賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第一章 俺の職業? 魔術師だが?

ルッキンダウン・ザ・ダンジョン

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 俺たちはゴブリンの巣穴を見下ろす位置で、作戦を立てていた。
 俺は言った。
 まずはサクラが飛び込む。俺はそれをフォローする。

「そんなのムリですよ! 死んじゃいますし、殺されちゃいますー」
 泣きそうになるサクラに、俺は魔力操作を教えてやる。
「いいか、サクラ。お前は魔力の素質自体は持っている。足りないのはなんだと思う?」
「えーと、ど、度胸?」

「俺は根性とか精神論は嫌いだ。いいか、お前に足りないのは、魔力による運動能力の操作だ。魔力を体に流すように使うことで、運動能力をアップさせるんだ」
「ふええ、そんな夢みたいなことができるんですか?」
 おい、夢どころか基礎の基礎だぞ。この国の魔法教育はいったいどうなっているんだ?

「最初は一緒にやってやる、体内の魔力の流れを感じるんだ」
 そう言うと俺は、彼女の魔力を操作するのに一番適したところ――つまり、胸――を、素手でぐっと優しく包み込んだ。
「あ、あ、あのー」
「わかっている、子供とはいえお前も女だ。胸を触られてはいい気分ではないだろう。しかし、我慢してくれ。殺されることになったら悲しいじゃないか」

「いや、そんな、嫌とかじゃないんですがー、ってゆーかイングウェイさん、悲しんでくれるんですか?」
 何を当たり前のことを。俺はサクラを叱りつける。
「当たり前だ、仲間なんだからな、俺が守ってやる、安心しろ」

 でへへー、というサクラの声が聞こえた。こいつ、マジメにやっているのか。
 と思っていたら、そっと俺の手の上からサクラが手をのせてきて、胸に強く押し付けてきた。
 やる気があることがわかり少しだけ安心する。

 さて、もういいだろう。

「どうだ、胸の大きさが変わるわけじゃないが、いままでろくに使っていない分の魔力が体を循環しているはずだ」
「す、すご……。体が軽くなった? それに、目や耳も、いつもよりずっと研ぎ澄まされている気がします」
 サクラはウィンドウを開き、能力を確認した。STRとAGIが上昇している。細かい数値は見ていないが、おそらくどちらも30pt以上はプラスされているはずだ。

 いびつだったピンク色のグラフは、きれいなバランスの取れた前衛型のステータスへと変わっていた。

「それが本来のお前の力だ。自信を持て、サクラ・チュルージョ」
「はいっ!」
 サクラは元気よく答えると、ゴブリンの巣穴に向かって走り出す。
 俺もその後ろを追いかけ、補助呪文の準備をする。

 ぎゃーっす、ごぶ?

 見張りのゴブリンがサクラを見つけて騒ぎ立てる。
 サクラは慌てず、そのままの速度でゴブリンへと突っ込む。
 振り下ろされるこん棒を余裕をもってかわし、がら空きの首を一瞬で跳ね飛ばした。

 ご、ごぶー。

 あっさり崩れ落ちるゴブリン。

「油断するな、あいつらの強みは、数だ。群れが来るぞ」
「はいっ、がんばります!」

 今までずっと弱かったせいか、運動能力が上がったからといっても油断は見えない。むしろ落ち着きさえ感じさせる動き。
 もともと型はできていたのだ、当然とも言える。
 ゴブリンはリーダー格でも最大レベル10程度。すでに、今のサクラの相手ではなかった。

 勢いのまま洞窟を進むサクラ。
 その時、突然強い殺気を感じた。

 ぐおー。

 遠くから聞こえる咆哮。ゴブリンキング、いや、オーガか?
 声のする方向へと歩いていく。群がるゴブリンたちは、サクラの冷静な対処であっさりと肉の塊へと姿を変えていく。
 その先は、大きなドーム状の空洞になっていた。

 やけに広いな。
 あたりの様子を見回していると、奥からずりずりとなにかを引きずるような音が聞こえてくる。

「出たな」

「ふえ?」

 俺はため息をつくと、のんきなサクラに教えてやる。
「オーガだ、ここのボスだろうな」
 サクラはびくっと身を震わせ、はい出てきた大鬼をじっと見つめる。
 立ち上がるとおそらく3メートルはあるだろうか。右手に握っている巨大なこん棒も相まって、とても巨大だ。

「あ、あの、イングウェイさん? どうしましょー。オーガとか、たしかDランク以上の冒険者が戦うような相手ですよね?」
「サクラ、今の君ならDランク以上の戦闘力は持っていると思うぞ。自信を持つんだ、俺を信じろ。きっとやれる」
 Dランク冒険者とやらがどれほどの戦闘能力をもっているのかは知らんが、俺の見立てでは、今のサクラなら十分勝てるはずだ。

「で、でも……」

 なるほど、自信がないのか。長いこといじめられたりしていたトラウマか。しかし、人を勇気づけるなんて俺の柄じゃない。
「頑張れ、こいつに勝ったら、一つだけ欲しいものをくれてやろう」
 人間、やる気を出すには餌をぶら下げるのが一番だ。
 指輪かネックレスかわからんが、多少の出費はこの際目をつぶろう。

 が、サクラは意外なことを言ってきた。

「じゃあ、じゃあ……、イングウェイさんのお嫁さんにしてくださいっっ!!」

 してくださいー。してくださいー。洞窟内をぐわんぐわんとこだまする、サクラの声。

 決死の告白など意に介さずに突っ込んでくるオーガ。


 蚊帳の外の俺。


 ここ、ダンジョンの中だったよな?
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