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黄泉の川へ
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「不思議……この石なんで光るんだろう」
悟志からもらった石を社の中に置いた時だ、その石がぼんやりと光り出した。
「ホントだね、さっきまで何ともなっていなかったのにね」
午前零時の夜見山神社は静かな場所だった。虫の鳴き声が少し聞こえるだけで静謐な雰囲気に包まれている。当然だが辺りはかなり暗い、優心がマグライトを持ち星河はいつでも屍鬼切りが抜けるよう、首にかけるタイプの小型のランタンを下げていた。
「入らずの森ってのはこっちか」
星河は社の裏のまるで獣道の様な草が茂った道を指し示す。
「うん……そうだよ、行こう」
優心はすっかり冒険家の顔になっている、星河はさっきまでのエッチの事が頭から離れず、むず痒いような妙な気分を引っ張っていた。
メロドラマの様な感動的な行為だったらこんな気分にはならなかったが、しっかり感じてしまいかつ結構マヌケだった自分たちの行為は今思い出しても恥ずかしい。
――主様、邪心が出てるんでありんす。優心ちゃん殿を見習ってほしいものですね。
「う……分かってるよ」
――油断していると化物にパクンとやられるでありんすよ。
「星河どうかしたの?」
優心がキョトンとした顔でそう訊いてきた。
「うん、なんでもないよ」
やっぱり優心は強いなと思った。ここぞって時の集中力、何が強いって心が強いんだ、だから星河は優心を好きになったのだ。
――もうそろそろでありんす。この辺りはすでに幻夢境……お気を付けを。
さっきまで聞こえていた虫の鳴き声がもうしない。ひりつく様な静寂、自分たちの足音だけがやたらと大きく感じた。
「あ……見えてきた」
優心が指さす先には、洞窟が口を開けていた。夜見山には無いはずの洞窟が。
「これが……夜見山の伝承の洞窟」
遂に優心と星河は伝説の核心に迫ったのだ。
「以前来た時は水音がしたけど今はしないのね」
「取りあえず入ってみよう」
中は夏の夜にしては乾いていて、ひんやりと少し寒かった。音が反響していて先ほどよりも足音が響くようだ。
洞窟はずっと奥まで続いている。優心が神経質にマグライトで付近を照らして辺りの様子を確認している。
「なんか……嫌な感じがする」
星河もそれは感じていた。
――それは死の気配でありんす。ここは幻夢境の中でもとりわけ死の世界に近いんでございますよ。
「そんな所の奥に行っても平気なのかな?」
――危険ではあります。ですが主様には妾、この名刀屍鬼切りが付いているんでありんす。
「うん、屍鬼切りちゃんは頼りになるね」
優心がうんうんと頷く、さすがの脳筋娘もこの洞窟はすこし怖いようだ。こういう時、圧倒的な戦力である屍鬼切りは頼もしい。
「慎重に進もう」
屍鬼切りの柄に手を当て、ゆっくりと進む。五分ほど進んだだろうか、洞窟の端に何かが落ちている、というかいる。
「これ……ミイラ?」
男性と思しき死体だった。一見登山者の様な服装で死後かなりの時間が経過しているのがわかる。
――以前の主様ですね。お可哀そうに変わり果てた姿でありんすね。
「山田邦夫さん……こんなところで死んでいるなんて」
優心が手を合わせ祈る、星河もそれに続いた。
「帰りに外まで運んであげよう」
「うん、そうだね知恵さんの命の恩人だもんね」
――元の主様よ。安らかにお眠りになってくださいまし。
屍を越えさらに奥に進むと少し開けた場所に出た。洞窟の中ほどのところが窪地になっていた。
――ここが以前川のあったところでありんす。
「すっかり枯れてるね……」
「やっぱり上流へ行くしかないみたいだ……しかしどっちが上流だ?」
――左の方でありんすよ、わずかに傾斜になってるのがお分かりいただけますか?
「うん……そうだね、確かにこっちに上ってる」
優心がマグライトを向けるが、闇はどこまでも続いていて先が見えない。入った時よりだいぶ気温が低い、足音が反響して不気味に鳴り響く。
「行くしかないようね」
「慎重に、慎重に」
こういった時は星河の様に少しビビリなくらいが丁度いい、足元にもゴロゴロした石が増えてきている。転ばない様、慎重に進んだ。
「水……無いねえ、本当に枯れちゃったのかなぁ?」
星河が不安そうにぼやく。
「見つけるまで上流に行くわよ。ここまで来て諦められるもんですか」
優心は無言でずんずん進んでいく、置いて行かれない様、慌てて星河も後に続く。
「優心……僕のスマホの時間表示が変なんだ」
星河はそう言ってスマホの画面を優心に見せた。零時十分を指している。
「あれっ! 洞窟に入ってから三十分くらい経ってるかと思った。まだ十分?」
「時計が進んでないみたいなんだよ。タイムゾーンも不明になってるし」
優心も慌てて自分のスマホで時刻を確認する。やはり十分で止まっている。
――幻夢境では時間の流れは現世のものと違うんでありんす。急に早くなることもあり得ます。まああまり気にしてもしょうがないんでありんす。
「そ……そんなものかなぁ……」
「伝説の秘境を探検しているのよ。そのくらいのこと、あった方が面白いじゃない」
優心にはやっぱり敵わないなと思った。肝の据わり方が常人とはまるで違う。
「少し……冷えてきたね」
奥へ進むごとにさらに気温が下がっていく、肌寒さを覚えるような温度になってきた。星河はブルリと体を震わせる。
――まずいでありんすね。
「な……なにがまずいの? 屍鬼切りちゃん?」
――あまり奥へ行き過ぎると、帰れなくなる恐れがありんす。
星河と優心が顔を見合わせる。どちらも不安そうな表情だった。
「水……そろそろ見つけないと……ってあら?」
優心がマグライトを枯れた川に当てた時、何かがきらりと光った。
優心が駆け寄る。
「水……あった! ここに少しだけ」
見れば川の石に窪みがあり、そこにわずかだが水がある。
「ホントだ……これ抄えるかな?」
「うん、大丈夫」
優心がリュックから水筒とスプーンを取り出す。水を抄うとちょうどスプーン一杯だけの水が取れた。慎重に水筒に注ぐ。
「やった! 少しだけどこれで足りるかな?」
――濃縮された濃い水のようでありんすね。ある程度効果はあるでしょう。
「うん、やったね」
ここにきてやっと優心は満面の笑みを浮かべた。
「何?! 揺れてる?」
水を取った直後、地鳴りがして微かに地面が揺れた。
――そろそろ引き返すときでありんすね。洞窟の存在が希薄になってきてるようです。
「それって?」
――早く逃げるんでありんす。
「星河……ダッシュよ」
それだけ言うと優心は駆けだした。物凄い速さで来た道を引き返す優心、星河は一瞬遅れて取り残される。
「おっ! おいっ待てって」
地鳴りはどんどん酷くなり、本格的に揺れ始めた。天井から小石状の破片が落ちてくる。
「これって逃げきれなかったらどうなるの?」
――そのまま死の空間に飲まれて一巻の終わりでありんす。
「ちょっ! 冗談じゃないわよ。星河っ! 走って走って」
「うっ! うおおおおおお」
川をどんどん下って行って、来た時の脇道を見つけて飛び込んだ。さらに走ると山田邦夫の遺体がある。
「おじさんっ! 悪いけど回収できない」
優心はざっと上から下まで遺体を眺め。
「これだけ貰っていくね」
と腕時計だけを回収した。次の瞬間一際大きく揺れた。パラパラと天井から石の欠片が落ちてくる。
「うおおおおおおおおっ! 優心ちゃんダッシュ! 星河ももっと走りなさい」
「わかってるって!」
出口が見えてきて、月明かりが差していて、二人は洞窟から飛び出してもしばらく走った。
気が付くと夜見山神社の境内にたどり着いていた。
悟志からもらった石を社の中に置いた時だ、その石がぼんやりと光り出した。
「ホントだね、さっきまで何ともなっていなかったのにね」
午前零時の夜見山神社は静かな場所だった。虫の鳴き声が少し聞こえるだけで静謐な雰囲気に包まれている。当然だが辺りはかなり暗い、優心がマグライトを持ち星河はいつでも屍鬼切りが抜けるよう、首にかけるタイプの小型のランタンを下げていた。
「入らずの森ってのはこっちか」
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「うん……そうだよ、行こう」
優心はすっかり冒険家の顔になっている、星河はさっきまでのエッチの事が頭から離れず、むず痒いような妙な気分を引っ張っていた。
メロドラマの様な感動的な行為だったらこんな気分にはならなかったが、しっかり感じてしまいかつ結構マヌケだった自分たちの行為は今思い出しても恥ずかしい。
――主様、邪心が出てるんでありんす。優心ちゃん殿を見習ってほしいものですね。
「う……分かってるよ」
――油断していると化物にパクンとやられるでありんすよ。
「星河どうかしたの?」
優心がキョトンとした顔でそう訊いてきた。
「うん、なんでもないよ」
やっぱり優心は強いなと思った。ここぞって時の集中力、何が強いって心が強いんだ、だから星河は優心を好きになったのだ。
――もうそろそろでありんす。この辺りはすでに幻夢境……お気を付けを。
さっきまで聞こえていた虫の鳴き声がもうしない。ひりつく様な静寂、自分たちの足音だけがやたらと大きく感じた。
「あ……見えてきた」
優心が指さす先には、洞窟が口を開けていた。夜見山には無いはずの洞窟が。
「これが……夜見山の伝承の洞窟」
遂に優心と星河は伝説の核心に迫ったのだ。
「以前来た時は水音がしたけど今はしないのね」
「取りあえず入ってみよう」
中は夏の夜にしては乾いていて、ひんやりと少し寒かった。音が反響していて先ほどよりも足音が響くようだ。
洞窟はずっと奥まで続いている。優心が神経質にマグライトで付近を照らして辺りの様子を確認している。
「なんか……嫌な感じがする」
星河もそれは感じていた。
――それは死の気配でありんす。ここは幻夢境の中でもとりわけ死の世界に近いんでございますよ。
「そんな所の奥に行っても平気なのかな?」
――危険ではあります。ですが主様には妾、この名刀屍鬼切りが付いているんでありんす。
「うん、屍鬼切りちゃんは頼りになるね」
優心がうんうんと頷く、さすがの脳筋娘もこの洞窟はすこし怖いようだ。こういう時、圧倒的な戦力である屍鬼切りは頼もしい。
「慎重に進もう」
屍鬼切りの柄に手を当て、ゆっくりと進む。五分ほど進んだだろうか、洞窟の端に何かが落ちている、というかいる。
「これ……ミイラ?」
男性と思しき死体だった。一見登山者の様な服装で死後かなりの時間が経過しているのがわかる。
――以前の主様ですね。お可哀そうに変わり果てた姿でありんすね。
「山田邦夫さん……こんなところで死んでいるなんて」
優心が手を合わせ祈る、星河もそれに続いた。
「帰りに外まで運んであげよう」
「うん、そうだね知恵さんの命の恩人だもんね」
――元の主様よ。安らかにお眠りになってくださいまし。
屍を越えさらに奥に進むと少し開けた場所に出た。洞窟の中ほどのところが窪地になっていた。
――ここが以前川のあったところでありんす。
「すっかり枯れてるね……」
「やっぱり上流へ行くしかないみたいだ……しかしどっちが上流だ?」
――左の方でありんすよ、わずかに傾斜になってるのがお分かりいただけますか?
「うん……そうだね、確かにこっちに上ってる」
優心がマグライトを向けるが、闇はどこまでも続いていて先が見えない。入った時よりだいぶ気温が低い、足音が反響して不気味に鳴り響く。
「行くしかないようね」
「慎重に、慎重に」
こういった時は星河の様に少しビビリなくらいが丁度いい、足元にもゴロゴロした石が増えてきている。転ばない様、慎重に進んだ。
「水……無いねえ、本当に枯れちゃったのかなぁ?」
星河が不安そうにぼやく。
「見つけるまで上流に行くわよ。ここまで来て諦められるもんですか」
優心は無言でずんずん進んでいく、置いて行かれない様、慌てて星河も後に続く。
「優心……僕のスマホの時間表示が変なんだ」
星河はそう言ってスマホの画面を優心に見せた。零時十分を指している。
「あれっ! 洞窟に入ってから三十分くらい経ってるかと思った。まだ十分?」
「時計が進んでないみたいなんだよ。タイムゾーンも不明になってるし」
優心も慌てて自分のスマホで時刻を確認する。やはり十分で止まっている。
――幻夢境では時間の流れは現世のものと違うんでありんす。急に早くなることもあり得ます。まああまり気にしてもしょうがないんでありんす。
「そ……そんなものかなぁ……」
「伝説の秘境を探検しているのよ。そのくらいのこと、あった方が面白いじゃない」
優心にはやっぱり敵わないなと思った。肝の据わり方が常人とはまるで違う。
「少し……冷えてきたね」
奥へ進むごとにさらに気温が下がっていく、肌寒さを覚えるような温度になってきた。星河はブルリと体を震わせる。
――まずいでありんすね。
「な……なにがまずいの? 屍鬼切りちゃん?」
――あまり奥へ行き過ぎると、帰れなくなる恐れがありんす。
星河と優心が顔を見合わせる。どちらも不安そうな表情だった。
「水……そろそろ見つけないと……ってあら?」
優心がマグライトを枯れた川に当てた時、何かがきらりと光った。
優心が駆け寄る。
「水……あった! ここに少しだけ」
見れば川の石に窪みがあり、そこにわずかだが水がある。
「ホントだ……これ抄えるかな?」
「うん、大丈夫」
優心がリュックから水筒とスプーンを取り出す。水を抄うとちょうどスプーン一杯だけの水が取れた。慎重に水筒に注ぐ。
「やった! 少しだけどこれで足りるかな?」
――濃縮された濃い水のようでありんすね。ある程度効果はあるでしょう。
「うん、やったね」
ここにきてやっと優心は満面の笑みを浮かべた。
「何?! 揺れてる?」
水を取った直後、地鳴りがして微かに地面が揺れた。
――そろそろ引き返すときでありんすね。洞窟の存在が希薄になってきてるようです。
「それって?」
――早く逃げるんでありんす。
「星河……ダッシュよ」
それだけ言うと優心は駆けだした。物凄い速さで来た道を引き返す優心、星河は一瞬遅れて取り残される。
「おっ! おいっ待てって」
地鳴りはどんどん酷くなり、本格的に揺れ始めた。天井から小石状の破片が落ちてくる。
「これって逃げきれなかったらどうなるの?」
――そのまま死の空間に飲まれて一巻の終わりでありんす。
「ちょっ! 冗談じゃないわよ。星河っ! 走って走って」
「うっ! うおおおおおお」
川をどんどん下って行って、来た時の脇道を見つけて飛び込んだ。さらに走ると山田邦夫の遺体がある。
「おじさんっ! 悪いけど回収できない」
優心はざっと上から下まで遺体を眺め。
「これだけ貰っていくね」
と腕時計だけを回収した。次の瞬間一際大きく揺れた。パラパラと天井から石の欠片が落ちてくる。
「うおおおおおおおおっ! 優心ちゃんダッシュ! 星河ももっと走りなさい」
「わかってるって!」
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