15 / 119
2章 魔法使いと戦争
13.ガドの決意
しおりを挟む屋敷に帰ってくると、誰かの怒鳴り声が俺の耳に飛び込んできた。
「だから!団長が行く必要はないでしょうが!!
息子が出来たんですよね?置いていくんですか?
戦争には我々が行きます。団長はここで待っていて下さい」
聞こえてきたのはその言葉。
どうやらガドが徴兵に応じるか否かで揉めているらしい。
そして、その原因になっているのは俺のようだ。
屋敷に入るのは流石に忍びないので、俺は話が聞こえるよう、そっとドアに耳をつける。
「......レイが帰ってきたようだ。話は後でしよう」
ありゃバレたようだ。
察知能力も段違いに高い。
「ただいま帰りました」
「あぁ、おかえり。後で話がある。夕食後、俺の部屋に来て欲しい」
「.....分かりました」
少し憂鬱だ。
ーーーーーーーーーー
夕食後、俺はどんよりとしたままガドの部屋を訪れた。
「来たか。
率直に言うがお前を呼んだのは戦争についてだ」
「まあそうでしょうね」
「ああ、単刀直入に言うと俺は行くつもりだ」
やはり行くのか。
そうだろうとは思っていた。
「国が必要としている事もある。
国によって俺たちは安寧に暮らせているからそれもある。
しかしそれ以上に領主様には恩がある。
わかるだろう?」
わかるさ。
ここにいればいるだけ、どれだけ皆があの領主に感謝しているかがわかる。
俺だって人柄はともかく恩義を感じないわけではない。
しかし。
それが徴兵に赴く理由になるかはわからない。
日本にいた頃も中東の戦争を他人事のようにに聞いていた。
今もそんな風にまるで実感が湧かなかった。
「.....そうですか。では行ってきたらいいと思います」
冷徹かもしれない。
しかしそれ以上言う言葉は見つからなかった。
薄情だろうか。
いや、決意に他人がどうこう言うこともなかろう。
それに普段一緒に鍛錬していて分かる。
ガドは強い。だから死ぬことも無いだろう。
「.......ああ、そうするつもりだ。
話していて決心がついた。
話はそれだけだ。行っていいぞ」
「はい」
話し合い、というより単なる報告のようなものはすぐに終わった。
ガドの言葉に嘘はないだろう。
しかし、本心は告げられていない。
そんなモヤモヤした感覚があった。
ーーーーーーーーーー
翌日、俺は朝から領主に呼ばれていた。
なんの用だろうか。
前と同じく執務室に入ると、領主がいつになく厳しい顔をしているのが分かった。
「何か用でしょうか?」
「ああ、昨日ガドと話したそうだね」
「はい。戦争に行く、と」
「行く理由はなんと?」
「国が必要としているとか......
領主様に恩がある、と言っていましたね」
「ああ、そうかい」
?
何の話がしたいんだ?
世間話をするほど暇でも無かろうに。全く話が読めない。
「それで用というのは....?」
「そうか。君にはガドが戦地に行く理由が分からないか」
「え?」
何を言っているんだ?
今言った通りじゃないのか?
「どういう事ですか?」
「ああ、まあ言っておこうかな。
私は無知でのうのうと生きる奴が好きじゃないんでね。君は知る責任があるだろう」
初めて領主の言葉に身震いを感じる。
本気の言葉だった。
「実はね、ガドが戦地に行く理由。
それは君だよ」
俺?
「......なぜですか?」
「君が超級魔法使い、という事は王都にも周知の事実だ。『若い優れた魔法使いがウルスア領にいる』とね」
「......それがどう関係するんですか?」
だからなんだ。
考えがまとまらない。
「分からないかい?彼は君の代わりに行くんだよ」
「は?」
意味がわからなかった。
「ガドは前の戦争で功績を挙げた。だから出兵を除外されている。本当は行く必要なんてないんだよ。
・・・しかし、君は除外されていない。
いずれは君に召集命令が下るだろうね?もちろん、断ることなんてできない勅命としてね」
・・・・だんだん話が分かってきた。
「本来行くはずだったの僕の代わりになる、ということですか」
「・・・もう王国も了承している。
ガドは君の実力は知っている。しかしまだ子供だ。危険を負わせるにはまだ早い。わかるね?」
......なるほど。
俺のために。
俺の身代わりとして。
ガドは戦地へ行く。
「理解出来たようだね。君がどんなに守られていたかを」
「ありがとうございました」
俺はそう告げると足早に執務室を去った。
ーーーーーーーーーー
ガドは部屋で己の剣を見つめていた。
「........何の用だ」
「なんで...本当の理由を言わなかったんですか.....?」
「領主様か。あの人も人が悪い。あれだけ言うなと....」
ガドは言葉を一旦切ると神妙なおもつきで俺を見据えた。
「理由を言わなかったのはお前が俺を父として見ていないと感じたからだ」
「......ッ!」
心臓がドクンっと脈打つ。
確かに俺はガドを父親として見ていなかった。
俺には本当の両親がいる。
二度と会えず仲もそれほどよく無かったが、それでもやはり出会ったばかりの人間を本当の父親だとは見られなかった。
ガドはガド。
そんな風に表面的に捉えていたのだ。
「父ではない俺にそんな事をされても困るだろう。
・・・無論、俺はお前を息子だと思っているがな」
僕も思っています、とはとても言えなかった。
そんな嘘今言う事じゃない。
「そんな、そんな事するなら俺が行きます。元から俺が行けばいい話なんですから」
「だめだ。8歳のお前を行かせるわけには行かない」
「しかしーーー」
「もう良いんだ。俺が決めた事だ」
ガドは俺の言葉を途中で切ると、フッと笑い、言葉を続けた。
「それにお前とは出会ってわずかだが、息子になってくれたのは嬉しかったよ。
文句も言わず訓練に付き合い、声をかけると戸惑いながらも関係を築こうと努力していたのは可笑しかった。
そんな息子の為なら俺は喜んで戦地でも地獄でも飛び込んで行くさ」
・・・俺はガドを親として見ていなかった。
しかしガドは俺の事を息子だと考えてくれていたのだ。
今まで俺は何となくこの世界に入りきれていなかったのかもしれない。
今の自分は転生した自分であって異世界の自分であると、まるで他人事のように捉えていたのかもしれない。
勝手に自立している気になっていたんだ。
守られていることに気付かず、いざとなれば自分の都合のいいようになると考えていたんだ。
俺は、どこの世界でもたった一人で生きているわけではないというのに...。
「今まで愛想の悪い父親ですまなかった。今回ぐらいは良いところを見させてくれ」
寂しそうな目をしたガドはそう呟くと、ポンっと俺の頭に手を乗せた。
そこには安らかな暖かみとゴワゴワした手の感覚があった。
ーーーーーーーーー
爽やかに晴れた日、騎士団49名と騎士団長ガド・スペルガーは、戦地へと旅立った。
彼らは決して迷うことなく前へと進み続けた。
まるで待っているのが戦地ではないように。
47
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。
アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。
それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。
するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。
それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき…
遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。
……とまぁ、ここまでは良くある話。
僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき…
遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。
「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」
それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。
なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…?
2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。
皆様お陰です、有り難う御座います。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる