17 / 39
17
しおりを挟む「嫌だぁ!絶対かえらないもん!!」
村のはずれ、木陰に隠れていた少女。俺は彼女を家へと連れ戻してほしいという依頼……つまりお使いクエストをこなしていた。
休日である今日、お使いクエストをたくさんこなして気が付けばもう昼過ぎ。道具やの屋根裏修理、脱走した犬の捕獲、おばあちゃんのお使い、そしてこの家出少女を連れ戻すクエスト。
「でもロカちゃん、体に障るからうち家で安静にしてないと」
「もうずっとお家から出てなかったし、いいでしょ少しくらい!どうせ私の病気治んないし!リンちゃんみたいに外を自由に散歩したいもん!」
ふい、と顔をそむけるロカ。確かに彼女の気持ちはわかる。数年前に不治の病と言われる『魔毒病』と呼ばれる病にかかった。これは魔力による病で、普通の人よりも魔力による毒素をためやすい体質によって発症するらしく、数年で亡くなると言われている。とはいえ不治の病と言われてはいるけど、薬による魔力分解で治療、耐性をつけることができるのだ……が、しかしその薬は『抗魔剤』と『魔力中和薬』というもので、どちらも恐ろしく貴重で高額。王都で手に入れられるらしいけど、金銭面的に難しいだろう。
(彼女の家には父親がいないって話だし、母親だけで稼げる金額ではない……もうどうにもならないんだよな)
「ね、わかってくれるでしょ?リンちゃん」
「わかるけど……でもその病気は外に出てると悪化してしまうんだよ?私はもっともっとロカちゃんと生きていきたい。一緒に居てほしいよ……だから帰ろう」
俺がそういうと彼女の瞳が潤み涙が溢れた。
「ふっ、うあ、わああ……うぇえええん」
逃れられない死の恐怖。毎日その影に怯えいつ来るかもわからない死に、彼女はどれ程のストレスを抱えているのだろう。
どうにかしたいけど、薬を手に入れられる金もない。あったとしても王都へ行くことはできない。いけば村を救えなくなる……。
連れ戻し、家へ送り届けると母親からお礼のポーション(大)を貰った。
俺がお使いクエストをこなす理由にこれがある。道具屋では買えないアイテムの入手、そしてクエスト完了での経験値獲得。無数にある村のお使いクエストでは報酬がおいしくすべてこなした時の経験値は馬鹿にならない。ダンジョンに入れない平日ではこれが最も効率のいいレベリングだ。
(まあ、村のためになにかしたいって気持ちも大きいけど)
「やあ、リン」
次のクエストへ向かう最中、ウルカに声をかけられた。
「ロカの家に行ってたのかい?」
「うん。また家からいなくなってお母さんが探してたから」
「ああ、またか。……しかし僕らも覚悟を決めねばならないね」
「覚悟?」
「数日前、ロカのお母さんが言ってたんだ。病魔の進行速度がはやくてね。医者によればそろそろ限界かもしれないと……ほら、数日前に意識不明にもなってたろう。体中に魔素が回っているんだって」
確かに、そうだ。けどおかしい。前にプレイしていた時はそんな話なかった気がするが……いや、ストーリーに興味がなかったから覚えてないだけかもしれないけど。
「……もってあと二日だそうだよ」
その一言を聞いた時、体がずしりと重くなった気がした。
(そうか。どの道……間に合わない話だったんだ)
無数にあるゲームのシナリオ。その中には悲劇的な結末へと至るものは少なくない。これもこの広い世界にあるその一つなんだろう。
「どうにもできないのかな、僕らには」
ウルカの問いに俺は答えられなかった。ただ、うつむくことしか。
――
【ステータス】《称号》深淵ノ死者
《名前》リン《ジョブ》白魔道士
レベル:51
HP:1200/1200
MP:1630/1630
筋力:189
魔力:828
精神:269
俊敏:668
詠唱:465
《装備:武器》
R12『碧石の法杖』攻撃力(物):208 攻撃力(魔):910
《装備:防具》
R13『闇子の外套』防御力(物):109 防御力(魔):128
《スキル》
★【魔眼】:消費MP――
☆『魔弾』:消費MP30
☆『ダブルバースト』:消費MP×3
☆『ファントム』:消費HP1/3
☆『キュア』:消費MP15
《魔法》
☆『ヒーリング』:消費MP15
☆『ヒーリン・ガ』:消費MP30
☆『エアマジック』:消費MP5
☆『マジックバースト』:消費MP20
☆『エアリアルヒール』:消費MP20
☆『ホワイトガード』:消費MP15
☆『ヒーリングレイ』:消費MP150
――
夜、二つの満月を眺めながらステータスを確認する。いつもの待ち合わせ場所にクロウの姿は無かった。
少しの時間、待ち続けたが彼が姿を現すことは無く。宝ごと消えた彼はもう帰ってこないのだと予感した。
(……まあ、お宝は別にいいか。クロウはそれに見合う働きをしていたし。にしても急に消えたな)
このゲームでは何かしらの要因でNPCが唐突にいなくなることは多い。最初からその覚悟はしていた。だからもしこういう事態になったとしても特別なにも感じないと思っていた。最初からその覚悟はしてたし。
しかし実際心はそうならなかった。現にいま想像以上の喪失感と寂しさに俺は戸惑っていた。今まで現実社会でもゲームでもソロで戦い続けていたから知る機会がなかった事もあるのだろう。いつも遊んでいるフレンドが突然いなくなるってこんな気持ちなのかな……。
「……行こう」
俺はダンジョンへの洞穴を潜る。二人ではなく、ソロで。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる