碧よりも青く

ハセベマサカズ

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碧よりも青く ③

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広い窓が冷たい風を遮断して、教室の中は温室のようだった。
ぬくぬくと育ってる私達にはお似合いすぎて笑いがこぼれる。
見下ろす景色には枯葉が転がって、動きの無い風景を紛らわしてる。
まだ朝なのに午後みたいに雰囲気が気だるい。きっと冬に似使わない日差しのせいだろう。
先生の声も、どこか掴み所が無くて水の中に響いてるみたいだ。
こうやって現実の感覚に鈍くなっていくのは逃避なのか、精神の安定を図る自己防衛のものなのか。

恵まれた生活の中で私は何が不満なんだろう。
一生の中での心拍数はどの動物も一緒だ。
先生の声が届いた。私も同じようなことを思ってた。
生涯の内の幸せの量は誰も一定なんじゃないかって。
恵まれないものは与えられたパンにこの上ない喜びを感じるだろう。
でもそれを当たり前と感じていれば喜ぶとこさえ忘れる。
きっと私には大きな悲しみもなければ大きな喜びもないだろう。
この教室みたいな環境の中で平穏に過ごすだけなんだ。
卒業したら就職して、運が良ければ家庭も築けるかも知れない。
平坦な風景はどこまでも見通しが良く、だけどもそこに期待や希望はない。

リスクに挑戦する人って、もしかしたらリターンが目的じゃないのかも知れない。
もしかしたらの可能性に魅入られるような気がする。博打みたいなものだ。
今後、私の人生を変えるような一撃には巡りあえるんだろうか。
少なくとも授業の中では期待出来そうにない。
きっと本当は何もない。大人が子供に夢を見せているだけ。
あってもそればほんの一握りの人なんだ。
才能ある人は同時にものすごい業を抱えてるのかもと考えるとぞっとした。
私は幸せなんだろうか。恵まれているんだろうか。
こんなありふれたくだらないものが幸せと呼ばれているものならば
皆はいったい何を求めているんだろうか。

いけない、また板書が遅れてた。私は意識を前に集中させた。
生物の先生は浅黒く、いかにもスポーツマンと言った風体だった。外観似つかわしくサッカー部の顧問もしている。
彼は私の嫌いなタイプの人種ではあったが、厭世的と言うか、やる気のない授業態度が好きだった。
他の教師みたいな熱っぽさはかけらもない。いかにも仕事と言った感じで淡々と授業を進めていた。
体温が似てる、そんな風に思った。
だからこそかも知れない。ヘイタにはどこか引け目を感じる。それは鞄を持って貰っているからだけでない。何か私の求めていた幸せを体現しているようで悔しい。妬ましいんだ。きっと。
私も性格悪くなってるなあ。
何が不満なんだろうね。自分にもわからないよ。
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