碧よりも青く

ハセベマサカズ

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碧よりも青く ⑪

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自殺?そう言ったのか?
ヘイタの言葉が耳から脳にまで届くと私は固まってしまった。
頭の中が真っ白だ。思考が追い付かない。
同時に悩みの深さを想像して自分の血の気が引く音さえ聞こえる気がした。
そんな私にお構いなしにヘイタの告白は続く。
「柔道なくした時、俺も終わりと思ったんだよね」
軽く話すが内容は重すぎる。
高校前のヘイタなんて、私は知らない。
けど、容易に想像できた。
毎日練習して。大会にも出て。競い合う仲間なんかもいただろう。周囲にも期待されて。
ヘイタはどれだけのものを失ったんだろう。私なんかとレベルが違う。
私は死ぬに値する理由もなかったのでは。
ショック状態の中、ヘイタは言葉を続けた。
「死のうと思って屋上に上がった時、アオがいたんだよ」
ちょっと迷惑そうにこちらを向く。
「アオが邪魔で死ねなかったんだ」
と笑ってた。
「あの時も、アオ、深刻な表情で外見ててさ。皆考えることあるんだなって思った」
後から聞いた話だが、その時の事は鮮明に覚えているとヘイタは言ってた。
写真を撮ったみたいに思い出せると。恥ずかしい話だ。
笑ったままヘイタは言う。
「だから、やめた」
私は言葉を掛けたいが頭の中が散らかって口にする言葉がつかみ取れない。
唇は動くのに声に出すべきものが何も生まれてこない。
怒りとは無力感から生まれるものだそうだが、私は自分に心底腹が立った。
こんな時は何が正解なんだろう。

「柔道はなくしたけど、また何か見つかるだろうし、毎日がつまらない訳じゃない」
そう話すヘイタを、私は強いと羨ましく思った。
この先も生きて行く中で、私にも何か見つかるだろうか。期待は持つが希望が持てる気がしない。
「羨ましいな」
自然に私は呟いていた。
「私には何もない」
やっと言葉が出たと思えば今度は感情が溢れてくる。
「私は、誰かに頼られる事もなければ、打ち込む何かもない。居場所だって見付からない」
高ぶる感情を無理やり抑えながら出来る限り表情を殺して喋った。でないと泣きそうになるから。
「居場所かあ」
少し考えてヘイタは言った。
「友達の所に行けば良いんじゃない?」
くれたのはシンプルな答えだ。
確かに。
私がしていたのは他人を羨んで遠目に観てるだけで、それは孤独を紛らす代償行為だ。
根本的な解決方法ではない。
ただ、それが私に出来るかどうかはまた別の話なのだ。
友達かあ。少し前に立候補して来たやつはいたが。あいつかあ。あいつねえ。
私はうなるだけで精一杯だった。
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