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ウリカリス王国の邪神 ③

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いつかこんな日が来るんだろうなとは、何となくだが思ってた。
王直属の騎士団が俺を迎えに来た。
俺が成人したのを聞きつけてやって来たのだろう。
俺は選ばれた子供だった。

この土地には古い言い伝えがあった。
西方を向くと昼間でも位置を確認できる大きな星がふたつある。
この星々が最も近付いた日に生まれた子供は世界を動かす力を持つ、と。
俺はその日に生まれた。神に祝福された特別な子供だったのだ。
村の中では特別大事に育てられてきたが、同時に厳しい教育も受けた。
魔法や剣術、占星術までも。
おそらく王都に住んでいても受けられないような高度な教育を受け育ってきた。
そしていつでも特別視された存在として扱われてきた。
大人さえ俺に逆らう者はいなかった。
そのせいで幼少期は傲慢な性格に育ち周囲に手を焼かせてきてしまったのだが。
今、こうして村に溶け込んで生活できているのは幼馴染のタミルのお蔭だろう。

彼女は生まれた日も近く、同じ年齢と言う事で
小さな頃からずっと俺の相手をしてくれて来た。
俺の身元は国に保護されていた。
だからケガなど追わせれば、それなりの罰則が生じた。
子供心にもそれは俺にも理解でき、自惚れや自尊心ばかり育っていた。
誰もが奴隷のように俺に従った。タミル以外は。
彼女だけは他と違った。
いけないものはいけないと、はっきりと言う。
俺が悪い事をすれば迷わず指摘し叱咤する。
そして、腫れもののように扱われる俺の気持ちを分かってくれたのも彼女だけだった。
世界でたったひとりの理解者だった。
彼女は魔道で優秀な成績を収め、特に治癒系の術に長けていた。
「あなたは私が守るから」
口癖のように彼女は言う。
だが、それは俺が世界にとって必要だからだ。彼女にとってじゃない。

俺は物心ついた頃からタミルに魅かれていた。
俺が彼女を望むなら、村も本人も拒む者はいないだろう。
だが、それでは望む姿ではない。
剣術も魔術も、俺は何ひとつ彼女には敵わない。
せめて何か彼女に認められるものが欲しかった。
それを叶えるのは自分のこの運命でもあった。
世界を変える力を持っている。それが俺の希望だった。
隣国では邪神と呼ばれる化け物がいると言う。
その化け物を倒せば、きっとタミルは俺を認めてくれる。
騎士達が迎え入れ、その好機がやって来ているのだ。

「お目にかかれて光栄です」
騎士団長と呼ばれる白い鎧をまとった長身の男が、跪き恭しく俺に挨拶した。
「邪神討伐に貴方のお力をお借りしたい」、と。
俺はこの日をどれだけ待っていただろうか。
承諾した俺に騎士団は出立までの時間をくれた。
今まで一緒に暮らして来た村の仲間に最後の挨拶をする時間をくれたのだろう。
大事を取ってタミルだけは俺と一緒に行くことになったのだが、
この先は危険な旅となる。
他は今生の別れになる可能性さえあった。

日が暮れるまでのわずかな時間だが、親や先生に礼を言う事が出来た。
そして旧友とも久しぶりの会話が出来た。
「気を付けてな」
相変わらず最後の挨拶まで気障な奴だ、そう思った。
優等生面が鼻に付くこの男はジッタと言い同窓の仲だった。
魔道でも剣術でも常に優秀でタミルと主席を争っていた。
タミルを姉とするならジッタは兄のような存在で
小さな頃から何でもできるジッタは俺の憧れでもあったんだ。
「何でお前なんだろうな」
視線をそらしてジッタが漏らす。
彼のつぶやきに仲違いした頃を思い出していた。
俺と彼と、本当はどちらが相応しいのかなんて一目瞭然だった。
俺と違って誰からも好かれる人格者でもあった。
だが、彼は選ばれた存在ではなかったんだ。
そして、ジッタとタミルのいちばん傍にいた俺がいちばん良く分かってた。
お互いに誰を見ていたのかを、も。
「タミルを宜しくな」
ジッタは昔のように俺の頭を撫でた。
彼も運命に振り回されたひとりだった。
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