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8章 勇者の国
99.既知の来訪者
しおりを挟むマーリ屋敷の襲撃から一週間。
ついに王選、その当日がやってきた。この国の行く末が決まる日だ。
「・・・もう今日か」
「ああ、やれるだけの事はやった。後はーーーお祈りでもするかね?」
マーリは明快に笑うとソファに落ち着く。しかし目の下の隈は誤魔化しきれないようで、流石のマーリも眠れなかったらしい。
王選は貴族の投票、商人達の投票、国民の投票が今日という日に一斉に行われる。票の操作を防ぐためらしいが、そのおかげで色んな所が大忙しだ。
「・・・・」
緊張からか、普段は騒がしい部屋の中が無言に包まれる。
投票は午前中。開票は夕方。それまでやる事は何もない。
俺は無音の部屋を出ると、廊下をただ歩く。
緊張しているのは俺も同じだ。今更ながら俺の目的はマーリの当選ではない。
合法的にアリア王国に入ることなのだ。そのための大切な手段が無くなっては困る。
とはいえ、ここまで一緒に頑張ってきた仲だ。マーリには勝ってもらわないといけないだろう。
マーリも俺も今日という日に指針が揺らぐのだから。
ーーーと、そんな緊張感の中、1人の女性が廊下を歩いてやってくるのが見えた。
スラッとしていて緑色の長髪がやけに鮮やかだ。
まさしく美人というやつかーーー
・・・ん? 緑? 緑の髪?
しかもあの容姿。どこかで見たことがーーー
「って、あれ? あの人どこいった?」
少し目を離した隙に姿はない。怪しい。俺の記憶が正しければ自称最強の魔法使いの人もあんな容姿だったはずだ。
一体どこにーーーー
「ひっさしぶりぃぃ~~~!!!」
その時、突然背後から手が伸びてきた。ニョキッと伸びてきた手は俺の体を乱暴に抱擁してくる。
ーーーそして後頭部に感じる柔らかいモノ。おおっふ。
「やあ~~~、本当に久しぶりだねぇ! 覚えてる?覚えてるよね? まさかこのナイスバディーで華麗な魔法使いちゃんを忘れてる訳ないよね?」
「ええ、覚えてますとも。散々人を弄んだ上に貫禄の"か"の文字もありゃしない最強の魔法使い様ですよね?」
「ひっどーい!!」
ようやく抱擁がなくなり、俺は改めてまじまじと彼女を眺めた。
あの時と変わらない緑色の髪。そのテンションは相変わらず鬱陶しい限りだ。
「ーーー久し振りです、マーリンさん」
「やあ!元気にしているようだね!」
自称最強の魔法使いーーーマーリンは俺の手を強く握る。
この様子だとマーリンも元気が有り余っているようだ。鬱陶しいぐらいにな。
「ーーーで? なんでここに?」
本当に、なんで?
マーリンとはほとんど会っていない。確かマーリンも迷宮攻略に組み込まれていたなーーその程度の認識だ。
当然マーリンが俺の居場所を知るはずもない。
それに、戦乱のアリア王国がマーリンのような重要人物を放っておくはずが・・・・いや、俺だったら放っておくか。
だがそれ以前にここにいるのは余りに不自然すぎる。
しかし、マーリンはにへらと笑って再び手を強く握ってくる。
「なんで? そんなの決まっているでしょー? 君に会いたーーー」
ガチャン!
花瓶が落ちたような音が響き、マーリンの言葉が途絶える。そして、何かがドサッと壁に寄りかかる音が聞こえた。
えーっと、まずいですよ。
「レ、レイさん・・・?」
ギギギとゆっくり振り返ると、何故か衰弱した様子のカルナが青ざめた顔で俺を見ている。マーリンは俺の手を握ったままだ。
普通に考えれば「久しぶりの再会に喜ぶ2人」に見えるはずだ。
カルナだってそう・・・思うよね?
「アレ? あの美少女ちゃんは君の知り合い?」
「ま、まあ・・・」
何も知らない能天気マーリンさんはカルナに手を振る。流石別称天雲の魔法使い。何考えているのか雲のように掴めない。
「こんにちは! 私は地上最強の魔法使い、マーリン! よっろしくね~....って聞いてる?」
マーリンはカルナが落としたであろう花瓶を簡単に元通りにしながらカルナに近づく。
これが爆弾が爆弾に近づく瞬間である。
「・・・レイさん、この人誰ですか?」
返答次第では刺されそう!
「あー、王都・・・アリア王国にいた時に知り合った同僚みたいな感じ?」
「同・・寮?」
カルナは訝しげにするも理解しーーーーかけた瞬間、余計な言葉が入った。
「そうそう! 同じベッドで寝た仲だよねー!」
「~~~っ!!!」
この瞬間、俺は間違いなく今までで1番殺意を覚えたであろう。
まさに蛇足。言わぬが花。口は災いの元。
「ベッ・・・ド?」
カルナの目が黒く渦巻きだし、その目から光が消えた....ように感じる。
そのうち包丁でマーリンの腹を掻っ捌いて俺の首を切り取り、船で海へ出そうな勢いである。
「ね、寝たと言っても本当に寝ただけだからな!?」
「そうそう! あの時は気持ちよかったなぁ」
「フカフカのベッドが!ね!」
絶対楽しんでやがるこの女・・・。
「で?彼女は君の何なのかな?」
もう楽しめたのか、にっこり笑顔で俺を見る。
ーーーいや違う!恐ろしい気配を放つカルナを直視できないだけだ!
「何? 何って・・・・・」
チラッ。
「ーーっ!」
カルナをそっと見るといつの間にか側まで寄ってきていた。俺の袖を掴み、そっと耳打ちしてくる。
「あとで婚約者らしく楽しいことしましょうね?」
ヒィィィィィィ!!
「こ、婚約者です」
一応紹介しておいた。
「ふーん、婚約者ねぇ・・・」
が、マーリンは笑いつつも冷たい目で俺を見ている・・・ような気がする。目の奥を覗き込まれ、真実を暴かれようとされているような気分だ。
「ま、いいよ。私は別に用事があって来たからね。それにイチャイチャを見るのは目に毒だ」
急激にテンションが下がったマーリンはそれだけ言うと踵を返した。
玄関の方向である。
「あれ・・・ここに用事があるんじゃないんですか?」
「違うよ? 他だよ他! あ、でもそうそう!君には伝えなくちゃいけないことがあるんだ!」
思い出したようにマーリンは俺の元へ近づき、真面目な顔になって耳元で囁く。
「今、王都は君でも危険だ。正直君では王都に入れもしないで殺されるだろうね。
ーーーでも、それでも行くと言うのならーーー私が手を貸そう」
「・・・・・」
「それだけっ」と軽く言うとマーリンはパッと笑みを浮かべ、足取り軽く去っていく。
「あ、そーそー! 君たちのとこに火神君が居るみたいだけど、彼を余り頼りすぎたらダメだよー? いざという時には彼は動いてくれないからね!
まあ過信したらダメってこと!火神だけにね!」
背筋がブルッと震える。
あれ?今日ってこんな寒かった?
「じゃあねーー!!」
そして、元気な挨拶をするとマーリンは瞬く間に姿を消した。
現れるのも一瞬、消えるのも一瞬。全く身勝手で変な人だ。だが頼もしくもある。正直さっきの言葉は力強かった。
・・・が、それにしても俺の足がカルナに踏まれすぎて痛い。今のは普通に話してただけなんだが。
これもカルナなりの愛なんだろうか。
そのカルナは呆れた目でマーリンが消え去った空間を眺めていた。
「・・・なんなんですかあの人?」
「わからない。でも変人だな。ほんとに。全く」
こればかりは全会一致である。
ーーーーと、その時、マーリンと入れ違うようにドタバタと1人の男がやってきた。
手には紙束を持っていて、血相を変えて走りこんでくる。
そして、ビリビリと響く声で大きく叫んだ。
「開票結果が出始めました!!!」
「「ーーーっ!!」」
いよいよだ。
窓から空を見るといつの間にか太陽はもう真上に登っている。
この太陽の下で乾杯ができるのか、はたまた献杯を上げることになってしまうのか。
今日、決定するーー
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