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ゲーム開始
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「真ちゃん……ありがとう……優しさをいっぱいありがとう……美味しいごはんをありがとう……たくさん愛してくれてありがとう……そして……出会ってくれて……ありがとう」
瑠璃子の言葉が耳から離れない。
彼女の温かさや柔らかさ、良い匂い、夏の花火の様な瞬間輝くその美しさ、それらが消えてしまうことが真司にはたまらなく辛かった。
二人の思い出づくりが始まったストロベリアムの星空を見あげた。
涙が頬を伝った。この星空はCGかもしれない、この世界は造りものかもしれない。
でも、ここで生きた二人の思い出は本物だった。
目が熱くなり、鼻の奥がツンとする。
思えばそれは狂おしいほどの恋だった。
203X年12月24日二人がゲームを始めてから最初のクリスマスイブ、真司は一人夜空を見上げていた。
☆
「瑠璃(るり)ちゃん、誕生日おめでとう」
パーンとクラッカーが鳴り、病室に拍手が響き渡った。
金澤瑠璃子は、四月で18歳になった。
病室にはベッドの上に瑠璃子、その瑠璃子に寄り添うように瑠璃子の母がベッドに腰かけ、幼馴染の相川真司(あいかわしんじ)が病室の真ん中あたりに立っていた。
三人はとても楽しそうに笑っていた。じっさい時間を惜しむようにこの一瞬を楽しんでいたのだが。
「ありがとう」
ショートヘアの可愛らしい瑠璃子が恥ずかしそうにはにかんだ。
色素の薄い茶色の髪に、白過ぎる肌、か細い命を今日まで必死につなぎ止めてきた少女の横顔には、どこか悲壮な色気があった。
でも、彼女を見ても大抵の人間は彼女を可哀想だとは思わないだろう。
消える前の花火の様な、美しい輝きを彼女は持ってるように見える。
そんな彼女の病室を見回してみると、そこはもう自室の様だ。
可愛い動物がプリントされた枕や敷布団は瑠璃子の私物だし。
ベッドの反対側の部屋の隅には大きなダイブギアが置いてあった。
全五感タイプ仮想現実型のゲーム機ダイブギアは瑠璃子の病室と世界をつなぐ架け橋だ。
「コレさ、瑠璃ちゃんと一緒に遊ぼうと思って、買ってきたんだ」
ケーキをパクつきながら真司がピカピカ輝く新品のゲームソフトを瑠璃子に渡した。
セイクリットエンパイアX今、一番注目されているVRMMOだ。
203X年のVR(ヴァーチャルリアリティ)革命が産んだ、全五感タイプ多人数参加型のロールプレイングゲームだった。
「わあぁ……これ、うわさのゲーム? やってみたかったの」
瑠璃子はパッとヒマワリがさいたような笑顔を見せた後、すぐに沈んだ顔になった。
「でも、私歩けないんだった」
以前から麻痺のあった瑠璃子の下半身はついに先日、完全に動かなくなった。
「頭に異常が無ければ、向こうならたぶん歩けると思うけど。VRは試してみた?」
「まだ……」
下半身が完全に麻痺してから、瑠璃子はベットから起き上がってもいない。
VRでも歩けなくなっていたらと思うと、怖くて試せなかった。
「お医者さまは、頭にはなんの異常もないっておっしゃってたわ」
瑠璃子ママが彼女の頭を撫でながら優しく言った。
「ほんとう?」
瑠璃子がもじもじし始める。そう聞くとすぐにでも試してみたくなった。
「いいじゃないの。VRゲーム、良い気晴らしになるわ」
瑠璃子ママと真司がうんうんと頷きあう。
「じゃあ試してみる。せっかく真ちゃんが買ってきてくれたんだもん」
「そっか、なら俺もすぐ帰ってゲームにインするよ」
「うん、真ちゃんのエントランスで待ってるね」
笑うと本当に元気な女の子に見える。
手足はスラリと長いし、スタイルも良い、豊満な乳房も美しい形をしていた。
しかし瑠璃子はその余命さえ危ぶまれる身だった。
瑠璃子の身体は時と共に徐々に動かなくなっていった。いずれはこのまま心臓も動きを止めるだろうというのが主治医の見解だ。
治療法の無い奇病だった。
☆
真司は自宅へ帰るとすぐにダイブギアでVR空間へダイブすることにした。
先ほどメールで瑠璃子の方の準備が終わったと連絡があった。
ダイブギアの外部に設置された液晶のパネルを操作して、棺桶の様なゲーム機のカバーを開ける。
中には複雑な配線がなされたベッドがあり、中学入学時に移植されたナノマシンと連動して、脳に精密なコンピューターグラフィックを見せるヘッドギアがあった。
真司はダイブギアに横になり、ヘッドギアをかぶると、手元のスイッチを操作してダイブギアの蓋を締めた。
「ダイブスタート」
ナノマシンデバイス起動
ボディスキャンOK
神経接続異常なし
生体認証OK
ダイブスタートします。
真司の意識が電脳世界への入り口を駆けていく。
浮遊するような、落下するようなともいえる、独特の感覚を味わう。
次に視界が開けた時には、綺麗で片付いた西洋風の建物の中にいた。
ゆったりとしたソファーとテーブル、バーのカウンターがあり、その奥に洋酒がずらりと並んだ棚がある。
窓の外に森林が見える。有名なヨーロッパの建築家が作った金持ち用の別荘をVRで模したエントランスだった。
見慣れた真司のエントランスルームである。
「あっやっときた、真ちゃんやっほ」
見れば瑠璃子がカウンターに腰かけ、カルーアミルクなんかを飲んでいる。
「ごめん、待たせたな」
軽く手を挙げ笑みを送る。
すると、瑠璃子が真司の元へ駆けてきて、ぴょんぴょんと飛び跳ねて見せた。
「走れた、足動くよ」
「うん、よかった」
心底嬉しそうに笑う瑠璃子の頭をそっと撫ぜてやった。
「よし、さっそくゲームを始めてみよっか」
二人はメニュー画面から、セイクリッドエンパイアの起動パネルを表示させると、それにせーのでタッチした。
ハープをかき鳴らすような効果音がなると、みるみる辺りの風景が切り替わった。一面花畑の様なエリアに転送される。
「セイクリッドエンパイアXの世界へようこそ、金澤瑠璃子さま、相川真司さま、両名ともにキャラクターがありません、10秒後にセイクリッドエンパイア初期設定ルームへ転送いたします」
カウントダウンタイマーが点灯し、あっという間に10秒が過ぎる。
すると、花畑にギリシャ神殿風の建物が呼び出されていった。見事なレリーフが施された大理石の神殿に二人は圧倒された。
「すごっ、ホントにこれがゲームか疑わしくなるよね」
真司も目を丸くするとコクコクと頷いた。
VRのリアルさには慣れている二人だったが、ここまで人を圧倒するCGに出会ったのは初めてだ。
ちょっと病的ともいえるほど細部まで創りこまれていた。
「どうぞ、神殿の奥へお進みください」
神殿の中から澄んだ鈴のように綺麗な女性の声が響いた。
どこかで聞いたことがあるような、多分声優さんの声だ。
ギリシャの神々の様なレリーフが施された入り口をくぐる。
外のさんさんと輝く太陽に比して、神殿の中は落ち着いた暗がりで、目が慣れるまで数秒を要した。
「ようこそ、瑠璃子ちゃん、真司くん、私、初心者案内人のアリスです」
神殿の中央の祭壇にはさらさらと音が鳴りそうな見事なロングのブロンドヘアの女性が立っていた。
天女を思わせるような白のガウンに長い杖を持ち、どちらかと言うと女神系のキャラっぽい
アリスがペコリと頭を下げたので、つられて真司と瑠璃子も頭を下げた。
「ちゃんと礼儀正しいですね。いいこ、いいこ、ここではゲームを楽しむためのキャラクターを作っちゃいますよ」
「そう言えばゲームの情報、全然調べてなかったね」
瑠璃子がちょっと不安そうな顔を見せた。
「俺が調べてあるよ」
真司の言葉に瑠璃子は力強く頷いた。やっぱり真ちゃんは頼りになる。
彼はいつも瑠璃子の頼れる相棒だった。小さな頃から。
「ここでは、キャラクターのクラスと名前を選択してゲームのスタート地点を決めるだけですよ~。クラスは後から追加できるので、まずはノリで決めちゃって平気です」
「そっか~ならちゃっちゃと決めて、ゲームをはじめるのだ」
瑠璃子がぴょんぴょんしながらアリスの回りを跳ね回った。
名前はわりとすぐに決まった。瑠璃子がルリルリで真司は本名そのままシンジに決定した。
アリスの説明ではクラスは大きく分けて冒険者クラスと生産者クラスがあるとの事だった。
生産者でもソロ狩りでレベル上げができるという話だったが、生産者クラスは戦闘用の衣装やゴーレム、強化用の食事なんかにお金がかかるという話だったので、まずは冒険者クラスから始めてみることにした。
真司が剣士職であるソードマン、自称癒し系の瑠璃子はクレリックを選んだ。
ソードマンは攻防のバランスの良いアタッカーで、クレリックは回復魔法や強化魔法が得意な支援職だ。
この二つはペアでの相性がとても良いというアリスのお勧めだったので、二人は迷わずソードマンとクレリックを選んだ。
初期装備をアリスからもらって身に付けた。真司は中世の少年兵の様になり、瑠璃子の装備はシンプルな青のドレスだったが、背中と胸もとが結構開いていて、真司は少しドギマギしてしまった。
「うん、ルリちゃん可愛いよ」
瑠璃子は嬉しそうに目を細め「真ちゃんもかっこいいよ」と言って抱きついてきた。
瑠璃子の胸が真司の腕に当たり形を変える。
「くっつくなよ」と言いながら、赤らんだ顔をした。
真司が恥ずかしがったせいで瑠璃子も恥ずかしくなった。
瑠璃子はコホンと咳払いをして。
「じゃあ、どこから始めようかな~」
とアリスが出した世界地図をタッチして、初期村の情報を確認しはじめる。
「このストロベリアムの村が良いらしいよ」
真司が得意顔でそう言うと
「ふ~ん。どんなところなのかな?」
と瑠璃子も興味を惹かれたようだった。
「イチゴが特産で、モンスターも狩りやすいんだってさ」
「イチゴ食べたい」
一瞬で瑠璃子の瞳がキラキラと輝きだす。
「じゃあ、ストロベリアムの村でお願いします」
「わかりました。お二人をセントアレフ王国ストロベリアムの村へ転送いたしますね」
アリスが杖を振ると、辺りの風景がぼんやりしはじめる。
転送が始まったのだ。瑠璃子はアリスに手を振った。
アリスも笑顔で手を振り返してきた。
瑠璃子の言葉が耳から離れない。
彼女の温かさや柔らかさ、良い匂い、夏の花火の様な瞬間輝くその美しさ、それらが消えてしまうことが真司にはたまらなく辛かった。
二人の思い出づくりが始まったストロベリアムの星空を見あげた。
涙が頬を伝った。この星空はCGかもしれない、この世界は造りものかもしれない。
でも、ここで生きた二人の思い出は本物だった。
目が熱くなり、鼻の奥がツンとする。
思えばそれは狂おしいほどの恋だった。
203X年12月24日二人がゲームを始めてから最初のクリスマスイブ、真司は一人夜空を見上げていた。
☆
「瑠璃(るり)ちゃん、誕生日おめでとう」
パーンとクラッカーが鳴り、病室に拍手が響き渡った。
金澤瑠璃子は、四月で18歳になった。
病室にはベッドの上に瑠璃子、その瑠璃子に寄り添うように瑠璃子の母がベッドに腰かけ、幼馴染の相川真司(あいかわしんじ)が病室の真ん中あたりに立っていた。
三人はとても楽しそうに笑っていた。じっさい時間を惜しむようにこの一瞬を楽しんでいたのだが。
「ありがとう」
ショートヘアの可愛らしい瑠璃子が恥ずかしそうにはにかんだ。
色素の薄い茶色の髪に、白過ぎる肌、か細い命を今日まで必死につなぎ止めてきた少女の横顔には、どこか悲壮な色気があった。
でも、彼女を見ても大抵の人間は彼女を可哀想だとは思わないだろう。
消える前の花火の様な、美しい輝きを彼女は持ってるように見える。
そんな彼女の病室を見回してみると、そこはもう自室の様だ。
可愛い動物がプリントされた枕や敷布団は瑠璃子の私物だし。
ベッドの反対側の部屋の隅には大きなダイブギアが置いてあった。
全五感タイプ仮想現実型のゲーム機ダイブギアは瑠璃子の病室と世界をつなぐ架け橋だ。
「コレさ、瑠璃ちゃんと一緒に遊ぼうと思って、買ってきたんだ」
ケーキをパクつきながら真司がピカピカ輝く新品のゲームソフトを瑠璃子に渡した。
セイクリットエンパイアX今、一番注目されているVRMMOだ。
203X年のVR(ヴァーチャルリアリティ)革命が産んだ、全五感タイプ多人数参加型のロールプレイングゲームだった。
「わあぁ……これ、うわさのゲーム? やってみたかったの」
瑠璃子はパッとヒマワリがさいたような笑顔を見せた後、すぐに沈んだ顔になった。
「でも、私歩けないんだった」
以前から麻痺のあった瑠璃子の下半身はついに先日、完全に動かなくなった。
「頭に異常が無ければ、向こうならたぶん歩けると思うけど。VRは試してみた?」
「まだ……」
下半身が完全に麻痺してから、瑠璃子はベットから起き上がってもいない。
VRでも歩けなくなっていたらと思うと、怖くて試せなかった。
「お医者さまは、頭にはなんの異常もないっておっしゃってたわ」
瑠璃子ママが彼女の頭を撫でながら優しく言った。
「ほんとう?」
瑠璃子がもじもじし始める。そう聞くとすぐにでも試してみたくなった。
「いいじゃないの。VRゲーム、良い気晴らしになるわ」
瑠璃子ママと真司がうんうんと頷きあう。
「じゃあ試してみる。せっかく真ちゃんが買ってきてくれたんだもん」
「そっか、なら俺もすぐ帰ってゲームにインするよ」
「うん、真ちゃんのエントランスで待ってるね」
笑うと本当に元気な女の子に見える。
手足はスラリと長いし、スタイルも良い、豊満な乳房も美しい形をしていた。
しかし瑠璃子はその余命さえ危ぶまれる身だった。
瑠璃子の身体は時と共に徐々に動かなくなっていった。いずれはこのまま心臓も動きを止めるだろうというのが主治医の見解だ。
治療法の無い奇病だった。
☆
真司は自宅へ帰るとすぐにダイブギアでVR空間へダイブすることにした。
先ほどメールで瑠璃子の方の準備が終わったと連絡があった。
ダイブギアの外部に設置された液晶のパネルを操作して、棺桶の様なゲーム機のカバーを開ける。
中には複雑な配線がなされたベッドがあり、中学入学時に移植されたナノマシンと連動して、脳に精密なコンピューターグラフィックを見せるヘッドギアがあった。
真司はダイブギアに横になり、ヘッドギアをかぶると、手元のスイッチを操作してダイブギアの蓋を締めた。
「ダイブスタート」
ナノマシンデバイス起動
ボディスキャンOK
神経接続異常なし
生体認証OK
ダイブスタートします。
真司の意識が電脳世界への入り口を駆けていく。
浮遊するような、落下するようなともいえる、独特の感覚を味わう。
次に視界が開けた時には、綺麗で片付いた西洋風の建物の中にいた。
ゆったりとしたソファーとテーブル、バーのカウンターがあり、その奥に洋酒がずらりと並んだ棚がある。
窓の外に森林が見える。有名なヨーロッパの建築家が作った金持ち用の別荘をVRで模したエントランスだった。
見慣れた真司のエントランスルームである。
「あっやっときた、真ちゃんやっほ」
見れば瑠璃子がカウンターに腰かけ、カルーアミルクなんかを飲んでいる。
「ごめん、待たせたな」
軽く手を挙げ笑みを送る。
すると、瑠璃子が真司の元へ駆けてきて、ぴょんぴょんと飛び跳ねて見せた。
「走れた、足動くよ」
「うん、よかった」
心底嬉しそうに笑う瑠璃子の頭をそっと撫ぜてやった。
「よし、さっそくゲームを始めてみよっか」
二人はメニュー画面から、セイクリッドエンパイアの起動パネルを表示させると、それにせーのでタッチした。
ハープをかき鳴らすような効果音がなると、みるみる辺りの風景が切り替わった。一面花畑の様なエリアに転送される。
「セイクリッドエンパイアXの世界へようこそ、金澤瑠璃子さま、相川真司さま、両名ともにキャラクターがありません、10秒後にセイクリッドエンパイア初期設定ルームへ転送いたします」
カウントダウンタイマーが点灯し、あっという間に10秒が過ぎる。
すると、花畑にギリシャ神殿風の建物が呼び出されていった。見事なレリーフが施された大理石の神殿に二人は圧倒された。
「すごっ、ホントにこれがゲームか疑わしくなるよね」
真司も目を丸くするとコクコクと頷いた。
VRのリアルさには慣れている二人だったが、ここまで人を圧倒するCGに出会ったのは初めてだ。
ちょっと病的ともいえるほど細部まで創りこまれていた。
「どうぞ、神殿の奥へお進みください」
神殿の中から澄んだ鈴のように綺麗な女性の声が響いた。
どこかで聞いたことがあるような、多分声優さんの声だ。
ギリシャの神々の様なレリーフが施された入り口をくぐる。
外のさんさんと輝く太陽に比して、神殿の中は落ち着いた暗がりで、目が慣れるまで数秒を要した。
「ようこそ、瑠璃子ちゃん、真司くん、私、初心者案内人のアリスです」
神殿の中央の祭壇にはさらさらと音が鳴りそうな見事なロングのブロンドヘアの女性が立っていた。
天女を思わせるような白のガウンに長い杖を持ち、どちらかと言うと女神系のキャラっぽい
アリスがペコリと頭を下げたので、つられて真司と瑠璃子も頭を下げた。
「ちゃんと礼儀正しいですね。いいこ、いいこ、ここではゲームを楽しむためのキャラクターを作っちゃいますよ」
「そう言えばゲームの情報、全然調べてなかったね」
瑠璃子がちょっと不安そうな顔を見せた。
「俺が調べてあるよ」
真司の言葉に瑠璃子は力強く頷いた。やっぱり真ちゃんは頼りになる。
彼はいつも瑠璃子の頼れる相棒だった。小さな頃から。
「ここでは、キャラクターのクラスと名前を選択してゲームのスタート地点を決めるだけですよ~。クラスは後から追加できるので、まずはノリで決めちゃって平気です」
「そっか~ならちゃっちゃと決めて、ゲームをはじめるのだ」
瑠璃子がぴょんぴょんしながらアリスの回りを跳ね回った。
名前はわりとすぐに決まった。瑠璃子がルリルリで真司は本名そのままシンジに決定した。
アリスの説明ではクラスは大きく分けて冒険者クラスと生産者クラスがあるとの事だった。
生産者でもソロ狩りでレベル上げができるという話だったが、生産者クラスは戦闘用の衣装やゴーレム、強化用の食事なんかにお金がかかるという話だったので、まずは冒険者クラスから始めてみることにした。
真司が剣士職であるソードマン、自称癒し系の瑠璃子はクレリックを選んだ。
ソードマンは攻防のバランスの良いアタッカーで、クレリックは回復魔法や強化魔法が得意な支援職だ。
この二つはペアでの相性がとても良いというアリスのお勧めだったので、二人は迷わずソードマンとクレリックを選んだ。
初期装備をアリスからもらって身に付けた。真司は中世の少年兵の様になり、瑠璃子の装備はシンプルな青のドレスだったが、背中と胸もとが結構開いていて、真司は少しドギマギしてしまった。
「うん、ルリちゃん可愛いよ」
瑠璃子は嬉しそうに目を細め「真ちゃんもかっこいいよ」と言って抱きついてきた。
瑠璃子の胸が真司の腕に当たり形を変える。
「くっつくなよ」と言いながら、赤らんだ顔をした。
真司が恥ずかしがったせいで瑠璃子も恥ずかしくなった。
瑠璃子はコホンと咳払いをして。
「じゃあ、どこから始めようかな~」
とアリスが出した世界地図をタッチして、初期村の情報を確認しはじめる。
「このストロベリアムの村が良いらしいよ」
真司が得意顔でそう言うと
「ふ~ん。どんなところなのかな?」
と瑠璃子も興味を惹かれたようだった。
「イチゴが特産で、モンスターも狩りやすいんだってさ」
「イチゴ食べたい」
一瞬で瑠璃子の瞳がキラキラと輝きだす。
「じゃあ、ストロベリアムの村でお願いします」
「わかりました。お二人をセントアレフ王国ストロベリアムの村へ転送いたしますね」
アリスが杖を振ると、辺りの風景がぼんやりしはじめる。
転送が始まったのだ。瑠璃子はアリスに手を振った。
アリスも笑顔で手を振り返してきた。
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