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怪談 老舗旅館のいわく付きの部屋

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 いわく付きの部屋とかってありますよね。小野不由美さんの残穢ざんえみたいな事故物件とかいわゆる出る部屋です。

 今回ご紹介するのはお米や海産物で有名なN県の老舗旅館にまつわる怖い体験談です。うわっと幽霊が出てくる派手な怖い話しではないのですがなんとも不気味なお話しでした。

 元ネタは駅の売店なんかで売っていた旅の怖い話しの本です。読んだのは僕が子供のころで旅行中の暇潰しだったのですが、自分もこんな目にあったらどうしようと怯えたのを覚えています。

 それはこんなお話しでした。

 当時はまだ景気も今ほど落ちこんでいなくて、国内の割と割高なバスツアーも飛ぶように予約が入った時代でした。団塊の世代の方々がまだまだ凄く元気だった時代ですね。

  魚のアメ横は好評でした。これは今回のN県旅行の目玉だったので私はほっとしました。高いお金を払ってツアーに来ているお客様は食事にはうるさく、ここでポイントを稼いでおけば、後々クレームが付く可能性はぐっと減ります。

 私みたいな二十代の女のツアーガイドはお客様にけっこう舐められます。不手際を仕出かしたり、満足度の低いお店にでも連れていけばたちまち小言の嵐です。

 だから私は今回のツアーは上手くいったと思いすっかり安心していました。
 何事もなくこの仕事は終わるんだろうと思ったんです。でもそうはならなかったんです。
 私は滞在先でとても怖い体験をしました。
 その滞在先の旅館は歴史ある老舗ですが設備はしっかりしているとの話で、何も心配はしていなかったのです。
 確かにお客様にとっては何事もなかったんですけど。

 その建物はパッと見とても綺麗で築年数をあまり感じさせませんでした。
 小さなビーチが近くにある木造の上品な建築で。中居さんたちの感じもよく、良い旅館だなとその時は思いました。

 でも、部屋に案内された時にすぐに妙だなと思いました。
 通された部屋が二人部屋のとても上等な部屋だったのです。
 囲炉裏のある海辺の角部屋で窓からの眺めも良く、寝床はお布団でしたがツインのベッドが置けるくらい広かったのです。


 私はすぐに「こんな立派な部屋なにかの間違えじゃないですか?」
 と、中居さんに尋ねました。
 すると、中居さんは少しだけ顔をしかめて「少しだけ問題があるのですが……できればこの部屋にしてほしいのです」と答えました。

 私はすぐにピンときました。ああ……これはあれだ。
「もしかしてこの部屋って」
 私が幽霊の真似をしてそう言うと中居さんはすぐに察したらしく。
「全く何もないって方も多いんですが、中には……」
 と言葉をにごしました。

 宿泊料金をたっぷり払っているツアーのお客様ならいざ知らず、最低限のお金しか払っていないガイドに良い部屋があてがわれる事なんてまずないです。
 大抵が一番安い部屋か最悪従業員の仮眠室なんてこともあります。
 そしてたまにあるのがいわゆるいわく付きの部屋ってやつです。

「大した事が起こるわけではないんです」
「はぁ……」
 私は気のない返事をしました。特に怖いとは思いませんでした。
 いわく付きの部屋とやらは初めてではなかったですし、霊感のない私は大抵何事もなく終わることが大半でした。

「大丈夫です。こういうの慣れてますし、むしろこんな良い部屋に泊まれてラッキーって感じです」
 私がそう言うと中居さんはそうですかと少しホッとした様子でした。

 その後は夕食になりました。私はツアーのオジサン達にお酌をして回り、皆が入つた後にお風呂をいただき一日の仕事を終えました。
 明日も朝から仕事があったので私はすぐに床に就きました。
 その時には例の中居さんの話しなどすっかり忘れていました。

 そうです。確かに妙に寝苦しかったのを覚えています。
 その上等な造りにもかかわらず嫌な気配のする部屋でした。
 なかなか訪れない眠りを待ちながら、何度も寝返りをうっていたときでした。
 その音は唐突に始まりました。

 ギシッギシッとベッドが軋む様な妙な音です。
 もちろん寝床はお布団なのでベッドなんて近くにありません。
 その音も床と言うより、むしろ天井に近い位置から聞こえました。

 改めてこんな音を出すものこの部屋になかったよなぁ……と思ったところで、私は恐怖に捕らわれました。

 なんとなく妙な気配を頭上に感じました。
 この音もそこから聞こえてくる様でした。
 そう……誰かがそこで首を吊ってぶらさがっているような。
 私の背筋にゾゾっと怖気が走りました。

 天井は板張りで梁なんてありません、なにかがぶらさがっているなんて考えられません。部屋の上に二階もありませんでした。
 だとしたら、このギシッギシッという音はどこからするんでしょう?

 私は恐怖に耐えきれず目を見開いて天井を確かめました。
 何もありません、すると、さっきまで確かに聞こえていたあの音も嘘のように消えました。
 でも目を閉じるとまた聞こえるんです。
 私のすぐ頭の上で。ギシッギシッと。

 固く目をつむり、冷たい汗をかきながら必死に心の中で念仏を唱えました。
 しばらくすると頭上の音と気配は消えました。
 恐怖に震えながら布団を頭からかぶっていると、やっと睡魔が私を捕まえました。

 朝目が覚めると部屋には昨日の事が嘘のように清々しい朝日がさしていました。
 昨晩の出来事を中居さんに話すと、やはりこの部屋で出るのは首吊りの幽霊なんだと教えてくれました。
 この旅館ができる前に建っていた民家で首吊りがあったのだそうです。

 音と気配だけで姿を見たわけではなかったんですが、確かにはっきりと何かがいるように感じたんです。
 あの部屋にはやはり何かがいるんだと思います。

 老舗旅館のいわく付きの部屋終

 この度は僕の怪談を読んでくれてありがとうございました。
 キオスクに売っているような本にあった話しをわざわざしたのにはわけがありまして、この話がいわゆる音の怖い話しだったからです。

 怪奇現象の中でも音だけのやつってけっこう多いような気がします。
 それこそ空耳で済んでしまう出来事もありますが、体験してみると背すじがゾゾーとする怖い音の怪奇現象もあるんですよね。

 つい最近もトレーニングの長距離ウォーキング中で、心霊スポットとして有名な地元のお寺に続く山道を歩いているときに「おいっお兄ちゃん」とオジサンに声をかけられたと思ったんです。それは本当にオジサンが後ろにいて声をかけたように聞こえたんです。
 でも後ろを振り返ると誰もいないんですね。
 そんな体験をしました。
 今回は音の怖い話しでした。いかがでしたでしょうか? 楽しんでいただけたら幸いです。
 また次も面白くも怖い話しをご用意してお待ちしております。それではまた。
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