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#230 転生したらパーティにコンビニ店員がいた件
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「転生です、おめでとうございます」
白い空間で、ローブ姿の女神らしき人がそう告げた。よくある異世界転生モノだ。事故で命を落とした僕は、第二の人生を歩むらしい。
「ではスキルを選んでください。剣? 魔法? 錬金術? 他に希望があれば、対応できるかわかりませんが、うかがいますよ」
本当にこういうのあるんだ。事前にもっと考えておけばよかったな。でもとりあえず、異世界行くなら剣か魔法だろう。
「あ、えっと……じゃあ、まぁ、とりあえず剣術?」
女神は少しだけ驚いた顔をしたが、笑ってうなずいた。
「めちゃくちゃ無難な選択ですね」
こうして僕は、異世界に転生した。
そして、最初に加入した冒険者パーティで、僕は彼と出会った。彼のジョブは「コンビニ店員」だった。異世界にコンビニってあったっけ?
「よろしくお願いします。君も転生者なのですね? 私はコンドウです。職業はコンビニ店員です」
「それって元の世界の職業でしょう?」
思わず聞き返すと、彼はふっと笑った。
「その通りです。この世界は、まだまだ非効率すぎます。私のようなコンビニ店員は案外重宝されるのです」
そして、その話は本当だった。
彼は何も武器を持たない。大きなバッグに、魔法石やポーション、巻物をびっしり詰めている。歩くコンビニ状態だ。そして定期的に「商品前出し」と言って、使いやすいように並べ直している。
「ポーションは手前、魔法石は色順、巻物は用途別です。そして可能な限りこの状態を維持します。考え方は顧客導線と同じですね」
戦闘中、僕が剣を振るう横で、彼は信じられない速度で支援と指示を繰り出す。
「はい、回復です。次、バフです! 今です。炎系の魔法を!」
完璧なタイミング。まるでコンビニのピークタイムのような流れる指示。彼は「仕事」として冒険を捉えていた。
「討伐依頼は午前に回します。午後は納品チェックと報酬申請です」
「依頼書は端から読まないでください。要点だけ3秒でスキャンしてください」
「チームの中で一番“手が空く”人が次の行動を組み立てます。社会の基本です」
僕はだんだん彼の特性を理解していった。その動きはまさに「コンビニ店員」としか呼びようがない。
僕の方が剣の腕前では勝っているはずなのに、彼の前ではただの駒のように思えてくる。
ある日、ダンジョン攻略で仲間が足を怪我したとき、彼は即座に判断した。
「この状況では回復より帰還を優先します。物資の残りと残存敵数から逆算して、撤退しかありません。異論はありますか?」
リーダーの戦士が手を挙げた。
「いや、ここまで来て撤退はないだろう。ここまでの損害が大きすぎる」
怪我をしたのは攻撃の要となる魔法使いの男性で、怪我の状態から回復に使うアイテムは十分とはいえない。もちろん先に進むなら、僕らも回復アイテムを使う必要があり、最悪ボス戦前にアイテムが尽きて全滅する。
僕がコンドウの意見に賛同しようと手を挙げる前にコンドウが言葉を重ねた。
「いいですか。覚えておいてください。それはサンクコスト効果といいます。ここまでかかった費用に注意を奪われて、正常な判断ができていません。確かに勝率はゼロではありません。しかし、全滅の可能性がどれくらいあるか、わかっていますか?」
リーダーはぐっと言葉に詰まった。もしかしてコンドウは心理学にも精通しているのか。どんなコンビニ店員だよ。
それから数週間後。僕らのパーティは中級から一気に“銀ランク”まで昇格した。
ギルドの受付嬢が感嘆の声を漏らした。
「この速さで銀ランク到達なんて、まさに奇跡……!」
「いいえ、マニュアル通りです」
コンドウは淡々と答えた。
彼は奇跡を起こしていたのではない。ただ、手順通りに、効率よく、正しく処理していただけだった。
でも、そんな彼にも弱点があった。
ある日、村を襲った大型魔獣。緊急討伐依頼が出されたが、コンドウは不参加を申し出た。
「……私は、突発案件には弱いのです。即応性が落ちます」
彼はきっちり計画を立て、準備した上で動く。だからこそ正確なのだ。
「今回は私以外のメンバーで行ってください」
彼抜きでの戦いは、正直に言って地獄だった。物資の配置ミス、支援の遅延、判断の食い違い。僕らは命からがら撤退した。
帰ってきた僕に、コンドウはすぐ次の依頼の整理を始めた。
「今後は代替フローも組みます。あの場面での補欠対応を明文化しておきましょう」
誰よりも仲間を信頼していて、誰よりも現場を理解していた。
「しかし――」
ある夜、彼がぽつりと言った。
「こっちの世界、レジ締めも棚卸しもないから、ちょっと寂しいですね」
「え? いや、そっちの方が楽じゃ……?」
「違いますよ。終わりがあるから、次に備えられるのです」
その言葉が、今でも忘れられない。
彼は戦士ではなかった。魔導士でもない。ただのコンビニ店員だった。でも、そんな彼がいるだけで、パーティが回るようになっていた。
そして今日もまた、コンドウは言う。
「冒険というのは業務です。業務であれば、ミスなく回すのがプロというものです」
異世界でも、最強の職業は「コンビニ店員」なのかもしれない。
白い空間で、ローブ姿の女神らしき人がそう告げた。よくある異世界転生モノだ。事故で命を落とした僕は、第二の人生を歩むらしい。
「ではスキルを選んでください。剣? 魔法? 錬金術? 他に希望があれば、対応できるかわかりませんが、うかがいますよ」
本当にこういうのあるんだ。事前にもっと考えておけばよかったな。でもとりあえず、異世界行くなら剣か魔法だろう。
「あ、えっと……じゃあ、まぁ、とりあえず剣術?」
女神は少しだけ驚いた顔をしたが、笑ってうなずいた。
「めちゃくちゃ無難な選択ですね」
こうして僕は、異世界に転生した。
そして、最初に加入した冒険者パーティで、僕は彼と出会った。彼のジョブは「コンビニ店員」だった。異世界にコンビニってあったっけ?
「よろしくお願いします。君も転生者なのですね? 私はコンドウです。職業はコンビニ店員です」
「それって元の世界の職業でしょう?」
思わず聞き返すと、彼はふっと笑った。
「その通りです。この世界は、まだまだ非効率すぎます。私のようなコンビニ店員は案外重宝されるのです」
そして、その話は本当だった。
彼は何も武器を持たない。大きなバッグに、魔法石やポーション、巻物をびっしり詰めている。歩くコンビニ状態だ。そして定期的に「商品前出し」と言って、使いやすいように並べ直している。
「ポーションは手前、魔法石は色順、巻物は用途別です。そして可能な限りこの状態を維持します。考え方は顧客導線と同じですね」
戦闘中、僕が剣を振るう横で、彼は信じられない速度で支援と指示を繰り出す。
「はい、回復です。次、バフです! 今です。炎系の魔法を!」
完璧なタイミング。まるでコンビニのピークタイムのような流れる指示。彼は「仕事」として冒険を捉えていた。
「討伐依頼は午前に回します。午後は納品チェックと報酬申請です」
「依頼書は端から読まないでください。要点だけ3秒でスキャンしてください」
「チームの中で一番“手が空く”人が次の行動を組み立てます。社会の基本です」
僕はだんだん彼の特性を理解していった。その動きはまさに「コンビニ店員」としか呼びようがない。
僕の方が剣の腕前では勝っているはずなのに、彼の前ではただの駒のように思えてくる。
ある日、ダンジョン攻略で仲間が足を怪我したとき、彼は即座に判断した。
「この状況では回復より帰還を優先します。物資の残りと残存敵数から逆算して、撤退しかありません。異論はありますか?」
リーダーの戦士が手を挙げた。
「いや、ここまで来て撤退はないだろう。ここまでの損害が大きすぎる」
怪我をしたのは攻撃の要となる魔法使いの男性で、怪我の状態から回復に使うアイテムは十分とはいえない。もちろん先に進むなら、僕らも回復アイテムを使う必要があり、最悪ボス戦前にアイテムが尽きて全滅する。
僕がコンドウの意見に賛同しようと手を挙げる前にコンドウが言葉を重ねた。
「いいですか。覚えておいてください。それはサンクコスト効果といいます。ここまでかかった費用に注意を奪われて、正常な判断ができていません。確かに勝率はゼロではありません。しかし、全滅の可能性がどれくらいあるか、わかっていますか?」
リーダーはぐっと言葉に詰まった。もしかしてコンドウは心理学にも精通しているのか。どんなコンビニ店員だよ。
それから数週間後。僕らのパーティは中級から一気に“銀ランク”まで昇格した。
ギルドの受付嬢が感嘆の声を漏らした。
「この速さで銀ランク到達なんて、まさに奇跡……!」
「いいえ、マニュアル通りです」
コンドウは淡々と答えた。
彼は奇跡を起こしていたのではない。ただ、手順通りに、効率よく、正しく処理していただけだった。
でも、そんな彼にも弱点があった。
ある日、村を襲った大型魔獣。緊急討伐依頼が出されたが、コンドウは不参加を申し出た。
「……私は、突発案件には弱いのです。即応性が落ちます」
彼はきっちり計画を立て、準備した上で動く。だからこそ正確なのだ。
「今回は私以外のメンバーで行ってください」
彼抜きでの戦いは、正直に言って地獄だった。物資の配置ミス、支援の遅延、判断の食い違い。僕らは命からがら撤退した。
帰ってきた僕に、コンドウはすぐ次の依頼の整理を始めた。
「今後は代替フローも組みます。あの場面での補欠対応を明文化しておきましょう」
誰よりも仲間を信頼していて、誰よりも現場を理解していた。
「しかし――」
ある夜、彼がぽつりと言った。
「こっちの世界、レジ締めも棚卸しもないから、ちょっと寂しいですね」
「え? いや、そっちの方が楽じゃ……?」
「違いますよ。終わりがあるから、次に備えられるのです」
その言葉が、今でも忘れられない。
彼は戦士ではなかった。魔導士でもない。ただのコンビニ店員だった。でも、そんな彼がいるだけで、パーティが回るようになっていた。
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