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欲深い男
しおりを挟む「やあやあシリングさん、お元気そうで」
ある男がそう言葉をかけると、死の床に臥していた老人の手がピクリと動いた。
シリングという老人の家族たちは、男のあまりに非常識な言葉に眉を顰める。
シリングは大金持ちの老人だった。
若い頃に高利貸しで財を成すや、貧しい者も助けず、教会や他の団体に一文たりとも寄付をせず、これまで生きてきた。
その結果、死に際のシリングの手元には大量の金と貴重品が残っていた。
「約束通りに来ましたよ。あなたのためにね」
男は神父の装いをしていた。
シリングは宗教上の罪である高利貸しで金を得たにも関わらず、贖罪行為をしてこなかったのでこのままでは地獄に落ちてしまう。
そのため、シリングは死ぬ間際に神父の手を借りようと呼び寄せていたのだ。
「・・・あれ?どうしましたシリングさん?」
「親父はもう喋る体力もないんですよ。余計なことを言う前に親父に祈ってあげてくれませんか?」
シリングの息子、シリングソンは無礼な神父の男を睨みつける。
その言葉を聞いた神父はニヤリと笑みを浮かべた。
「それはいけませんな。シリングさんを天国に導くにも手順がありますから。口がきけないようでは困ります」
「そんな...」
狼狽えるシリングソンを見て、神父の男はたった今思いついたように手をポンと叩く。
「これではどうでしょうか?
私が今からシリングさんに質問をします。それに対し彼が『ウー』と唸ったら承諾したということにしましょう」
その提案に、シリングソンは何も言えず「それなら...」と頷いた。
それから、神父の男は死に体のシリングに問いかける。
「あなたは霊魂を神の手に、肉体を母なる教会に委ねますか?」
シリングの手がピクリと動き、なんとか『ウー』と唸った。
神父の男はゆっくりと頷く。
「あなたは教会のうち、自分が埋葬される経費についての40ポンスを遺しますか?」
シリングはピクリとも動かない。
シリングソンは困ったように眉を寄せた。
すると神父の男はシリングの耳をぐいっと引っ張った。
『ウー』
なんとかシリングは唸った。
「はい、40ポンスですね。確かに」
そう手帳に書き残すと、続けて神父の男は問いかける。
「教会にはたくさんの本があるのですが、収納する本棚がないのです。この家には立派な本棚がありますね。そこでお伺いします。
あなたは私たち教会があの本棚を本の収納のために使うことを望みますか?」
老人はもちろんピクリとも動かない。
神父の男はシリングソンが狼狽えているのを横目に見ながらシリングの耳を強く引っ張った。
『ウー!』
シリングからそんな唸り声が出た。
「はい、本棚をありがとうございます」
そう手帳にサラサラと書き込む。
流石にシリングソンは声をかけた。
「ちょっと神父様、それはどうなんですか?」
「何がですか?シリングさんは確かにウーとおっしゃったのですからね」
そう言われるとシリングソンは何も言えなかった。
ほくそ笑む神父の男はさらに続ける。
「最近教会にも人が増えましてね。新たに宿舎を建てたいのですが土地が足りません。そういえばこの家は中々の広さがありますよね。そこでお伺いします。
あなたはこの家を教会の宿舎のために譲ることを望みますか?」
返事はなかった。
神父の男はシリングの耳をギュッと、血が出るほどに強くつまみ引っ張った。
すると老いて弱っていた老人が突然叫んだ。
「この欲張り野郎め!神にかけて1ポンスたりともお前にやるものか!」
そう言うとシリングは祈りを唱え、そのままパタリと倒れ込むと息を引き取った。
そういうわけで、老人の全ての財産はシリングソンに受け継がれることになったのである。
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