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聖女と病人
しおりを挟む王国には「聖女」と呼ばれる人物が存在した。神からの加護を受け、手で触れるだけでどんな病気をも治癒すると言われる人物である。
彼女は貴族だけではなく、貧乏人も分け隔てなく、それも対価を求めることなく治癒したことから、その名声は大陸中に広がっていた。
ある年、大陸に奇妙な病気が流行した。
病にかかると黒い斑点が身体中に広がり、絶えず小槌で叩かれるような痛みと独特の腐臭を発し、そして僅か数日で死に至る病である。
病は人から人へと感染し、大陸は阿鼻叫喚の地獄となった。
ある村では人の気配がなくなり、ある都市では死体の処理が間に合わなくなって家の前に放置された。
王国でもそれは同じであった。
他所から病が入ってくると瞬く間に全国に広がり、王国の貴族の半数が、そして国王が病に感染した。
聖女にはその治癒が求められた。
どんな病気でも触れるだけで完治させるその右手は、王国中の希望だった。
実際、病は聖女によって完治した。
国王は見事に生還し、貴族のほとんども命を失うことなく復帰した。
しかし、平民はそうではなかった。
国王も貴族もその力が離れることを恐れ聖女を拘束し、聖女の強い要望により平民街に出れたとしても、治癒で助かる平民より新たに感染する人々の方が多かったのである。
聖女は悩んだ。
どうにかして多くの人々を救う方法は無いものかと。
悩んでるうちに、王国の四分の一の人口が死滅した。
とても体が一つでは足りない。
どうすることもできない無力さは聖女にとって初めてだった。
そんなある日、賢者を名乗る怪しげな女が聖女の元を訪れた。彼女は大陸中の人々を救う方法を知っているのだという。
不審がりながらも聖女は彼女に会うと、怪しげな女は聖女の右手を観察した。
数多くの人々に触れ、皮膚はぼろぼろに荒れた聖女らしからぬ右手である。
女はぼろぼろの皮膚を一片くれないかと尋ねた。
気味悪がりながらも渡すと、女はそれを自らの目に当てる。すると女はニタリと笑う。
女曰く、聖女の力は右手を離れていても発生するという。
つまり、聖女の右手の皮であれ、指であれ、聖女の右手のものであったなら治癒は発動するのだ。それが例え、聖女の右手から離れていたとしても。
大陸中の人々を癒すとはそういうことであった。
女は去った。
聖女は悩んだが、流石に拒絶した。そんな方法があっていいわけがない。神がそれを望んでいるはずがない。
しかし、大陸中の人々はそれを望んでいた。王国の民も、力の低下を苦慮する貴族も王でさえも望んでいた。
数ヶ月後、ある男が王国を訪れた。
男の体には黒い斑点が広がり、腐臭を放っている。男は兵士に懇願し、聖女に会わせてくれるよう懇願した。
どうか、どうかお願いだ。こんな下層民でも助けてはくれないか、と。
すると兵士は顔を綻ばせて男を案内した。
良かったな、お前は助かるぞと笑みを浮かべて男を教会に案内する。
「さあ、あれが聖女様だよ」
教会の祭壇に乗っていたのは聖女の指の一欠片だった。
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