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第一章 俺の職業? 魔術師だが?
デス・マニアック
しおりを挟むぽかんとする俺をよそに、サクラは意外にも集中していた。
迫るオーガのこん棒を軽くかわし、ホイストのフックのような爪をモモフクでいなす。
その瞳はしっかりと相手を見据えていた。
オーガの攻撃は単純なものだが、その筋肉量はバカにならない。
戦況は微妙なところで釣り合っていた。
このままでもサクラが勝つとは思うのだが、もしも一撃食らったとしたら。かするだけでも、一気に畳みかけられてしまうかもしれない。
俺は手を出すかどうか、決めかねていた。
普段の俺なら、面倒だなと思いながら、さっさとオーガを倒していただろう。
しかし、サクラの真剣なまなざしを見ると、手を出すのがすごく悪いような気分になるのだ。サクラの決意を踏みにじるような、そんな気分に。
ぐおおおーっ
オーガが雄たけびを上げながら、こん棒を突き出す。サクラはそれをかわしながら突進し、カウンター気味の突きを繰り出す。
まずいな。
俺はすぐに気付く。オーガのその突きは、囮だ。
あんなにわざとらしい雄たけびをあげ、しかも突きはさっきよりも大振り。見え見えの誘いだったが、実戦経験の少ないサクラは、バカ正直に引っかかってしまったのだ。
オーガは突き出したこん棒を手放すと、肩をいからせてサクラに向かって体ごと突っ込もうとする。
「ちっ、さすがに不味いか」
俺はサクラを庇おうと、タックルを仕掛けてくるオーガの前に飛び出し、防御呪文を唱えた。
「止まれサクラっ、≪大気障壁≫っ!」
「えっ、イングウェイさんっ!?、……きゃあっ!」
ぎりぎりまで飛び出すのを迷っていたのがいけなかった。タックルのダメージ自体は殺せたものの、俺自身も、そして後ろにいたサクラも跳ね飛ばされ、壁に叩きつけられる。
サクラだけでもなんとか受け止めたのだが、腕にヒビでも入ったかもしれない。
「うぎゅー、いんぐうぇいしゃんー」
うがーっ
とどめを刺そうと猛るオーガ。
「いんぐうぇい、さんっ。くっ、私が戦いますから、今のうちに、逃げてっ!」
モモフクも持たずに、必死で立ち上がって俺を庇おうとするサクラ。まったく、弱いくせに生意気な。
仕方ない、サクラには後で謝るか。そう決めると、俺は静かに、一つの呪文を唱えた。
「≪即死の掌握≫」
が…がはっ。おぅがぁーー。
オーガは血を吐き、あっさりと崩れ落ちた。
「え? ふえ? あれ? いったいどうしたんでしょうか。もしかして、勝ったんですかっ!?」
「やったー、やりましたよ、イングウェイさーん!」
明るい声で喜びながら、俺を抱きしめるサクラ。
喜ぶのはいいけれど、痛い、あんまり腕に触らないでくれ。
帰り道、俺はサクラに謝った。
こういうのは早いほうがいい。
「すまない、サクラ」
「ふえ? なんで急に謝るんですか?」
「君の決意がわかっていながら、オーガとの戦いに割り込んでしまった。しかも、横から手を出し、止めまでさしてしまったしな。謝る」
サクラはきょとんとしている。
「何を言ってるんですか、私のこと助けてくれたじゃないですか」
むう、言いづらい。たどたどしい口調になってしまって、なおさら言い訳みたいだ。
「しかし、死よりも大切な決意というやつもあるだろう? その、君はサムライだし、そういうのを大切にしているんじゃないかと」
そんな俺を、サクラはびっくりしたように見て、そして、にまーっといたずらっぽい笑顔を見せた。
「何を言ってるんですか、イングウェイさん。決意なんて死んだら何の役にも立ちませんよ、そんなもの犬にでも食わせとけばいいんです。
それより、ほんとーに、助けてくれてありがとうございましたっ! ……お礼の件、覚えてます?」
「当然だ、妻になるとかどうとか。残念だが、今回はナシだが――」
サクラは言葉を遮り、言った。ほっぺたをぷっくりとふくらませていた。
「そんなのわかってますっ! お嫁さんは、また今度でいいです。でも、私のことお嫁さんだと思って、手を出しても良いですからね?」
それだけ言うと、サクラはうつむいてこちらを見ようとしなかった。
耳まで真っ赤なのはバレバレなのだが、知らないふりをしておく。まったく、恥ずかしいのなら、無理してそんなこと言わなければいいのに。
そうだ、もう一つ忘れていた。
「サクラ、あの時、オーガから俺を守ってくれてありがとう」
俺は、サクラの頭をぽんぽんと優しく撫でてやった。
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