インディア~親蜜の香り~その一章

サーガ

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インディア~親蜜の香り~その二章 13 ※淫語あり

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「アーシャ、僕のアーシャ、好きだ」
  波打つ様な美しい肉体の身悶え、微かな啼き声、切ない息遣い、オーガズムを迎えた後の潤んだ黒い瞳、赤い唇を思い出すと、顔が熱くていた堪れなくなる。結婚して益々女を愛するようになってしまうとは。
  乳房を強く揉みしだき、舌先でラズベリーのように硬くなった胸の蕾を転がしながら、溝に沿わせた指先が、豊潤なせせらぎを探り出す。いつも彼女は濡れ易い――淫蕩さを自分が目覚めさせたのだとリンゼイは夢想する。そこに生えた黒い茂みは濡らし、海草の様に彼の指に絡み付いた。もっと奥には彼を待ち受ける熱い息吹きが、男の気勢に火を点ける。
 「君のここ、凄く濡れてる。いつもとても気持ちが好いから、早く僕の……ザーメンでぐちゃぐちゃにしたい」
  無意識の内にこういってしまった時、言葉よりも先に、彼女の拒絶を感じ取ったのはリンゼイの指先だった。
 「サー……何てことを!」
  声は恐怖すら浮かべている。
  彼の目の前にあったアーシャの乳房、下腹が硬く張り詰め、二人の間にあった素晴らしい交感が一瞬で微塵と消え、彼は硬直する。
  アーシャは身を隠して起き、ベッドの端まで後退ってベッドカバーの下に隠れた。不快でショッキングな光景。リンゼイは男が拒絶された時に感じる、冷や汗、怒り、おぞましさを目の前の妻に突き付けられ、頭が真っ白になった。
 「い……嫌だったの?」
  始めは、唖然として微かな憤りを感じる。アーシャは首を振り、しかし硬く股を閉じてしまった。
 「ごめんなさい、私、もうしたくありません、コンドームを……」
  中で、出されたくないのだ。
  ぐちゃぐちゃに……されたくないから。
  聞いた途端、リンゼイの全身にカッと焔が走った。熱い。焼け焦げてしまいそうだ――しかし、それは怒りなどではない。顔から火が出るように熱せられて、喉がからからになる。羞恥心と罪悪感。酷く追い詰められて、慙愧の念に押し潰されそうになる。
 「ア、ごめん、嫌なら、もう二度といったりしない。ごめんよ、僕はただ」
  酔っていたから。
  それにずっと君を、真実心から魅力的でセクシーだと思っていて、なのにこの自分だけが選ばれた男となって穢せるんだと実感したかった。
  愛する女性の膣内で何の懸念もなく射精するのは、本当に嬉しかった。ピルを発明した研究者、そして広めたフェミニストにはどれだけ感謝しても足りないくらいである。透明な蜜にリンゼイの精液が雑ざり、濁ったそれで汚れたアーシャの花弁は、卑猥で、感動さえしていた。だからだ。
  いや、やっぱり酔っていたんだ。言葉で猥らなことをいいたいとは頭の隅で考えていた。だが、実際にいおうなんて欠片も思っていなかったのだから!
 「いつも、こんなことをいいたかったわけじゃ……ごめん、本当にごめんよ!」
 「いいんです、私こそごめんなさい、白けるようなこと」
 「許して欲しい、もういわないから」
  アーシャが俯いたまま落涙した。彼の胸に痛みが走って、喉許まで苦い塊が迫り上がる。
 「怒ったのなら……」
  アーシャは激しく首を振った。
 「私のことを聖女ぶってるって思ったのではありませんか。違うんです、私は」
  彼女はリンゼイを振り仰ぎ、いい募ろうとする。逆らえない哀訴に、彼は右手で自分の口を塞ぎ、鼻の下の汗を拭き取る。彼はまだ手酷い疼痛から立ち直れず、頬や首が焼かれるように熱い。
 「そんな……いいんだ」
  どうしたら良いのだろうか。どうしたら穢れた意味ではないと伝えられる?
  だが、アーシャが謝って仕切り直そうとし、僅かにでも言葉を次いでくれたことで、リンゼイは酷く安堵し、そのことで目も充てられないほど惨めに思った。馬鹿だ、こんな風に悔いるようなことをいって……たかが欲望に目が眩んで、セーフワードかどうかを確かめもせず踏み込んで、自分たちの関係を、彼女を貶めそうになった。
  何よりも悪いのは、そんな意図など欠片もなかった自分の不用意さだ。彼女に嫌われたくないと願い、相応しい聖なる男である方がを重要だと思っていたのに。
 「ごめん」
  リンゼイの落ち込みように、アーシャの方が泣きそうになった。
  ベッドの上、彼は背を向けて床に足を下ろして座り、額の髪を掻き、大きな溜め息を付く。彼女はベッドヘッドに背を付けて、シーツで体を隠しながら膝を抱え、膝小僧に額を付ける。二人は静まり返り、身動きが取れない。しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。
 「食事……途中だったのに、ごめんなさい」
  彼女が呟き、リンゼイも虚ろな頭でそれを思い出した。
 「うん」
  テーブルを再びベッドに載せ、彼は立ち上がる。
 「ジョギングに行って来る」
  こんな時は、男はとにかくその場から逃げ出したいと願う。
 「待って下さい、リンゼイ、私を嫌いにならないで」
 「そんなこと――大丈夫だよ」
  彼はアーシャに向かって微笑んだが、その痛ましさに彼女はまた涙ぐんでしまった。気づかず、リンゼイが安心させる為続けていう。
 「君を嫌いになんて、一生なれない」

  その日は、二人はいつもの様に別々に過ごすことになった。
  アーシャは黙々と宿題をしていた。彼女は白っぽい色をした超ミニといわれる長袖のワンピースに、踝まである更紗のロングスカートを下に着ている。彼女は何が自分に似合うか良く知っている。アーシャは中世の、捕らわれの南国の姫だった。
  リンゼイはジョギングをしてシャワーを浴び、遠視用の軽い度数の眼鏡を掛けて、ネットで自分の持っている株をチェックした。昼に、居間から大きなドライヤー音がしたので、慌てて書斎から飛び出すと、ドライヤー音は掃除機だった。彼が出て来たので、アーシャは掃除機を止め、途方に暮れた顔をする。喧嘩した訳ではないが、どうしていいか彼女も分からないのだ。
 「うるさかったですか?」
 「いや、そうじゃない」
  本当は五月蝿かった。独りでいた時は大きい音を立てたいときは自分で立て、静かにしたいときは静かにしていられた。独りで暮らすのは一長一短で、自由気儘で独立心が鍛えられる分、余り一人でい過ぎると自分勝手な生活になって、相手に合わせることが難しくなり、誰かどころかゴキブリ以外の生物とは一緒に住めなくなる可能性もある。
 「掃除機なんて……僕が掛けるよ、勉強していたらいい」
 「いいんです」
  まるで、ルームシェアリングし始めたばかりの同居人同士の様に、ぎこちなく遠慮がちな会話だった。
  そこで、リンゼイは今迄だって、ただ上手く行っていただけで、決して彼女の精神的な土壌に、お互いのすべてを受け容れるような基盤を築いていなかったことに思い当たる。揺ぎない夫婦のそれにも似た、目眩めく愛の交歓を体験した男女に形作られるものがないことをを、あえて忘れ去ろうとしてきた。
  自分たちはお互いに恋し合っているにも拘らず、愛と呼べるほど熟さない。ずっとこうなのだろうか。アーシャを彼なりの思いの丈で激しく抱擁しようとすると、まるで実体のない影の様に掴み所がなく、その思いは自分に撥ね返ってきて忸怩たる思いに襲われる。アーシャの文化的な背景のせいなのか、余分な壁が幾つもあって、近づけない。
  寧ろ、彼女が自分という男を虐める為に、わざとああいう態度を取っているならいいのに。
  彼はヒンドゥー女の夫として、もう自分が妻にどんなことでも要求できると知っていたが、アーシャの信仰に挑むようなことを仕掛けて怯えさせる気はない。労働階級の男の様に女房をセックス付の家政婦の様に扱って、感情を無視する気もない。アジアの深遠に対してリベラルな男を気取るリンゼイも、やはり自国の偏見からは自由ではないようだ。
  彼は耐え切れず、絶対に夫の行き先を聞かないアーシャに甘えて夕方からパブに行き、女房を構わない男たちと会った。カウンター席と壁際の数十席があり、段下には男たちの大好きなビリヤードが備えられている。煙草も吸ってよく、酒は何でも揃っている。
  ここは基本的にクリケット、競馬、もしくはサッカーを見る為のパブである。英国は国民全体がクリケットとサッカーを好むのだが、貴族と労働階級の応援するチームは違っており、それらのチームフリークが行き合わないよう地域も大きく離れている。
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