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トマトでご馳走
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「いやぁ、姫の手料理が食えるなんて幸運でさぁ」
とベンリさんの眼がキラキラしている。
「うん、アイリさんの料理はとても美味しいですよ」
「姫の手料理が毎日食えるなんて、俺も魔王を退治すればよかったですわ」
「ベンリさんがいても足を引っ張るだけですわ」
「間違いねぇ」
ベンリさんは豪快にガハハと笑った。
「前菜はトマトと生ハムとフレッシュチーズのサラダ、スープはトマトのポタージュです」
「うんうん、これが食べたかったんだ」
トマトの赤に真っ白なチーズ、そこへ琥珀のように綺麗な生ハムが乗っている。
「こいつはウメえ、こんな美味いサラダは初めてですわ」
「ホントに……これは絶品だ」
酸味と甘みのしっかりしたトマトにフレッシュチーズのまろやかな味を生ハムの塩気が引き締めている。今までで食べたサラダの中で一番美味しいかもしれない。
でも、ルシアが作ってくれた粉チーズをたっぷり使ったシーザーサラダも美味かったな。あれとこれは……甲乙つけがたいな。
「体中の血が綺麗になるような気がしますわ」
それ僕もアイリさんの野菜料理を食べるたびに思う。
次はポタージュだ。これも凄く美味しそうで、湯剥きし裏ごしして皮と種を取り除かれたトマトのペーストが生クリームと合わさって、淡いピンクのスープになっている。
ひとさじすくって口に運ぶ。
「う、美味い……」
「スープも激うまでさぁ、姫は料理の天才ですな」
ベンリさんに褒められても全然嬉しそうな顔をしないが、僕が感激するとニッコリと微笑んでくれる。
しかし、ベンリさんはそんな温度差がまったく気にならないようだった。
「次はこれを召し上がってください」
「これは……」
卵を焼いたもののように見えるが。赤いソースはトマトだとして……。
「オムライスです」
「おお……」
僕とベンリさんは顔を見合わせる。うん、と頷いて銀のスプーンを手に取った。
焼き卵にそっとスプーンを入れると、中からトマトで赤くなったライスが見える。
すると、いい匂いが立ち昇ってくる。
「これは……スッキリしてるのになんてしっかりした旨味があるんだ」
「これは美味すぎて反則でさぁ」
トマトの味のしみたチキンライスが口の中でほろりと蕩け、香ばしい卵の薄焼きと合わさって、これは美味い。
僕達はしばし夢中になってオムライスを食べた。あまりの美味さにベンリさんなんか泣きそうになってたくらいだ。
「家のカカアも料理は上手いほうだが……これは格が違いますわ」
アイリさんの料理はプロのシェフなんじゃないかってくらいに美味い。二人でレストランをやってもいいくらいだ……ああ、それも楽しそうだな。
「メインディッシュは今朝も出しましたファングボアのお肉とトマトを合わせ、チーズをのせて焼きました」
チーズには美しい焼き色がついていて、香ばしい匂いがする。鉄鍋に入れて焼かれた具材が小さな音を立てている。焼きたてなんだ。
「う……美味い」
「こんな美味い肉料理が、フロア村の食材で作れるとは、俺はとんと知らなかったでさぁ」
二人して感動を通り越して呆れてしまうくらい、美味かった。
「原型は特に変わったことのない田舎料理ですわ、味付けの配分には気を配りましたが、特別な料理ではございません」
アイリさんはさらっと言うが、これはまったくプロの味だった。
「でも……味付けの配分……確かにバランスが凄く絶妙なんだ。やっぱりアイリさんは料理の天才だよ」
「うふふ……喜んでもらえて光栄です」
そう言うと、アイリさんも自分のぶんの食事を僕達よりずっと小さな食器にのせ、味を確かめるように食べた。
「あら、確かにこのイノシシ肉は予想外の美味しさですわね」
あのチンピラ冒険者のファイヤボールはよほどいい火加減だったのだろうか、肉はジューシーで脂ものって美味かった。
「ここいらのイノシシは野山のうめえもんをたらふく食ってまさぁ、どんぐりや山菜なんかの自然の恵みを食って肥えてやがるんですわ」
ベンリさんがまた肉を食べ、たまらずくぅ~と声を上げていた。
「フロア村特産の豚肉を使った生ハムもうめえですが、幻のファングボアの生ハムは半端なくうめえですわ。材料が滅多に手に入らねえから数がないし、よく熟成されたものとなるともっと少ねえんです」
「それは……一度食べてみたいですね」
想像しただけで、唾がわいてきて、僕はそれをゴクリと飲んだ。
「今、うちにある生ハムよりも美味しいんですか?」
「よく見りゃ、生ハムが原木であるじゃねえですか、ちょいと失敬」
ベンリさんは置いてあったナイフで生ハムを薄切りにすると、ぺろりっと平らげた。
「おお、美味い美味い、この味がたまらねえんで」
そんなベンリさんをアイリさんがじろりと睨んだ。
「へへっ、そんな怖い顔でみねえでくだせえ。それで、ファングボアの生ハムですが当たり外れがデカいんですわ、この肉のように美味いイノシシもいれば、そんなでもねえヤツもあります。今度村の猟師に聞いてみますわ」
「よろしくお願いします」
「ではデザートです。冷やしたトマトのゼリー、飲み物は薄味のコーヒーです」
「わあっ! 凄い綺麗なゼリーだ」
これがまた物凄く美味しかった。ふるふると口の中をくすぐるゼリーは体温でとろけ、トマトの旨味が広がって鼻腔を爽やかな香りが通り過ぎていく。
「いただきました」
デザートを完食し、これでトマトのフルコースは終わった。うん、最高だった。
美味しくご飯を食べ、お風呂にゆっくりつかって、ぐっすり寝た。
なんだか幸せな夢を見た気がするけど、起きたら覚えていなかった。
とベンリさんの眼がキラキラしている。
「うん、アイリさんの料理はとても美味しいですよ」
「姫の手料理が毎日食えるなんて、俺も魔王を退治すればよかったですわ」
「ベンリさんがいても足を引っ張るだけですわ」
「間違いねぇ」
ベンリさんは豪快にガハハと笑った。
「前菜はトマトと生ハムとフレッシュチーズのサラダ、スープはトマトのポタージュです」
「うんうん、これが食べたかったんだ」
トマトの赤に真っ白なチーズ、そこへ琥珀のように綺麗な生ハムが乗っている。
「こいつはウメえ、こんな美味いサラダは初めてですわ」
「ホントに……これは絶品だ」
酸味と甘みのしっかりしたトマトにフレッシュチーズのまろやかな味を生ハムの塩気が引き締めている。今までで食べたサラダの中で一番美味しいかもしれない。
でも、ルシアが作ってくれた粉チーズをたっぷり使ったシーザーサラダも美味かったな。あれとこれは……甲乙つけがたいな。
「体中の血が綺麗になるような気がしますわ」
それ僕もアイリさんの野菜料理を食べるたびに思う。
次はポタージュだ。これも凄く美味しそうで、湯剥きし裏ごしして皮と種を取り除かれたトマトのペーストが生クリームと合わさって、淡いピンクのスープになっている。
ひとさじすくって口に運ぶ。
「う、美味い……」
「スープも激うまでさぁ、姫は料理の天才ですな」
ベンリさんに褒められても全然嬉しそうな顔をしないが、僕が感激するとニッコリと微笑んでくれる。
しかし、ベンリさんはそんな温度差がまったく気にならないようだった。
「次はこれを召し上がってください」
「これは……」
卵を焼いたもののように見えるが。赤いソースはトマトだとして……。
「オムライスです」
「おお……」
僕とベンリさんは顔を見合わせる。うん、と頷いて銀のスプーンを手に取った。
焼き卵にそっとスプーンを入れると、中からトマトで赤くなったライスが見える。
すると、いい匂いが立ち昇ってくる。
「これは……スッキリしてるのになんてしっかりした旨味があるんだ」
「これは美味すぎて反則でさぁ」
トマトの味のしみたチキンライスが口の中でほろりと蕩け、香ばしい卵の薄焼きと合わさって、これは美味い。
僕達はしばし夢中になってオムライスを食べた。あまりの美味さにベンリさんなんか泣きそうになってたくらいだ。
「家のカカアも料理は上手いほうだが……これは格が違いますわ」
アイリさんの料理はプロのシェフなんじゃないかってくらいに美味い。二人でレストランをやってもいいくらいだ……ああ、それも楽しそうだな。
「メインディッシュは今朝も出しましたファングボアのお肉とトマトを合わせ、チーズをのせて焼きました」
チーズには美しい焼き色がついていて、香ばしい匂いがする。鉄鍋に入れて焼かれた具材が小さな音を立てている。焼きたてなんだ。
「う……美味い」
「こんな美味い肉料理が、フロア村の食材で作れるとは、俺はとんと知らなかったでさぁ」
二人して感動を通り越して呆れてしまうくらい、美味かった。
「原型は特に変わったことのない田舎料理ですわ、味付けの配分には気を配りましたが、特別な料理ではございません」
アイリさんはさらっと言うが、これはまったくプロの味だった。
「でも……味付けの配分……確かにバランスが凄く絶妙なんだ。やっぱりアイリさんは料理の天才だよ」
「うふふ……喜んでもらえて光栄です」
そう言うと、アイリさんも自分のぶんの食事を僕達よりずっと小さな食器にのせ、味を確かめるように食べた。
「あら、確かにこのイノシシ肉は予想外の美味しさですわね」
あのチンピラ冒険者のファイヤボールはよほどいい火加減だったのだろうか、肉はジューシーで脂ものって美味かった。
「ここいらのイノシシは野山のうめえもんをたらふく食ってまさぁ、どんぐりや山菜なんかの自然の恵みを食って肥えてやがるんですわ」
ベンリさんがまた肉を食べ、たまらずくぅ~と声を上げていた。
「フロア村特産の豚肉を使った生ハムもうめえですが、幻のファングボアの生ハムは半端なくうめえですわ。材料が滅多に手に入らねえから数がないし、よく熟成されたものとなるともっと少ねえんです」
「それは……一度食べてみたいですね」
想像しただけで、唾がわいてきて、僕はそれをゴクリと飲んだ。
「今、うちにある生ハムよりも美味しいんですか?」
「よく見りゃ、生ハムが原木であるじゃねえですか、ちょいと失敬」
ベンリさんは置いてあったナイフで生ハムを薄切りにすると、ぺろりっと平らげた。
「おお、美味い美味い、この味がたまらねえんで」
そんなベンリさんをアイリさんがじろりと睨んだ。
「へへっ、そんな怖い顔でみねえでくだせえ。それで、ファングボアの生ハムですが当たり外れがデカいんですわ、この肉のように美味いイノシシもいれば、そんなでもねえヤツもあります。今度村の猟師に聞いてみますわ」
「よろしくお願いします」
「ではデザートです。冷やしたトマトのゼリー、飲み物は薄味のコーヒーです」
「わあっ! 凄い綺麗なゼリーだ」
これがまた物凄く美味しかった。ふるふると口の中をくすぐるゼリーは体温でとろけ、トマトの旨味が広がって鼻腔を爽やかな香りが通り過ぎていく。
「いただきました」
デザートを完食し、これでトマトのフルコースは終わった。うん、最高だった。
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