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#161 ボロアパートの異世界魔導士
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まさかさ、冗談だと思うだろ?
「異世界から魔導士が来る」なんて。ファンタジー小説かよって。そういうのもだいたいこっちが転生とかして向こう行くもんじゃないの?
でもさ、来たんだよ。しかも、俺のボロアパートに、だ。
俺はというと、地味なサラリーマン。特技も夢もなく、淡々と生きてる男。
そんな俺の部屋に、ある日突然現れたのは―― 長い銀髪に漆黒のローブ、目つき鋭い中二病全開の男だった。
最初はちょっと頭をやっちゃった強盗かと思ってびっくりしたんだけど、奴が開口一番こう言ったんだ。
「ここは……どの異界だ? 魔力の気配が皆無だ」
……いや、何言ってんのこいつ? ってなるよな。
続けざまに男は胸を張って言う。
「我が名はアルトリウス・グラン=フェルド。大陸を救いし大魔導士なり。身を張って異界の門を封じたはずだが、まだ生きていたのか……」
名前と設定、かっこよすぎんか?
そしてさらに驚いたことに、こいつ、この世界でちゃんと魔法が使えるらしい。
俺が手を滑らせて落としかけたカップ麺を、ふわっと浮かせて戻してきやがった。マジックとかじゃなくて、本当の本物?
「む……これは、何かの呪物か?」
「いや、それ食い物。お湯注いで3分待つだけ」
「なるほど。湯と麺を魔法で融合させる……実に高度な呪術だな」
ちげぇよ!!
そんなこんなで仕方なくその魔導士?の面倒を見ることになってしまったわけ。放り出したりしたら大騒ぎになりそうだし、仕方ないよな。
だが、すぐにその判断を後悔したね。
異世界の人間と一緒に暮らすのはそう簡単じゃなかった。まずこの世界の常識が通用しないのがつらい。教えたって聞きゃしない。
「目立つから服、俺のに着替えて」
当然、服の着方も分からない。
「貧相な布だな」
いちいち腹立つ。しかも着替えたら着替えたで俺より着こなしてて、これも腹が立つ。足がたいそう長いご様子で裾が全然足らない。
「これだからスタイルのいいイケメンは」
同じ服を着ると顔面格差まで際立つ。
「なんだ?」
本人はきょとんとしている。
外に連れ出すのはさらに厄介だった。
コンビニに連れて行った時なんか、入った瞬間に大声で叫びやがった。
「この扉、勝手に開いたぞ!? 術者はどこだ? 転移結界か!?」
「落ち着け! 自動ドアだ」
……店員さん、めちゃくちゃ引いてたよ。
極めつけは、レジで「お弁当温めますか?」と聞かれた時。
「ほう……我が力を試す気か。熱を操る術は、古来より高度な術とされておるのだぞ! 言っておくが炎を使うのではないぞ」
変なとこでブチギレんな! マジで勘弁してくれ。
「すみません、こいつ異世界から来たんで……」と必死に謝って店を後にした。よく考えたら俺の言っていることも、あまりフォローになってないんだが。
そんな奇行の連続ではあったが、ある日、ちょっとした事件が起きた。
近所の公園で小さな子供たちが上級生らしき子供たちにいじめられているのを見かけたアル(略称)が、「弱いものをいじめるとは……」と、めずらしくまともそうなことを言って公園に入っていった。そして真っすぐに歩み寄ると、空中に魔法陣を展開、パチパチと火花を散らして驚かせ、その上級生たちを追い払った。
「な、何なんだ今の!?」「手品!?」「お兄さんすげー!」
慌てた俺は、「すごいだろ、手品師なんだよ!」と苦し紛れに説明した。
悪いやつ……じゃ、ないんだよな。
――俺の生活は確かに騒がしくなった。けど、退屈ではなくなった。
ある日、社会経験を積ませようとアルにバイトの面接を受けさせたが……。
「どうも! 我が名はアルトリウス・グラン=フェルド――」
そこまではよかった。よくないけど、その先に起こったことに比べればなんてことはない。
問題はその面接官が今どき圧迫面接を仕掛けるという化石のようなやつだったことだ。
当然、アルはそんな扱いを受けて大人しくしているようなやつじゃない。まぁ、いろいろあって、即・不採用。
「この世界ではあのようなふるまいが普通なのか?」
と、真顔で問うアルに俺は何も言えない。
「この世界で魔力の循環がない理由がわかった気がする……」
「どういうこと?」
「いや、いいんだ」
その後、アルは炊飯器を『火の精霊箱』と呼びながらもきちんと扱えるようになり、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機など家電の使用方法も次々と習得していった。
「そういえば、アル、初めて会ったときに『大陸を救った』とか『身を張った』とか、言ってたけど、あれは何があったんだ?」
「うん? そのままだ。死んだ――はずだったんだがな。異界の門が開き、大陸を侵略しようとする魔族が入ってきた。だから命と引き換えに門を閉じた。それだけだ」
「それだけって……。アルがやらなきゃいけなかったのか、それ」
「俺が世界で一番強い魔導士だったから。強いものが弱いものを守る、それが元いた世界の流儀だった。それによって魔力が世界を循環するんだ」
そういえば、以前もそんなようなことを言っていたような。
「この世界で魔力が循環しない理由がよくわからなかったが、ここはきみのように立場の弱いものを助ける者ばかりではない。それが原因だと先日理解した」
おや。ちょっと褒められているのか。いや、この世界全体のことはディスられている。
「俺は別にアルの立場が弱いから助けようとしたわけじゃないけどな。なんというか……アルといると退屈しないから。まあ、なんというか、自己都合ってやつなんだけど」
めずらしくアルは笑った。
「気にするな。その世界にはその世界の流儀というものがある。この世界も悪いことばかりではない」
「異世界から魔導士が来る」なんて。ファンタジー小説かよって。そういうのもだいたいこっちが転生とかして向こう行くもんじゃないの?
でもさ、来たんだよ。しかも、俺のボロアパートに、だ。
俺はというと、地味なサラリーマン。特技も夢もなく、淡々と生きてる男。
そんな俺の部屋に、ある日突然現れたのは―― 長い銀髪に漆黒のローブ、目つき鋭い中二病全開の男だった。
最初はちょっと頭をやっちゃった強盗かと思ってびっくりしたんだけど、奴が開口一番こう言ったんだ。
「ここは……どの異界だ? 魔力の気配が皆無だ」
……いや、何言ってんのこいつ? ってなるよな。
続けざまに男は胸を張って言う。
「我が名はアルトリウス・グラン=フェルド。大陸を救いし大魔導士なり。身を張って異界の門を封じたはずだが、まだ生きていたのか……」
名前と設定、かっこよすぎんか?
そしてさらに驚いたことに、こいつ、この世界でちゃんと魔法が使えるらしい。
俺が手を滑らせて落としかけたカップ麺を、ふわっと浮かせて戻してきやがった。マジックとかじゃなくて、本当の本物?
「む……これは、何かの呪物か?」
「いや、それ食い物。お湯注いで3分待つだけ」
「なるほど。湯と麺を魔法で融合させる……実に高度な呪術だな」
ちげぇよ!!
そんなこんなで仕方なくその魔導士?の面倒を見ることになってしまったわけ。放り出したりしたら大騒ぎになりそうだし、仕方ないよな。
だが、すぐにその判断を後悔したね。
異世界の人間と一緒に暮らすのはそう簡単じゃなかった。まずこの世界の常識が通用しないのがつらい。教えたって聞きゃしない。
「目立つから服、俺のに着替えて」
当然、服の着方も分からない。
「貧相な布だな」
いちいち腹立つ。しかも着替えたら着替えたで俺より着こなしてて、これも腹が立つ。足がたいそう長いご様子で裾が全然足らない。
「これだからスタイルのいいイケメンは」
同じ服を着ると顔面格差まで際立つ。
「なんだ?」
本人はきょとんとしている。
外に連れ出すのはさらに厄介だった。
コンビニに連れて行った時なんか、入った瞬間に大声で叫びやがった。
「この扉、勝手に開いたぞ!? 術者はどこだ? 転移結界か!?」
「落ち着け! 自動ドアだ」
……店員さん、めちゃくちゃ引いてたよ。
極めつけは、レジで「お弁当温めますか?」と聞かれた時。
「ほう……我が力を試す気か。熱を操る術は、古来より高度な術とされておるのだぞ! 言っておくが炎を使うのではないぞ」
変なとこでブチギレんな! マジで勘弁してくれ。
「すみません、こいつ異世界から来たんで……」と必死に謝って店を後にした。よく考えたら俺の言っていることも、あまりフォローになってないんだが。
そんな奇行の連続ではあったが、ある日、ちょっとした事件が起きた。
近所の公園で小さな子供たちが上級生らしき子供たちにいじめられているのを見かけたアル(略称)が、「弱いものをいじめるとは……」と、めずらしくまともそうなことを言って公園に入っていった。そして真っすぐに歩み寄ると、空中に魔法陣を展開、パチパチと火花を散らして驚かせ、その上級生たちを追い払った。
「な、何なんだ今の!?」「手品!?」「お兄さんすげー!」
慌てた俺は、「すごいだろ、手品師なんだよ!」と苦し紛れに説明した。
悪いやつ……じゃ、ないんだよな。
――俺の生活は確かに騒がしくなった。けど、退屈ではなくなった。
ある日、社会経験を積ませようとアルにバイトの面接を受けさせたが……。
「どうも! 我が名はアルトリウス・グラン=フェルド――」
そこまではよかった。よくないけど、その先に起こったことに比べればなんてことはない。
問題はその面接官が今どき圧迫面接を仕掛けるという化石のようなやつだったことだ。
当然、アルはそんな扱いを受けて大人しくしているようなやつじゃない。まぁ、いろいろあって、即・不採用。
「この世界ではあのようなふるまいが普通なのか?」
と、真顔で問うアルに俺は何も言えない。
「この世界で魔力の循環がない理由がわかった気がする……」
「どういうこと?」
「いや、いいんだ」
その後、アルは炊飯器を『火の精霊箱』と呼びながらもきちんと扱えるようになり、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機など家電の使用方法も次々と習得していった。
「そういえば、アル、初めて会ったときに『大陸を救った』とか『身を張った』とか、言ってたけど、あれは何があったんだ?」
「うん? そのままだ。死んだ――はずだったんだがな。異界の門が開き、大陸を侵略しようとする魔族が入ってきた。だから命と引き換えに門を閉じた。それだけだ」
「それだけって……。アルがやらなきゃいけなかったのか、それ」
「俺が世界で一番強い魔導士だったから。強いものが弱いものを守る、それが元いた世界の流儀だった。それによって魔力が世界を循環するんだ」
そういえば、以前もそんなようなことを言っていたような。
「この世界で魔力が循環しない理由がよくわからなかったが、ここはきみのように立場の弱いものを助ける者ばかりではない。それが原因だと先日理解した」
おや。ちょっと褒められているのか。いや、この世界全体のことはディスられている。
「俺は別にアルの立場が弱いから助けようとしたわけじゃないけどな。なんというか……アルといると退屈しないから。まあ、なんというか、自己都合ってやつなんだけど」
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