ちいさな物語屋

うらたきよひこ

文字の大きさ
67 / 526

#065 肉の正体

しおりを挟む
「この肉……どこ産なんだ?」

ステーキナイフを持ちながら、俺はシェフに尋ねた。

「珍しいですよ」シェフはにやりと笑う。「地球では、なかなか食べられませんから」

地球?

噛み締めた瞬間、ジューシーな肉汁が口の中に広がる。豊潤な香り、深みのある味わい。確かに、これまでに食べたどの肉とも違った。噂どおり素晴らしい肉だ。

「そもそもなんの肉だ? 牛肉とはちょっと違うな」

「それは……お客様が食事を終えた後に」

シェフはウィンクをして、カウンターの向こうへ去った。

店の名は《満天房》。紹介制の超高級レストランでここに来るまで何年もかかった。ここでは「特別な肉」が供されるという噂があり、グルメを気取っていた俺がスルーするわけにはいかなかったのだ。

だが——俺は知らなかった。それが何の肉なのかを。

ワインを飲みながら、他の客を観察する。

どの客も、静かにナイフとフォークを動かし、陶酔した表情で肉を味わっている。その目は、まるで神聖な儀式に参加しているかのように恍惚としていた。

俺の前に座る女が微笑む。

「初めて?」

「ええ、まあ」

「気に入った?」

「……正直、驚くほどに」

「でしょう?」

女は楽しそうにグラスを傾ける。

「この店、二度と来ないって決めるか、一生通い続けるか、そのどちらかよ」

「……どういう意味です?」

彼女は意味ありげに笑う。

「食べ終わったら、わかるわ」

皿を空にすると、シェフが再び現れた。

「食事はお口に合いましたか?」

「ああ、最高だった」

「それはよかった。さて、ではお答えしましょう。この肉の正体を」

シェフが指を鳴らすと、店の奥からウェイターたちが現れた。彼らは銀の蓋を乗せたトレイを持っている。

「では、ご覧ください」

銀の蓋が持ち上げられる——。

そこには、人間に酷似した顔があった。

だが、違う。肌は青白く、眼窩は深く、耳は鋭く尖っている。

「……これは?」

「一般的には宇宙人と呼ばれています」

「冗談だろ?」

「いいえ、彼らは地球に紛れ込んでいます。よくないこともしてますよ。だから時折捕獲される」

俺は冷や汗をかきながら、喉を鳴らした。

「いえね、あまりにも増えたんで駆除するようにと指示されまして、この店を始めたんです」

「し、指示って……誰に?」

「お客様はお聞きにならない方がよろしいですよ」

「た、食べたのはこいつの肉?」

「その通り。いかがでしたか?」

胃の奥から湧き上がる感覚――それは吐き気ではなかった。

俺の体があの肉を求めている。もっと、食べたい、と。

女が、妖艶に微笑む。

「ねえ、あなたもこっち側に来る?」

店内の客たちが一斉にこちらを見る。

俺の答えはすでに決まっていた——。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...