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9ー①

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 突然聞こえた鐘の音はいつものと違っていた。まずはこの時間帯にならないし、長く響いて大きい音で耳を押さえないと耐えられないくらいの音がした。
 しばらく鳴っていた音がやんだ。

 「大丈夫。か、甘奈さ……『ドン。ドッサ!』

 突然押されて廊下に転んだ。転んで前を見ると私の横に居た甘奈さんがゆっくりと前に移動して私の事を見てる。
 でも甘奈さんの服装が学校の制服じゃあなかった。
 私が始めて屋上で出会った黒服を着た影。その影と同じ服装だった。

 「か……甘奈。その服装は……」

 いつも“さんづけ”で呼んでいた私。でも突然の出来事に驚くばかりで昔、自分が呼んでいた呼び方が自然と口からこぼれる。

 『もう、バラしてもいいの?』

 突然声が聞こえ、甘奈の隣にもう1人の黒い影が現れた。けど、やっぱり顔は見えない。

 「バラしてもいいの甘奈」

 「いいの……どうせ、いつかはバラすんだから……かまへん」

 「じゃあ、最後の仕上げでもしますか」

 「うん」

 声からして少年だと思われる影は先に姿を消した。
 少年の後に甘奈も消えそうになったから私は止めた。

 「待って甘奈さん。ううん、甘奈。何をしようとしているの」

 甘奈がゆっくりと私を見た。そして

 「……うちの……願いを叶える為や……。だから……うちの事はもう、ほっといてや!」

 「そんな事出来るわけないでしょう!」

 感情任せに私は言葉を放った。私の声に甘奈は驚いていた。

 「何でや。うちは……奈央の心の中にある壁を消したいんや!」

 「! 知っていたのね。でも、こればかりは私の問題」

 「いいや。うちにも責任があるんや。だから……うちは……」

 「甘奈。それは……」

 「うちの願い事をあの人は理解してくれたんや。だからあの人に」

 「協力するの?」

 「そうや。あの人が協力してくれる。うちは必要な物を集めるだけや」

 「……まさか!」

 「…………じゃあね、奈央」

 「まっ……て、待ってよ甘奈ーーーーっ!」

 私の叫び声が静かな廊下に強く響き渡る。
 甘奈は姿を消したの。
 その場に残された私はしばらくそのまま動けずにいた。
 しばらくして照斗君が私のもとにやって来た。

 「……大丈夫、倉沢さん」

 「…………」

 「奈央!」

 「! ……あ、照斗君」

 照斗君の声でやっと正気に戻った気がするの。そのまま照斗君の姿を見るとズルズルと力が抜けて廊下に座り込んだ。

 「どうかしたの、倉沢さん」

 「み……見てしまったの」

 「何を?」

 「さっきまで黒い影がまた私の前に現れて2人のうち1人が正体を私の前で……」

 「見せたの?」

 「見せたというよりバラしたというのが正解なのかな」

 「誰だったの?」

 「か、甘奈だった」

 「えっ?」

 「甘奈だったの……。黒い影の一人が……甘奈だったの」
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