【TS】社畜のオッサン、前世で死ぬほどプレイしていたVRMMOへ転生し最強のヒーラーになって無双する!

カミトイチ

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――ダンジョン3層。鉱石拾いの任務中。俺たちは5匹のゴブリンと対峙していた。不安そうにこちらへ視線を送るコクエ。



「え、えっと……ゴブリンは威嚇のあとに襲い掛かってくる、のよね?」



「そう、だからそこでタンクのラッシュが前に出てカバーしてあげる」



「なるほど、俺が前に……え、怖い」



「大丈夫。ゴブリンくらいのレベルならその盾で攻撃を防げる。それにヤバそうだったら私が何とかするから……」



「僕はどうすればいいのかな?」



「ウルカはとにかくカムイと意思疎通に注力して。できればアイコンタクトで指示が出せるくらいに……攻撃守りはラッシュとコクエでやるから、他の魔獣が邪魔しないように牽制をお願い」



「うん、わかった」



俺が彼らに魔獣との戦い方をレクチャーしているのは、あの日コクエとかわした約束があるから。村の人たちを大切に思い、それを魔獣や他の脅威から守りたいという気持ちに心を動かされたからだった。



本来、積極的に魔獣を狩ることは許されてはいないけど、強くなるというのであれば実戦経験が重要になってくる。話をきく、本で読む、確かに知識は必要ではあるけど、実際に戦ってわかることの方が情報量が多く学びになることが多い。



(攻略動画とか見てできそう!って思って実践しても上手くいかないことは多いからな。あ、これ前世での実体験ね)



しかし、あくまでこれは鉱石の採掘任務。魔獣との戦闘は命の危険が伴い、できるだけ避けろというのがこの特別任務の方針。だからこんなことしてるなんて長老らにしられたら大激怒されるだろう。まあ、口止めはしといたしそこらへん皆わかってるだろうし心配ないと思うけど。



(でも、今の俺はむしろ皆に強くなってほしいという気持ちが高まってる)



来る魔族勢との戦い、彼らには自身を守ることができるくらいの力を手にしておいてもらいたい。勿論、一緒に戦ってもらいたいってわけじゃないし、俺は村を巻き込まない形で決着をつけようとは思っている。けれど、万一村が襲われた時、せめて大切な人を連れて逃げまわれるくらいにはなってほしいのだ。



ラッシュとコクエのレベルが20でウルカが26か。村を襲いに来る魔族は30~60。最低でも30はこえてくれないとな。

魔獣との戦闘にも慣れてもらって、それから……。



「う、うおお!?」



「!」



ラッシュがゴブリンに組み伏せられた。うまく盾でガードができなかったようで、押し倒されてしまったようだ。



「コクエ!」



「!」



俺はコクエの名を呼び、魔獣を指さす。すると俺の意図を理解した彼女は詠唱をはじめ黒魔法を放った。



「『ファイア』――!!」



バスケットボールサイズの火球がゴブリンの頭にヒット。後方へ吹っ飛んでラッシュは解放された。



「も、もう一回」



「まって、コクエ。今ので倒したよ」



「え?」



言われたコクエがそちらを見ると、炭と化した頭が崩れたゴブリンの亡骸が倒れていた。レベル差を考えれば当然のことである。問題は……ラッシュか。



「リン!こっちもう抑えきれないよ!」



ウルカが叫ぶ。とりあえず一掃しようかと向かおうとした時、ラッシュが前に出た。



「任せろ」



盾を構え飛び出してきた一体を引き付ける。上手くタイミングがあわずまたぐらつくラッシュ。しかし今度はぎりぎり耐えはねのけた。そしてコクエが再び『ファイア』を放ちゴブリンの断末魔が響いた。



「こう、でしょ?」



にやりと笑うコクエ。さっきので自信が付いたのか得意げな顔でこちらを見た。俺は親指を立ててそれにこたえる。



またラッシュが一体ひきつけ、コクエが攻撃し倒す。ウルカがペースをうまくコントロールしてくれてるおかげで無理なくラッシュとコクエが戦えている。



守りと攻撃のメインであるこの二人を育てることが必須。ちゃんとしたパーティーでの戦闘はそれができるようになってからだ。

ぶっちゃけ一応NPCだから放っておいてもそれなりに戦えはするだろう。しかしそれはあくまで低級レベルの魔獣に対してだけだ。

レベル30帯の敵と戦うにはしっかりとした戦闘技術が必要になる。これはそのための訓練だ。



とまあ、そんなこんなで一通りゴブリンを殲滅することに成功した。



「ごめん……俺のせいで結構危ないことになっちまった」



ラッシュがそう言い頭を下げた。



「うん。……ラッシュは盾の扱いが苦手なんだね」



「ああ、どうしても相手の攻撃に合わせることができない。俺、タンクなのに、これじゃあ……」



タンク。パーティーで最前線に立ち、敵の攻撃を一身にひきつけ仲間を守る役。そんなタンクが機能しないとなれば、あっという間に仲間は殺され全滅してしまうだろう。それほど重要な役割を彼は担っている。そしてそれをラッシュは知っている。



「でもラッシュは逃げなかった。また立ち上がってゴブリンに向かって行ったろ」



「それはそうだけど」



「その気持ちが大切なんだよ。守りたいんだろ、皆を。だから怖いけどまた向かって行けた。違う?」



「でも」



その時、ずいずいっとコクエが間に入ってきた。



「あーもう!いつまでもうじうじしてんじゃないわよ!」



「な、なんだと」



「あんたが失敗しても大丈夫!さっきみたいにカバーして助けてあげるわよ!」



「!」



「だから心配しないでいいわ。ほら、このパーティーにはリンっていうとんでもなく強い人だっているんだから、大丈夫よ」



ふん、と腕を組みそっぽむくコクエ。たしかに彼女のいう通り、敵を恐れる心は生きる上で大切だ。けれど必要以上の恐怖心は体をこわばらせ動きを鈍くしミスを誘う。

そして、ラッシュの最大の弱点は……。



「コクエのいう通り。私だけじゃなくて、みんな強いよ。コクエはゴブリンくらいなら一撃で倒せるし、ウルカは複数の魔獣と対峙できるくらいだ。だから一人でそんな気負わなくていい……皆を守りたいんなら真っすぐ前を見て、敵から目をそらしちゃダメだ」



直接いうのは簡単だ。けど自分でさがしその答えを見つけるという行為がその何倍もの意味をもたらす。



「まっすぐ、目をそらさない」



休憩を終え、4層へ。再び複数の魔獣に囲まれ俺とウルカで場を整える。ラッシュが盾を前に構えた。



(……!)



さっきまでとは違うラッシュの姿勢。腰が引けていた姿が今は安定した重心でしっかりと立っていた。



このゴブリンは先ほど戦った個体よりもレベルが高い。大きな包丁のような武器を持つ者が多く、狂暴性が高いことが伺える。それが8体。

猛然と飛び出してきた一体が勢いよくラッシュへと武器を振り下ろした。



――ガキィイイイン!!



「ゴギャッ!?」



「よし!!」



盾でしっかりと受け弾き飛ばすラッシュ。そこへコクエのファイアが飛び炸裂。あっという間に一体を処理してしまう。



「いいぞ、ラッシュ!」



「おう!!」



今ラッシュはちゃんと敵を見ていた。さっきまでは恐怖心が勝っていたのか攻撃を受ける瞬間、彼は目をつぶったりそらしてしまっていた。でも今は違う。俺のわずかなヒントを自分で考えた。なぜ攻撃を安定して受けられないのかという問題に答えを出して、ちゃんと立ち向かったんだ。



(……双刃のスラッカ、さすがは彼の弟だ)



以前起こった魔王軍との戦争。この村からも多くの戦える者が声をかけられそれに参加した。俺の父や村長の息子、宿屋の夫に道具屋の兄妹、そしてラッシュの兄であるスラッカ。



この村から戦争に参加した皆は田舎者という事もあり、国王軍の人間たちからの扱いは割とひどいものだった。装備はほとんど支給されず、わずかなアイテムを手に各地の戦闘に挑んだそうだ。



各隊ばらばらに配属された皆。彼らはみな『敵を討って死ね』という軍の命令に背き、仲間を守って死んでいった。皆優しかったんだ。微かにだけど覚えている記憶にある。村のために、これから先に生まれ来る子供たちが辛い思いをしないよう彼らは旅立った。



(後のストーリーで国王が村に圧力をかけていたことが判明するんだが、その内容がまた酷かった。『魔王の手先が蔓延るこの世界、このままでは村がもしかすると三日以内に魔獣の軍勢に襲われるかもしれんな』まあ要約すると、一緒に魔王を討たねばお前らの村を滅ぼすと言っているようなもので、簡単にいうと脅迫だ)



そうして戦い抜いた皆のおかげで魔王軍の侵攻は止まり、一時的にではあるが平和が戻った。



――しかし、国王は魔王を討つことが目標だった。王はどれほどの犠牲をだしてでもそれを達成したかった。けれどその目的が中途半端な結果で終わり憤慨……兵士たちを救い撤退させた村の人間に汚名を着せたのだった。



『奴らのせいで魔王を討てなかった』と。



中でもひどい言われようだったのはスラッカだった。仲間を置いて逃げた軟弱モノと各地でいわれ蔑まれていた。一緒の隊の兵士に、巨大な赤い竜と相対した時、情けない声を上げ一目散に逃げ殺されたのだと。

村に来た兵士に遺品の銅の剣を渡されたときそのことをラッシュとその家族は伝えられた。



兄の事が大好きだったラッシュはそれがどれほどショックだったことか。それから彼は兄の汚名を返上しようと強くなるため剣を振るうようになっていった。毎日、欠かさず何千、何万もの素振り。兄への想いが彼を強くしていく。



(スラッカもそうだった。努力家で、弟思いで……だからこそ竜を一人で倒せるほど強くなったんだ)



あの日スラッカは竜から逃げてなかった。逃げたふりをしていた。それは隊の人間を生かすため。一番強い自分が逃げれば兵士たちも勝てるはずがないと思い逃げるだろうという計算だった。



大切な人がいる。それは兵士たちも同じだという事を魔王を討つ旅路の中でスラッカは知る。

故郷の母、また会おうと残してきた恋人、泣きじゃくりそれでも見送ってくれた弟、生まれる予定の命があること。皆の話を聞くうちに、いつしかスラッカは彼らをこの戦いから生還させたくなる。

だからこそ、目の前に現れた魔王幹部【憤怒の紅龍】と一人で戦う決心をし、皆を逃がした。



この話はストーリーで後々【憤怒の紅龍】と戦うときに明かされる真実だ。



(……だからラッシュにはこのことを話すことはできないんだけど)



でも、この戦いを終えたらいずれラッシュと二人、君の足跡を追って、この真実を告げるよ。



だからそれまで見守っていて。



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