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#060 無職! 桃太郎、行きます!!
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「桃太郎になってくれませんか?」
知らない男に、いきなりそう頼まれたのは、俺が会社をクビになり、ヤケ酒をあおっていた夜のことだった。
「は?」
「いや、だから。鬼を退治してほしいんです。報酬は……1000万円でどうでしょう」
1000万か……。悪くない気もするけど、相場がわからない。
「鬼って、あの昔話の?」
男は無表情でうなずいた。
「現代においても鬼は存在します。あなたには、その退治をお願いしたいのです」
こいつは酔っ払いだ。そして俺も酔っ払いだ。そして無職に1000万は魅力的だ。
「……やってもいいよ。で、鬼ってどこにいるんだ?」
男はスマホを取り出し、俺に地図を見せた。そこには「鬼ヶ島」と書かれている。
「マジかよ」
「マジです」
怪しさ満点だったが、金は欲しい。
問題は仲間だった。桃太郎っていったら仲間だろう。腕組みをして黙り込む俺の考えを察したように男は「お供も用意しました」とささやいた。犬・猿・雉の代わりに紹介されたのは——。
・元ヤ○ザの「犬飼(いぬかい)」
・詐欺師まがいのコンサル「猿田(さるた)」
・情報屋の女「雉山(きじやま)」
全員、人間。そして、開口一番、彼らはこう言った。
「きびだんご? そんなもんいらねえよ。現金、前払いで頼む」
俺は頭を抱えた。前払いか。貯金で何とかならないこともない。
——こうして俺たち「現代の桃太郎一味」は、鬼ヶ島へ向かった。
鬼ヶ島は、離島にある巨大な企業の本社ビルだった。本社を離島に置くなんてまともじゃないだろ。
「なあ、そもそも鬼って何なんだよ?」
俺がそう聞くと、犬飼がニヤリと笑った。
「資本主義の象徴さ。搾取し、支配し、富を独占する連中……そいつらが“鬼”ってわけだ」
よくわからん。
俺たちはビルに潜入し、「鬼」に会った。
それは年老いたスーツ姿の男だった。いかにもお金持ってます風だ。
「君たちが新しい桃太郎かね?」
男は静かに笑った。古い桃太郎もいたのか。旧桃太郎どうなったんだろう。
「どうする? 俺たちに斬られるか?」
犬飼がナイフをちらつかせる。しかし、鬼は落ち着いた様子で首を横に振った。
「いや、戦う必要はない。むしろ——君たちを買収したい」
「は?」
鬼は微笑みながら、俺に一枚の契約書を差し出した。
「ここにサインすれば、君たちはこの会社の幹部になれる。その場合の報酬は……1000万どころではないよ?」
俺は、仲間たちと顔を見合わせた。
コンサルに詳しい猿田が鬼から契約書をひったくってじっくりと読んでいく。なんだこの時間は。
「まぁ、妥当っちゃ妥当ですかね。ただ、鬼さん、ここの『印字したら文字潰れちゃった』感のあるとこ、拡大して追加で出してください。――ったく、油断も隙もない」
そこへ雉山も割って入る。
「契約の前に決算書類で財務状況を確認するのを忘れないで。そもそもその契約料は支払可能なの? 個人的には三年前の赤字決算の本当の原因がひっかかるわ。あれ、裏があるんでしょう?」
犬飼はポケットから煙草を取り出し、ニヤリと笑った。
「さて、桃太郎さん。どうするよ?」
——俺たちは、この鬼を退治するべきなのか、契約すべきなのか。いや、そもそも俺は何をやってんだ? どう考えても、明日職安行った方がいいよな。
知らない男に、いきなりそう頼まれたのは、俺が会社をクビになり、ヤケ酒をあおっていた夜のことだった。
「は?」
「いや、だから。鬼を退治してほしいんです。報酬は……1000万円でどうでしょう」
1000万か……。悪くない気もするけど、相場がわからない。
「鬼って、あの昔話の?」
男は無表情でうなずいた。
「現代においても鬼は存在します。あなたには、その退治をお願いしたいのです」
こいつは酔っ払いだ。そして俺も酔っ払いだ。そして無職に1000万は魅力的だ。
「……やってもいいよ。で、鬼ってどこにいるんだ?」
男はスマホを取り出し、俺に地図を見せた。そこには「鬼ヶ島」と書かれている。
「マジかよ」
「マジです」
怪しさ満点だったが、金は欲しい。
問題は仲間だった。桃太郎っていったら仲間だろう。腕組みをして黙り込む俺の考えを察したように男は「お供も用意しました」とささやいた。犬・猿・雉の代わりに紹介されたのは——。
・元ヤ○ザの「犬飼(いぬかい)」
・詐欺師まがいのコンサル「猿田(さるた)」
・情報屋の女「雉山(きじやま)」
全員、人間。そして、開口一番、彼らはこう言った。
「きびだんご? そんなもんいらねえよ。現金、前払いで頼む」
俺は頭を抱えた。前払いか。貯金で何とかならないこともない。
——こうして俺たち「現代の桃太郎一味」は、鬼ヶ島へ向かった。
鬼ヶ島は、離島にある巨大な企業の本社ビルだった。本社を離島に置くなんてまともじゃないだろ。
「なあ、そもそも鬼って何なんだよ?」
俺がそう聞くと、犬飼がニヤリと笑った。
「資本主義の象徴さ。搾取し、支配し、富を独占する連中……そいつらが“鬼”ってわけだ」
よくわからん。
俺たちはビルに潜入し、「鬼」に会った。
それは年老いたスーツ姿の男だった。いかにもお金持ってます風だ。
「君たちが新しい桃太郎かね?」
男は静かに笑った。古い桃太郎もいたのか。旧桃太郎どうなったんだろう。
「どうする? 俺たちに斬られるか?」
犬飼がナイフをちらつかせる。しかし、鬼は落ち着いた様子で首を横に振った。
「いや、戦う必要はない。むしろ——君たちを買収したい」
「は?」
鬼は微笑みながら、俺に一枚の契約書を差し出した。
「ここにサインすれば、君たちはこの会社の幹部になれる。その場合の報酬は……1000万どころではないよ?」
俺は、仲間たちと顔を見合わせた。
コンサルに詳しい猿田が鬼から契約書をひったくってじっくりと読んでいく。なんだこの時間は。
「まぁ、妥当っちゃ妥当ですかね。ただ、鬼さん、ここの『印字したら文字潰れちゃった』感のあるとこ、拡大して追加で出してください。――ったく、油断も隙もない」
そこへ雉山も割って入る。
「契約の前に決算書類で財務状況を確認するのを忘れないで。そもそもその契約料は支払可能なの? 個人的には三年前の赤字決算の本当の原因がひっかかるわ。あれ、裏があるんでしょう?」
犬飼はポケットから煙草を取り出し、ニヤリと笑った。
「さて、桃太郎さん。どうするよ?」
——俺たちは、この鬼を退治するべきなのか、契約すべきなのか。いや、そもそも俺は何をやってんだ? どう考えても、明日職安行った方がいいよな。
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