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第二話『同じ穴のお嫁さん』
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「お茶会、ですか?」
「ああ、実は時々友人とお茶会をしていたんだけどね。桃ちゃんが来てからは、少し控えていたんだ。明日約束していてね。久々に会おうって話になったのだけど、どうかな」
はあ、とはっきりしない返事をした私はお茶会とは何なのかを考えはじめた。
はじめに出てきたのは、家の人の中でも女性がよく出かけていた口実だった気がする。特に、娘さんが友人と出かけるときにその話をしていた。お金持ちだからなのか、ちょっとお高いお菓子を持っておしゃべりをするらしい。
私には夢のまた夢の話だったので、全く関係なかったのだが。
しばらく口を閉ざしていると、不安そうに「む、無理ならいいんだ!」と目の前で手をブンブンと振っていた。
「いえ、大丈夫です。それよりも、私が来てしまったせいで楽しみを減らしてしまい、申し訳ありません」
「そんなの、気にする必要はないよ。向こうも、わたしと同じように人間のお嫁さんがいるからね」
「え」
「意外だと思うだろう? でもね、ここら辺の神様は同じことをしている人が多いんだ。だから、桃ちゃんのお友達になれたらなって、思っているんだけど……」
どうかな、と私の顔色をうかがっているウスズミ様。私がここに嫁いできて、約半年が過ぎた。その間に、前妻の方が何をしていたのか説明を受け、細かいところまで隅々聞いた。
私がするべきことは、村にいた時とあまり変わらない。朝起きてからご飯を作り、洗濯をし、掃除をする。終わったらお昼ご飯の準備をしてから掃き掃除や拭き掃除の細かいところまで進めていく。夕食を作った後は、ウスズミ様と一緒にお話をしたり自室に戻って好きなことをしたり、各々自由に過ごしていいと言われた。
しかし、生憎私には自分の好きなことが思いつかないので、こうしてウスズミ様の話し相手として座っていることが多い。何か趣味でも見つけられたらいいのにね、とどうしてかウスズミ様がずっと悩んでいる。
お友達ができるかもしれないとなると、私にとって気が休まるとでも考えたのだろう。感謝の気持ちはあるが、この村から出たことのない私に会話ができるだろうか。
「私なんかで、いいのでしょうか」
「私なんか、じゃないよ。桃ちゃんだから、大丈夫だと思ったんだ。神様のお嫁さんなんて特殊な状況の人、なかなかいないからね。きっと、良き相談相手になってくれるよ」
良き相談相手。口を閉ざしたまま、反芻する。相談するようなこともなかった自分の人生を考えると、初めてかもしれない。私のことを偏見の目で見ることなく、話してくれるかもしれない人。
私が口をつぐんだまま動かずにいると、正座している太ももの上に手を乗せてきた。
「大丈夫だよ。あの子は、本当にいい子だから。きっと、桃ちゃんの良き理解者になってくれるから」
だから、と言葉を続けようとした時、「分かりました」と返事をした。
「会って、みます。もし嫌われたら、ごめんなさい」
「そんなこと、考えなくていいんだよ。わたしは桃ちゃんに他の世界を見て欲しいだけだからね」
私の太ももに置かれていた手は、いつの間にか頭の上に移動していたらしい。自然と下を向いていたのだが、上からの重力に頭が揺れる。大きく、乾燥した手が私の頭上を右へ左へ動いていく。されるがままの私は、首を縦に振った。私の行動が見えていたのか、見えていないのか、「楽しみだねぇ」と言いながら、また違う話を始めた。
「ああ、実は時々友人とお茶会をしていたんだけどね。桃ちゃんが来てからは、少し控えていたんだ。明日約束していてね。久々に会おうって話になったのだけど、どうかな」
はあ、とはっきりしない返事をした私はお茶会とは何なのかを考えはじめた。
はじめに出てきたのは、家の人の中でも女性がよく出かけていた口実だった気がする。特に、娘さんが友人と出かけるときにその話をしていた。お金持ちだからなのか、ちょっとお高いお菓子を持っておしゃべりをするらしい。
私には夢のまた夢の話だったので、全く関係なかったのだが。
しばらく口を閉ざしていると、不安そうに「む、無理ならいいんだ!」と目の前で手をブンブンと振っていた。
「いえ、大丈夫です。それよりも、私が来てしまったせいで楽しみを減らしてしまい、申し訳ありません」
「そんなの、気にする必要はないよ。向こうも、わたしと同じように人間のお嫁さんがいるからね」
「え」
「意外だと思うだろう? でもね、ここら辺の神様は同じことをしている人が多いんだ。だから、桃ちゃんのお友達になれたらなって、思っているんだけど……」
どうかな、と私の顔色をうかがっているウスズミ様。私がここに嫁いできて、約半年が過ぎた。その間に、前妻の方が何をしていたのか説明を受け、細かいところまで隅々聞いた。
私がするべきことは、村にいた時とあまり変わらない。朝起きてからご飯を作り、洗濯をし、掃除をする。終わったらお昼ご飯の準備をしてから掃き掃除や拭き掃除の細かいところまで進めていく。夕食を作った後は、ウスズミ様と一緒にお話をしたり自室に戻って好きなことをしたり、各々自由に過ごしていいと言われた。
しかし、生憎私には自分の好きなことが思いつかないので、こうしてウスズミ様の話し相手として座っていることが多い。何か趣味でも見つけられたらいいのにね、とどうしてかウスズミ様がずっと悩んでいる。
お友達ができるかもしれないとなると、私にとって気が休まるとでも考えたのだろう。感謝の気持ちはあるが、この村から出たことのない私に会話ができるだろうか。
「私なんかで、いいのでしょうか」
「私なんか、じゃないよ。桃ちゃんだから、大丈夫だと思ったんだ。神様のお嫁さんなんて特殊な状況の人、なかなかいないからね。きっと、良き相談相手になってくれるよ」
良き相談相手。口を閉ざしたまま、反芻する。相談するようなこともなかった自分の人生を考えると、初めてかもしれない。私のことを偏見の目で見ることなく、話してくれるかもしれない人。
私が口をつぐんだまま動かずにいると、正座している太ももの上に手を乗せてきた。
「大丈夫だよ。あの子は、本当にいい子だから。きっと、桃ちゃんの良き理解者になってくれるから」
だから、と言葉を続けようとした時、「分かりました」と返事をした。
「会って、みます。もし嫌われたら、ごめんなさい」
「そんなこと、考えなくていいんだよ。わたしは桃ちゃんに他の世界を見て欲しいだけだからね」
私の太ももに置かれていた手は、いつの間にか頭の上に移動していたらしい。自然と下を向いていたのだが、上からの重力に頭が揺れる。大きく、乾燥した手が私の頭上を右へ左へ動いていく。されるがままの私は、首を縦に振った。私の行動が見えていたのか、見えていないのか、「楽しみだねぇ」と言いながら、また違う話を始めた。
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