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ウリカリス王国の邪神 ④

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「私の命を狙う者は多いが、1日に2回は初めてだな」
鋼の国の王の玉座。ウリカリス王は新たな侵入者に声をかけた。
僕が駆け込む前にも既に激しい戦闘があったらしい。
鮮血にまみれた王の間に、剣を持ったウリカリス王だけが立っていた。
床に倒れているのは王の側近と、王の命を狙った侵入者だろう。

この王国は多方面に戦を広げ、その勢力範囲を広げて行っていた。
同時にそれは慢性的な兵不足となり
王の警備の手薄さはそれを証明するものでもあった。
そうでなければ僕もこの場に辿り着けなかっただろう。

僕たちは自国で公募された志願兵だった。
目的は敵国のウリカリス王暗殺。
正式な軍とは認められず別行動を余儀なくされたが、
頂いた調達金を基にわずかながらのパーティを編成した。
小人数でしか出来ない小回りの良さの利点を生かし
ついに王の間まで辿り着くことが出来た。
しかし、ここまでの犠牲も多かった。
共に戦ってきた仲間達は城の精鋭達にことごとく敗れ、
最後まで残っていたのは僕ひとりだけだった。
しかし、目的の王は目の前にいる。

長い旅を終わらせるのは僕の使命だ。
僕は手に持った剣を構え直した。
「ふうっ」
ウリカリス王は深く呼吸を吐くと玉座に深くもたれかかった。
「まあ、座れ。お前が何を望むかも分かっている」
王は僕を右手で制すと剣を離すよう促した。
「安心しろ、もう兵も来ない。お前とふたりだけだ」
相手にはすっかり戦う気持ちもない様だ。
だが完全に信用することは出来ずに剣の構えだけを落とした。
「素直だな。今度は話が出来そうだ」
ウリカリス王は口だけ歪めて笑った。
「私を倒して帰れると思うかね?」
王の挑発に
「お前を倒せれば後の事なんて構わない」
と抵抗の意を表した。
「私を殺しても戦は終わらない。お前の国もやがて飲み込まれよう」
こちらの煽りに意もせずに王は剣を投げた。
争う意図はないとの意思表示であろう。

「少し話をしよう。お前はこの国の政治を知っているか?」
僕が首を振ると王は話を続けた。
「この国の王は国民の中から選ばれるのだ。お前らの常識では驚くと思うがな。
 私を殺しても明日には代わりの王が出来るだけだ」
王はこちらに視線を向けると諭すように話し続ける。
「お前は今の世をどう考えている?
 小国が乱立し秩序無く小競り合いを続けている。
 ならば世界がひとつの国になった方が平和になると思わんか」
余りに子供じみた理想だと僕は愕然とした。
「そんな事、出来る訳ないだろう!」
僕の声には意にもせず話を続ける。
「これは我が国の多くの国民の総意だ。夢想などではない。
 この国にはそれを可能とする規律や軍事力が存在する。
 それと…」
口を曲げ二度目の笑いを見せた。
「軍神がいる」
必ず実現させると言った強い自身の表情のまま、王は僕に顎で指図した。
「剣を持て。信じるかどうかはお前が決めろ」

もたれた玉座からずり落ちるように王は天を仰ぐ格好となった。
「遅かったな。血を流し過ぎた。
 私も長く持たないだろう。だがな」
振り絞るように語気を強める。
「諍いを続け破滅を選ぶが良いか、
 犠牲の上に100年の幸福を掴むが良いか、
 そなたの意見も聞かせて欲しいものだな」
言い終えると王は大量の血を吐き出し、そして動かなくなった。
その表情は愉快そうに笑みをたたえていた。
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みんなの感想(1件)

rabao
2023.12.30 rabao

うわぁ~🎵面白いよこれ!
続きちょうだい! щ(゜▽゜щ)

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