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麗しき鬼
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蕗菜太夫 (ふきなだゆう) ♀︎
嵐鈴門(あらしすずかど) ♂︎
御法散茶女郎(みのりさんちゃじょろう) ♀︎
武家の男 ♂︎
町人 ♂︎
主人 ♂︎
SE 襖の閉まる音
蕗菜:おいでなんしぇ
武家の男:蕗菜太夫、今日こそは身請けの話受けてもらおう
蕗菜:てもせわしのうざんすなぁ
武家の男:いいや、今日という今日は譲らんぞ
蕗菜:わっちは野暮な人はほんに好かんけえ、諦めてくんなまし
武家の男:貴様ァ!!
蕗菜:ほんに塩次郎やねぇあんさんわ
武家の男:侮辱する気かぁ!
蕗菜:廓(くるわ)の中では廓が全て。ぬし達の好きな様にはできまへん
武家の男:ぐっ…
蕗菜:このままおゆかり様としてきてれるいうんならええけど、まぐわりだけがお目当てなら他を当たっておくんなまし
蕗菜:わっちはほんに駕籠(かご)の鳥でありんす。
禿(かむろ)からここで過ごしたわっちは、
この廓のことしか分からない。
昔から見てきたぬし達は武家というだけで塩次郎で
反吐しかでらん、そんな毎日に嫌気がさしているのでありんす
暗転
環境音|町の喧騒
町人:おい、鈴門、この店は初会じゃろ?前に道中で見かけた太夫はここにおるんじゃ
鈴門:あぁ私はあの道中でみた煌びやかな太夫に一目惚れしてしまった。でも私たちみたいな商人を相手にしてくれるだろうか
町人:心配するな鈴門よ。いまや武家の奴らなんて態度が大きいだけで稼ぎは全くだ。ワシらが商いで得た多くの財の方が廓(くるわ)も潤い、喜ぶはずじゃ
鈴門:であれば良いのだが
町人:そう言えばいつものところで好意にしてた娘はもう良いのか?
鈴門:あの子は散茶だからな。私は楽しく晩酌してるだけだから。
町人:あの子もなかなか良い女子(おなご)だと思うがのう…まぁお前も若いのに商いの才覚が凄まじい故、この短期間で一気にのし上がった秀才じゃ。太夫も気に入るだろうて
鈴門:だといいんだが…まぁ、さっきの茶屋でもかなり使わされたからなぁ。太夫に会えるのは期待出来そうだ
町人:そこは任せとけって。わしは格子の馴染みと遊んどるけ、おまはんはしっかりな。太夫に粗相がないようにな!
SE 玄関の音
主人:おこしやす
町人:あー主人、妓楼(ぎろう)に寄らずに茶屋から紹介できたんじゃが…
主人:聞いております。鈴門様ですね。ささ、こちらへ。太夫がお待ちどす。
SE 襖の音
鈴門:おお、これは美しい
蕗菜:(商人か…まぁ武家のぬしよりは良いでござりんす)
鈴門:さぁ主人、初会は太夫は話しかけてはくれないだろう。酒だ。しかし、本来は初会でいきなり太夫がいるとは粋な計らいだな。
主人:ええ、茶屋の者からは特別なお方だとお伺いしておりますもので。その代わりといっては何ですが。。。ご期待しております。
鈴門:まぁそこは任せろ。今日はここの酒を空にしてやろう
SE 芸者達と和楽器のわちゃわちゃの音
蕗菜:初めて会った時にとても気さくな振る舞いであった鈴門殿。2回目の裏返しでも気さくで楽しくお酒を嗜み、新造(しんぞう)達にもとても優しかったでありんす。
日頃、武家のぬしばかりを相手しているわっちからみるととても魅力的な人でござんした。
暗転
蕗菜:ぬしさんはほんに腰の低いお方どすねぇ
鈴門:言ってしまえば私なんかただの商人ですから
蕗菜:わっちは主(ぬし)さんが馴染みになってくれたのは嬉しいでありんす
鈴門:いや、その貴女を道中で一目見た時から心を奪われてしまって
蕗菜:嬉しいこと言うてくれはりますなぁ、わっちは嬉しいでありんすよ
鈴門:いやぁ。これはもう本当で。。
蕗菜:主(ぬし)さんはまた綺麗なお顔立ちで。よく持てますでしょうに
鈴門:いや、私なんかはただの商人。出が出なんもんで。あ、こういうのは言わない方が良いですよね。
蕗菜:うふふ、主さんは面白い人でありんすなぁ。
鈴門:蕗菜殿は…か、歌舞伎とかはご興味ありますか?
蕗菜:歌舞伎はわっちの大好物でありんす。禿(かむろ)の頃から町で見かけたかわら者が、身分が低いとはいえ、お召し物も派手でとても輝いて見えたものでありんす
鈴門:そ、そうか。
蕗菜:わっちは外で言われる身分の差に興味はありません。わっちはわっちが好きな物を見ていたのでありんす
鈴門:その言葉をきいて安心したよ
蕗菜:どういう意味なんざんす?
鈴門:実は私、嵐家の出なのです。所謂、歌舞伎役者の血筋のものでかわら者だ。私は役者の才覚がないので商いをこれまで頑張ってきた。身分とは関係なく自分自身の力でここまでやってきたのだ。
蕗菜:そのお顔立ちみたらそうではないでっしゃろと思ってたでありんす。わっちは益々主さんに興味が湧いてきたのでありんす。このことはあっちの胸に秘めておきますゆえ安心しなんせ
鈴門:蕗菜殿…
暗転
蕗菜:そして、わっちと鈴門様との心の距離は会う度に近づいてゆき、わっちは初めて愛を知ったのでありんす
環境音|町の喧騒
御法(みのり):最近鈴門様を見ないと思ったらここで遊んでいたのね。。許せない。。私というものがありながら。。。
御法:鈴門様ぁ!
鈴門:み、御法ではないか。。
御法:今日はあちきのとこには来てくれないのですか?
鈴門:すまないな、御法。今日は約束があるのだ。また今度寄らせてもらうよ。
御法:もう!ひどい…あちきの鈴門様を…
場所|お座敷
鈴門:蕗菜殿…そろそろ身請けの件考えてもらえないか
蕗菜:ふふ、あっちの気持ち知っておいて。悪い殿方でありんす
鈴門:本当か!!
蕗菜:ほんにでありんす。主さんはわっちの間夫(まぶ)でありんすよ。
鈴門:ありがとう。蕗菜殿。絶対に幸せにするからな。
蕗菜:あっちの方こそありがとうござりんした。感謝で胸がいっぱいでありんす
暗転
鈴門:と、言うことで主人、蕗菜太夫の身請けの件よろしく頼むな。
主人:鈴門様の様な方に身請けが決まり、蕗菜太夫も喜んでおりますゆえ。感謝でございます。
環境音|町の喧騒
ガヤ:あの蕗菜太夫の身請けが決まったらしいぞ
:そりゃすげぇ、で相手はだれだい?
:最近商いで大成功した鈴門って奴らしい
御法:なんだって…あの女…ゆ"る"す"ま"じぃぃ
御法:主人様、少しお話よろしいでしょうか?
主人:ん、あんたは江戸町の妓楼にいる散茶だね
御法:太夫が身請けする話を聞いたのですが…
主人:あぁもう噂になってるのかい。困るねえ
御法:あの身請けするって商人なんですが実は…
ゴニョニョ
主人:なんだって…あの鈴門様がかわら者だって?それは誠か??
御法:あのお方は嵐家の血筋です。
主人:なるほど。。妙に整った顔立ちと思えばそういうことか。。散茶の娘よ、恩に着る。
御法:はい。また何かござりましたら
(ふふふ、これであの二人は終わりね。。)
場面転換
鈴門:主人、今日もよろしくな。
主人:鈴門様、あんたやってくれたな。
鈴門:ど、どういうことだい?
主人:あんたかわら者ってこと隠してたんだね
鈴門:え…
主人:嵐家のかわら者が太夫を身請け出来るわけないだろう!!散茶ならまだしも!!金があってもかわら者はかわら者だ!!身分を弁えてもらいたい!
鈴門:そんな…だ、だれがそんなことを
主人:だまれ!!もうこの話はなしだ!!一昨日来やがれ!!
SE 木の階段を駆け上がる音
SE 襖を開ける音
主人:太夫。鈴門様の身請けの件は無かったことにする
蕗菜:何事でありんすか?
主人:えぇい!!わしらは騙されていたのだ!!
蕗菜:身分の事が明らかになってから鈴門様と相見(あいまみ)えることはなかったでありんす
SE 襖の音
主人:おい、太夫。まだ鈴門のことで思い込んでおるのか
蕗菜:……。
主人:あの鈴門という男、江戸町の散茶を身請けしたようだぞ。同じ散茶の娘から聞いておるから確かなことじゃ
蕗菜:え…。そんな。。。。(泣きだす)
環境音|町の喧騒
御法:鈴門様ぁ
鈴門:あ…御法か。。
御法:そんなに暗い顔してどうしたんですか?
鈴門:いや。。ちょっとな。。色々とあってな
御法:もしかして、噂になってる身請けの…
鈴門:あぁ、もういいんだ。
御法:鈴門様、実は…あの蕗菜太夫が鈴門様がかわら者ということを廓の中で吹聴しているとあちき達の所までお噂が流れてきておりまして
鈴門:な、なんと…ということは蕗菜が…私を裏切ったと…あぁ、なんてことだ。。やはり私なんかが…夢を見るんじゃなかった。。無念。。
御法:鈴門様。今日はあちきのとこで飲みましょう。あちきが鈴門様の慰みものとなりましょう。
鈴門:御法…
布ズレの音
ギシギシ音
鈴門:(深いため息)
御法:鈴門様、あんな人ことなんて忘れましょう
鈴門:そ、そうだな。
御法:あちきなら…いつでも身請け待ってるから
鈴門:あ、あぁ。。
暗転
町人:鈴門、おまはんは、はめられたぞ。
鈴門:どういうことだ??
町人:これ全て仕組んだの…あの御法じゃ。。。
鈴門:え。。
町人:おまはんが太夫に入れ込んでるのを妬んで、主人に身分のことを密告し、武家のやつらまで吹聴していたらしい。そしておまはん、今ここらじゃ御法を身請けするって噂じゃぞ。この話、太夫のところにまで届いてると思うぞ
鈴門:あぁ。。、あぁ。。私はなんてことを。。。
蕗菜殿…すまない、私が不甲斐ないばかりに
貴女を深く傷つけてしまった。。(泣きわめく)
暗転
ガヤ:身投げじゃー土左衛門が上がったぞー!
主人:な、なんとあれは…鈴門…。
町人:な、なんてことを…鈴門おおお!!
主人:なぜ…
町人:あ、あんた!
主人:あ、格子の…
町人:あんた散茶に騙されてたみたいだね。これ、鈴門が太夫に宛てた文(ふみ)だ。渡してやってくれないか?
主人:文だと。。
主人:はぁ、はぁ、
SE 急いで走る下駄の音
主人:太夫ー!太夫ー!
襖の音
主人:太夫!大変じゃ…鈴門が死んだ。
蕗菜:え…(涙があふれる)いや、そんな…
主人:そ、それとこれ…
(文の朗読)
鈴門:蕗菜太夫へ すまない。この手紙を読んでいる頃には私はもういないかもしれない。
この度は蕗菜殿を深く、深く傷つけてしまったに違いない。本当に申し訳ないと思っている。私は死んで詫びることにする。武家の出ではないから切腹が怖くて出来なかった。だから違う方法で死を持ってここに謝罪とする。今回の一件は全て散茶の娘が裏で引き起こした所業であった。私が曖昧な態度をしてしまったが故にこうなってしまったことを後悔している。
蕗菜殿、すまない。私は貴女を幸せにできなかった。
蕗菜:(泣きわめく)
主人:太夫よ…もうこの件に関しては…ひっ!!!
主人:お…鬼。
場面転換
環境音|町の喧騒
蕗菜:あんたが御法散茶女郎かい?
御法:え、あ…蕗菜太夫…
蕗菜:ふふ、どうしたんだいそんな驚いた顔して?
御法:あ…あ…(すごく怯えた感じ)
蕗菜:あっちがそんなに麗しいでありんすか?
御法:お、鬼…
SE カチッ!火打ち石で火を起こす
SE 炎が燃える
御法:お召し物に火が…
蕗菜:あっちは其方のせいで生きる糧を失ったでありんすよ。だから、もうこの身が果てても悔いは無いのでありんす。最後に其方にあっちが滅びるところを目に焼き付けていただきたいでありんすよ…
御法:よ、よしてくださいまし!!いやぁ!近寄るな!!!
蕗菜:あーハッハッハ、あっちはこの命を持って鈴門様のところへ逝くのでありんす。
さぁ目に焼き付けろ!!!
御法:いやぁぁあぁあぁぁぁ!!!
蕗菜:ふふふ、この無念を晴らす為なら…地獄の業火を纏っても構いまへん。その代わり…あっちは太夫から麗しき鬼に成り下がろう。そして其方も地獄へ道ずれでありんす。(どんどん声が悪魔のような声になっていく)
御法:ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
嵐鈴門(あらしすずかど) ♂︎
御法散茶女郎(みのりさんちゃじょろう) ♀︎
武家の男 ♂︎
町人 ♂︎
主人 ♂︎
SE 襖の閉まる音
蕗菜:おいでなんしぇ
武家の男:蕗菜太夫、今日こそは身請けの話受けてもらおう
蕗菜:てもせわしのうざんすなぁ
武家の男:いいや、今日という今日は譲らんぞ
蕗菜:わっちは野暮な人はほんに好かんけえ、諦めてくんなまし
武家の男:貴様ァ!!
蕗菜:ほんに塩次郎やねぇあんさんわ
武家の男:侮辱する気かぁ!
蕗菜:廓(くるわ)の中では廓が全て。ぬし達の好きな様にはできまへん
武家の男:ぐっ…
蕗菜:このままおゆかり様としてきてれるいうんならええけど、まぐわりだけがお目当てなら他を当たっておくんなまし
蕗菜:わっちはほんに駕籠(かご)の鳥でありんす。
禿(かむろ)からここで過ごしたわっちは、
この廓のことしか分からない。
昔から見てきたぬし達は武家というだけで塩次郎で
反吐しかでらん、そんな毎日に嫌気がさしているのでありんす
暗転
環境音|町の喧騒
町人:おい、鈴門、この店は初会じゃろ?前に道中で見かけた太夫はここにおるんじゃ
鈴門:あぁ私はあの道中でみた煌びやかな太夫に一目惚れしてしまった。でも私たちみたいな商人を相手にしてくれるだろうか
町人:心配するな鈴門よ。いまや武家の奴らなんて態度が大きいだけで稼ぎは全くだ。ワシらが商いで得た多くの財の方が廓(くるわ)も潤い、喜ぶはずじゃ
鈴門:であれば良いのだが
町人:そう言えばいつものところで好意にしてた娘はもう良いのか?
鈴門:あの子は散茶だからな。私は楽しく晩酌してるだけだから。
町人:あの子もなかなか良い女子(おなご)だと思うがのう…まぁお前も若いのに商いの才覚が凄まじい故、この短期間で一気にのし上がった秀才じゃ。太夫も気に入るだろうて
鈴門:だといいんだが…まぁ、さっきの茶屋でもかなり使わされたからなぁ。太夫に会えるのは期待出来そうだ
町人:そこは任せとけって。わしは格子の馴染みと遊んどるけ、おまはんはしっかりな。太夫に粗相がないようにな!
SE 玄関の音
主人:おこしやす
町人:あー主人、妓楼(ぎろう)に寄らずに茶屋から紹介できたんじゃが…
主人:聞いております。鈴門様ですね。ささ、こちらへ。太夫がお待ちどす。
SE 襖の音
鈴門:おお、これは美しい
蕗菜:(商人か…まぁ武家のぬしよりは良いでござりんす)
鈴門:さぁ主人、初会は太夫は話しかけてはくれないだろう。酒だ。しかし、本来は初会でいきなり太夫がいるとは粋な計らいだな。
主人:ええ、茶屋の者からは特別なお方だとお伺いしておりますもので。その代わりといっては何ですが。。。ご期待しております。
鈴門:まぁそこは任せろ。今日はここの酒を空にしてやろう
SE 芸者達と和楽器のわちゃわちゃの音
蕗菜:初めて会った時にとても気さくな振る舞いであった鈴門殿。2回目の裏返しでも気さくで楽しくお酒を嗜み、新造(しんぞう)達にもとても優しかったでありんす。
日頃、武家のぬしばかりを相手しているわっちからみるととても魅力的な人でござんした。
暗転
蕗菜:ぬしさんはほんに腰の低いお方どすねぇ
鈴門:言ってしまえば私なんかただの商人ですから
蕗菜:わっちは主(ぬし)さんが馴染みになってくれたのは嬉しいでありんす
鈴門:いや、その貴女を道中で一目見た時から心を奪われてしまって
蕗菜:嬉しいこと言うてくれはりますなぁ、わっちは嬉しいでありんすよ
鈴門:いやぁ。これはもう本当で。。
蕗菜:主(ぬし)さんはまた綺麗なお顔立ちで。よく持てますでしょうに
鈴門:いや、私なんかはただの商人。出が出なんもんで。あ、こういうのは言わない方が良いですよね。
蕗菜:うふふ、主さんは面白い人でありんすなぁ。
鈴門:蕗菜殿は…か、歌舞伎とかはご興味ありますか?
蕗菜:歌舞伎はわっちの大好物でありんす。禿(かむろ)の頃から町で見かけたかわら者が、身分が低いとはいえ、お召し物も派手でとても輝いて見えたものでありんす
鈴門:そ、そうか。
蕗菜:わっちは外で言われる身分の差に興味はありません。わっちはわっちが好きな物を見ていたのでありんす
鈴門:その言葉をきいて安心したよ
蕗菜:どういう意味なんざんす?
鈴門:実は私、嵐家の出なのです。所謂、歌舞伎役者の血筋のものでかわら者だ。私は役者の才覚がないので商いをこれまで頑張ってきた。身分とは関係なく自分自身の力でここまでやってきたのだ。
蕗菜:そのお顔立ちみたらそうではないでっしゃろと思ってたでありんす。わっちは益々主さんに興味が湧いてきたのでありんす。このことはあっちの胸に秘めておきますゆえ安心しなんせ
鈴門:蕗菜殿…
暗転
蕗菜:そして、わっちと鈴門様との心の距離は会う度に近づいてゆき、わっちは初めて愛を知ったのでありんす
環境音|町の喧騒
御法(みのり):最近鈴門様を見ないと思ったらここで遊んでいたのね。。許せない。。私というものがありながら。。。
御法:鈴門様ぁ!
鈴門:み、御法ではないか。。
御法:今日はあちきのとこには来てくれないのですか?
鈴門:すまないな、御法。今日は約束があるのだ。また今度寄らせてもらうよ。
御法:もう!ひどい…あちきの鈴門様を…
場所|お座敷
鈴門:蕗菜殿…そろそろ身請けの件考えてもらえないか
蕗菜:ふふ、あっちの気持ち知っておいて。悪い殿方でありんす
鈴門:本当か!!
蕗菜:ほんにでありんす。主さんはわっちの間夫(まぶ)でありんすよ。
鈴門:ありがとう。蕗菜殿。絶対に幸せにするからな。
蕗菜:あっちの方こそありがとうござりんした。感謝で胸がいっぱいでありんす
暗転
鈴門:と、言うことで主人、蕗菜太夫の身請けの件よろしく頼むな。
主人:鈴門様の様な方に身請けが決まり、蕗菜太夫も喜んでおりますゆえ。感謝でございます。
環境音|町の喧騒
ガヤ:あの蕗菜太夫の身請けが決まったらしいぞ
:そりゃすげぇ、で相手はだれだい?
:最近商いで大成功した鈴門って奴らしい
御法:なんだって…あの女…ゆ"る"す"ま"じぃぃ
御法:主人様、少しお話よろしいでしょうか?
主人:ん、あんたは江戸町の妓楼にいる散茶だね
御法:太夫が身請けする話を聞いたのですが…
主人:あぁもう噂になってるのかい。困るねえ
御法:あの身請けするって商人なんですが実は…
ゴニョニョ
主人:なんだって…あの鈴門様がかわら者だって?それは誠か??
御法:あのお方は嵐家の血筋です。
主人:なるほど。。妙に整った顔立ちと思えばそういうことか。。散茶の娘よ、恩に着る。
御法:はい。また何かござりましたら
(ふふふ、これであの二人は終わりね。。)
場面転換
鈴門:主人、今日もよろしくな。
主人:鈴門様、あんたやってくれたな。
鈴門:ど、どういうことだい?
主人:あんたかわら者ってこと隠してたんだね
鈴門:え…
主人:嵐家のかわら者が太夫を身請け出来るわけないだろう!!散茶ならまだしも!!金があってもかわら者はかわら者だ!!身分を弁えてもらいたい!
鈴門:そんな…だ、だれがそんなことを
主人:だまれ!!もうこの話はなしだ!!一昨日来やがれ!!
SE 木の階段を駆け上がる音
SE 襖を開ける音
主人:太夫。鈴門様の身請けの件は無かったことにする
蕗菜:何事でありんすか?
主人:えぇい!!わしらは騙されていたのだ!!
蕗菜:身分の事が明らかになってから鈴門様と相見(あいまみ)えることはなかったでありんす
SE 襖の音
主人:おい、太夫。まだ鈴門のことで思い込んでおるのか
蕗菜:……。
主人:あの鈴門という男、江戸町の散茶を身請けしたようだぞ。同じ散茶の娘から聞いておるから確かなことじゃ
蕗菜:え…。そんな。。。。(泣きだす)
環境音|町の喧騒
御法:鈴門様ぁ
鈴門:あ…御法か。。
御法:そんなに暗い顔してどうしたんですか?
鈴門:いや。。ちょっとな。。色々とあってな
御法:もしかして、噂になってる身請けの…
鈴門:あぁ、もういいんだ。
御法:鈴門様、実は…あの蕗菜太夫が鈴門様がかわら者ということを廓の中で吹聴しているとあちき達の所までお噂が流れてきておりまして
鈴門:な、なんと…ということは蕗菜が…私を裏切ったと…あぁ、なんてことだ。。やはり私なんかが…夢を見るんじゃなかった。。無念。。
御法:鈴門様。今日はあちきのとこで飲みましょう。あちきが鈴門様の慰みものとなりましょう。
鈴門:御法…
布ズレの音
ギシギシ音
鈴門:(深いため息)
御法:鈴門様、あんな人ことなんて忘れましょう
鈴門:そ、そうだな。
御法:あちきなら…いつでも身請け待ってるから
鈴門:あ、あぁ。。
暗転
町人:鈴門、おまはんは、はめられたぞ。
鈴門:どういうことだ??
町人:これ全て仕組んだの…あの御法じゃ。。。
鈴門:え。。
町人:おまはんが太夫に入れ込んでるのを妬んで、主人に身分のことを密告し、武家のやつらまで吹聴していたらしい。そしておまはん、今ここらじゃ御法を身請けするって噂じゃぞ。この話、太夫のところにまで届いてると思うぞ
鈴門:あぁ。。、あぁ。。私はなんてことを。。。
蕗菜殿…すまない、私が不甲斐ないばかりに
貴女を深く傷つけてしまった。。(泣きわめく)
暗転
ガヤ:身投げじゃー土左衛門が上がったぞー!
主人:な、なんとあれは…鈴門…。
町人:な、なんてことを…鈴門おおお!!
主人:なぜ…
町人:あ、あんた!
主人:あ、格子の…
町人:あんた散茶に騙されてたみたいだね。これ、鈴門が太夫に宛てた文(ふみ)だ。渡してやってくれないか?
主人:文だと。。
主人:はぁ、はぁ、
SE 急いで走る下駄の音
主人:太夫ー!太夫ー!
襖の音
主人:太夫!大変じゃ…鈴門が死んだ。
蕗菜:え…(涙があふれる)いや、そんな…
主人:そ、それとこれ…
(文の朗読)
鈴門:蕗菜太夫へ すまない。この手紙を読んでいる頃には私はもういないかもしれない。
この度は蕗菜殿を深く、深く傷つけてしまったに違いない。本当に申し訳ないと思っている。私は死んで詫びることにする。武家の出ではないから切腹が怖くて出来なかった。だから違う方法で死を持ってここに謝罪とする。今回の一件は全て散茶の娘が裏で引き起こした所業であった。私が曖昧な態度をしてしまったが故にこうなってしまったことを後悔している。
蕗菜殿、すまない。私は貴女を幸せにできなかった。
蕗菜:(泣きわめく)
主人:太夫よ…もうこの件に関しては…ひっ!!!
主人:お…鬼。
場面転換
環境音|町の喧騒
蕗菜:あんたが御法散茶女郎かい?
御法:え、あ…蕗菜太夫…
蕗菜:ふふ、どうしたんだいそんな驚いた顔して?
御法:あ…あ…(すごく怯えた感じ)
蕗菜:あっちがそんなに麗しいでありんすか?
御法:お、鬼…
SE カチッ!火打ち石で火を起こす
SE 炎が燃える
御法:お召し物に火が…
蕗菜:あっちは其方のせいで生きる糧を失ったでありんすよ。だから、もうこの身が果てても悔いは無いのでありんす。最後に其方にあっちが滅びるところを目に焼き付けていただきたいでありんすよ…
御法:よ、よしてくださいまし!!いやぁ!近寄るな!!!
蕗菜:あーハッハッハ、あっちはこの命を持って鈴門様のところへ逝くのでありんす。
さぁ目に焼き付けろ!!!
御法:いやぁぁあぁあぁぁぁ!!!
蕗菜:ふふふ、この無念を晴らす為なら…地獄の業火を纏っても構いまへん。その代わり…あっちは太夫から麗しき鬼に成り下がろう。そして其方も地獄へ道ずれでありんす。(どんどん声が悪魔のような声になっていく)
御法:ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
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