1 / 10
日曜と水曜
「今度、お食事でもご一緒しませんか」
打ち合わせの後、廊下に出た時に、彼はふと立ち止まってそう言った。
俺が驚いて見上げると、軽く頷きながら、
「もしお時間をいただけるなら、是非」
と付け加えた。
俺の上司と彼の同僚は肩を並べて、エレベーターの方へ遠ざかっていく。彼は名刺入れからカードを出した。
「これはプライベートの方なので。よかったら連絡をください」
慌てて受け取り、ノートに挟んだ。廊下を歩き始めてから、「本当にご連絡してよろしいんですか」と聞くと、彼はにこりともせず、「それなら、今決めてしまいましょう」と言った。
三日後の日曜日に昼飯をご馳走してもらって、彼の部屋に行った。終わった後で、すげえよかった、と俺は呟き、大澤さん(という名前)は体を起こして俺の顔を覗き込んだ。
「ふうん」
「何ですか」
「川西さんにお褒めいただくなんて嬉しいなあ」
「やめてください」
「でもまあ、空腹は最高のスパイスということでしょう」
指で頬を撫でられ、馴染みのない感触に一瞬ぼんやりする。
「ええっと、俺はそんなに物欲しそうでしたかね……」
「物欲しそう、ではないですね」
彼は指を引っ込めて、少し考えた。
「誘ったら、いけそうな気がした」
「尻軽に見えたと」
「尻軽な子が好きなんで」
引き続きぼんやりしていると、彼は俺の唇にふわりと柔らかいキスをした。
「また会いたいから、お腹空かせておいてくださいね」
その次の水曜日に会った人がいて、彼とはその時が初対面だったが、マッチングアプリでかなり前からやり取りをしていた。
「きょうちゃんさん、写真よりずっとかわいいですね」
「きょうちゃんさんって」
と俺が笑うと、その人も笑った。
「じゃあ何て呼んだらいい?あ、タメ口でいい?」
「タメ口でいいよ。ケンタさん、二十七歳ですよね、俺一つ下です」
「まじで?実年齢なんだ、もっと若く見える」
決めておいたホテルに入って、キスしていいかと聞くので頷いたが、彼は何もせず、先にシャワーを浴びに行った。
俺が部屋に戻った時には照明が落とされ、ベッドサイドの青い光だけになっていた。
「いい匂いするのどうして?」
羽織っただけの薄いローブごと俺を抱きしめた彼の声は低くかすれていた。
「ボディシャンプー」
「なんか興奮するなあ。君、めちゃくちゃ好みのタイプ」
彼は両手で俺の頬を包み込む。
「俺、ほんとに名前『きょう』なんだよね」
照れ隠しに、そんなことを普通の調子で言ってみる。
「きょう。どんな字か、あとで聞くわ」
俺を見つめたまま、彼はゆっくりと唇を重ねてきた。熱い舌が滑らかに口の中に忍び込んで、すぐに俺の好きな場所を探り当てた。
そんな成り行きで二人と会うようになり、どちらかをすぐに切るつもりが、どちらとどうしたいかが決まらないうちに、日曜と水曜に交互に会うリズムができた。
打ち合わせの後、廊下に出た時に、彼はふと立ち止まってそう言った。
俺が驚いて見上げると、軽く頷きながら、
「もしお時間をいただけるなら、是非」
と付け加えた。
俺の上司と彼の同僚は肩を並べて、エレベーターの方へ遠ざかっていく。彼は名刺入れからカードを出した。
「これはプライベートの方なので。よかったら連絡をください」
慌てて受け取り、ノートに挟んだ。廊下を歩き始めてから、「本当にご連絡してよろしいんですか」と聞くと、彼はにこりともせず、「それなら、今決めてしまいましょう」と言った。
三日後の日曜日に昼飯をご馳走してもらって、彼の部屋に行った。終わった後で、すげえよかった、と俺は呟き、大澤さん(という名前)は体を起こして俺の顔を覗き込んだ。
「ふうん」
「何ですか」
「川西さんにお褒めいただくなんて嬉しいなあ」
「やめてください」
「でもまあ、空腹は最高のスパイスということでしょう」
指で頬を撫でられ、馴染みのない感触に一瞬ぼんやりする。
「ええっと、俺はそんなに物欲しそうでしたかね……」
「物欲しそう、ではないですね」
彼は指を引っ込めて、少し考えた。
「誘ったら、いけそうな気がした」
「尻軽に見えたと」
「尻軽な子が好きなんで」
引き続きぼんやりしていると、彼は俺の唇にふわりと柔らかいキスをした。
「また会いたいから、お腹空かせておいてくださいね」
その次の水曜日に会った人がいて、彼とはその時が初対面だったが、マッチングアプリでかなり前からやり取りをしていた。
「きょうちゃんさん、写真よりずっとかわいいですね」
「きょうちゃんさんって」
と俺が笑うと、その人も笑った。
「じゃあ何て呼んだらいい?あ、タメ口でいい?」
「タメ口でいいよ。ケンタさん、二十七歳ですよね、俺一つ下です」
「まじで?実年齢なんだ、もっと若く見える」
決めておいたホテルに入って、キスしていいかと聞くので頷いたが、彼は何もせず、先にシャワーを浴びに行った。
俺が部屋に戻った時には照明が落とされ、ベッドサイドの青い光だけになっていた。
「いい匂いするのどうして?」
羽織っただけの薄いローブごと俺を抱きしめた彼の声は低くかすれていた。
「ボディシャンプー」
「なんか興奮するなあ。君、めちゃくちゃ好みのタイプ」
彼は両手で俺の頬を包み込む。
「俺、ほんとに名前『きょう』なんだよね」
照れ隠しに、そんなことを普通の調子で言ってみる。
「きょう。どんな字か、あとで聞くわ」
俺を見つめたまま、彼はゆっくりと唇を重ねてきた。熱い舌が滑らかに口の中に忍び込んで、すぐに俺の好きな場所を探り当てた。
そんな成り行きで二人と会うようになり、どちらかをすぐに切るつもりが、どちらとどうしたいかが決まらないうちに、日曜と水曜に交互に会うリズムができた。
あなたにおすすめの小説
あの部屋でまだ待ってる
名雪
BL
アパートの一室。
どんなに遅くなっても、帰りを待つ習慣だけが残っている。
始まりは、ほんの気まぐれ。
終わる理由もないまま、十年が過ぎた。
与え続けることも、受け取るだけでいることも、いつしか当たり前になっていく。
――あの部屋で、まだ待ってる。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
さよなら、永遠の友達
万里
BL
高校時代、バスケットボール部のキャプテン・基樹と、副部長として彼を支える冷静な舜一。対照的な二人は親友であり、マネージャーの結子を含めた三人は分かちがたい絆で結ばれていた。しかし舜一は、基樹への決して報われない恋心を隠し続けていた。
卒業を控え、基樹との「ずっと一緒にバスケをする」という約束を破り、舜一は逃げるように東京の大学へ進学する。基樹を突き放したのは、彼が結子と結ばれる幸せを近くで見届ける自信がなかったからだ。
10年後。孤独に生きる舜一のもとに、基樹から「結子が事故で亡くなった」という絶望の電話が入る。ボロボロになった親友の悲痛な叫びを聞いた瞬間、舜一の中にあった想いが目を覚ます。仕事もキャリアも投げ出し、舜一は深夜の高速をひた走る。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL