうとそれを追い返のもキツい。レイは別に霊媒師とかそういうものでもないし、あやしげな週刊誌記事の霊能特集や自身の経験を元にやっているだけなのだ。
 
「……あれ?」
 
「どしたん?」
 
「なんか……急に肩が軽くなった気がする」
 
「それはねぇ~、俺の愛が届いたからよ♡」
 
ふざけた調子でウインクするレイ。しかし、彼の額には薄く汗が滲んでいた。
 
(結構恨まれてたみたいだったな……)
 
「レイくん、本当はすごい人なんじゃない?」
 
「え、何? 俺のイケメンっぷりに気づいちゃった?」
 
「違う違う! なんか、ただのホストじゃない感じ……」
 
レイは一瞬、言葉を詰まらせた。しかし、すぐに笑顔を取り戻す。
 
「姫、ホストなんてみんな魔法使いみたいなもんよ! だって、会うだけで元気になれるっしょ?」
 
「……確かに、今日はすごく楽しい!」
 
「それな♡ だから疲れたらまた来てね~!」
 
彼はそう言いながら、心の中でそっと呟く。
 
(憑かれたらまた来てね)
 
今夜もまた、チャラい演技の裏で、誰かをそっと救う。レイに会うと元気になれる。これがNo.1ホスト・レイの秘密。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...