23 / 200
第三章 王都炎上
復興、アサルセニア
しおりを挟むこうして、マリア・ラーズは、無事ゾンビになって復活した。
平和な日常が戻ってきたわけだが、当然長くは続かない。魔族の脅威は残っているのだ。
冒険者ギルドも再編が進み、モンスター退治やダンジョンの調査依頼などが急増したらしい。
俺たちのような戦闘特化型のパーティーには美味しいことだが、さすがに危険な依頼が増え過ぎて、新米冒険者たちの死亡率も急増していると聞いた。
実際俺たちも、新米冒険者の護衛依頼などを引き受けたりもしている。
うちで一番忙しくなったのは、レイチェルだろう。
ケガ人の治療に、ポーションの作成。加えて、マリアの体のメンテナンス。
「ゾンビの体は、魔力で定期的に浄化してやらないと腐りやすいんですよ」
「なるほど、新陳代謝が滞るせいか」
「え? ちんちんでんしゃ?」
「新陳代謝、だ。身体のさいぼう…身体を作る部品が、どんどん入れ替わっていくことだな。マリアは死んでいるから、古い部品がそのまま残り、腐っていくんだろう」
ん? 気付けばマリアが、ドン引きという表情で俺を見ている。
なんか変なこと言ったか、俺?
「なっ、なんでそんなこと知ってるんですか、イングウェイさんっ!? それ、死霊術師業界でしか知らないよーな極秘情報なんですっ、企業秘密ってやつですよ!?」
なんだその縁起が悪そうな業界は。
「そんなこと言われてもな、常識だろう。少なくとも前に住んでいた国では、当たり前のように子供でも知っていた」
「はぁ、もういいです。イングウェイさんと話していると、自信がなくなっちゃいます」
レイチェルはため息をつきながら、マリアの体に魔力を流している。
柔らかな聖なる光が、ゆっくりとマリアの体を循環していった。
「ねえ、ボクも一応エルフだし、聖属性の魔力も組めるんだけどさ。自分じゃできないの?」
治療を受けていたマリアが、不思議そうにレイチェルに聞いた。
確かにもっともな疑問だ。そもそも定期的な治療が必要だということは、レイチェルがいなくなったらマリアの命まで危ないということになる。それはまずい。
しかし、レイチェルは首を横に振って言う。
「ムリね。魔力量の問題じゃなくて、魔力で浄化する場所の問題だもの。体の隅々まで行きわたらせないといけないし、そのためにはやっぱり医術の知識がいるわ」
腐る、そして隅々まで……?
「レイチェル、ようするに腐らないようにすればいいんだよな」
「え? ええ、そうですけど」
俺は魔導冷蔵庫からビールを取り出す。あの混乱でも盗まれず壊れなかった、幸運のアイテムだ。
「これを飲んだらどうだ?」
マリアとレイチェルは意味がわからず、顔を見合わせた。
あ、もしかして。俺は聞いてみた。
「なあ、なんで物って腐ると思う?」
マリアがすぐに答える。
「そんなの、闇属性の魔力が自然発生して、生命の元の聖魔力を食べちゃうからでしょ? 子供でも知ってるよ」
隣のレイチェルも、うんうんと頷いている。
やはりそうか。それは、間違った知識だ。
俺は優しく彼女らに教えてやる。
「いいか、物が腐るのは、空気中にいる小さな生き物が、食べ物をエネルギーにして毒素を発するからだ。じゃあ、腐らないためには、どうするか。その小さな生き物を殺すとか、寄せ付けなければいい。そして、奴らはアルコールに弱い。俺の前にいた国では、病気の予防などにも使われていた」
「えっと、つまり?」
俺はテーブルにグラスを置く。こん、と軽快な音。
ビールの瓶を開け、とくとくとついでいく。かきむしるようなしゃーしゃーという音は、炭酸ガスのせいではない。早く飲ませて欲しいと心がきしんでいる音だ。
「酒を常時愛飲していれば、問題なかろう」
「すごい! 過去の死霊術師たちが長年考え抜いてもわからなかった疑問の答えを、こんなにあっさりと。天才の発想だわ」
「すごいよ、これならボク一人でもできるし、簡単だ! お酒がない世界なんてないから、旅にだって出られる!」
おい、あんまり浮かれるな。前例がないことをするのなら、慎重にやらなければ。
「今日はこれしかないが、明日からは米焼酎を飲むと良いだろう」
「え、それはなんで?」
「まず第一に、ビールよりもアルコール度数が高いからな。より腐りにくくなるはずだ。そして安価なこと。温めても常温でもいけるから、寒かったり旅に出た時も飲みやすい。あとは、ウイスキーは色がついているものが多いからな。縫い目を消毒するときは、無色の焼酎の方が見た目にもいいだろう? 米を使うのは、その――」
女性だからな。匂いにクセがある芋よりは、万人受けする米が良いだろう。俺はどんな匂いだろうが、気にしないのだが。
最後の一言はなんとなく気まずくて、飲み込んでしまった。
気付くと、マリアは両目に涙をためていた。
「ありがとう、イングウェイさん。本当に、何から何まで……」
やれやれ、泣き虫キャラがもう一人増えてしまったな。
2
あなたにおすすめの小説
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる