賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第六章 女神の洗濯

清算の日

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 ~レイチェル・ヘイムドッター~

 イングウェイさんが来てからというもの、私の生活は一変した。
 月末に居留守を使う必要がなくなったからだ。

「すみませーん、ヘイムドッターさーん、支払いお願いしまーす」
「はいはーい」
「最近支払いが遅れることもないし、羽振りいいじゃないっすか。なにかあったんすか?」
「えー、別に普通ですよー?」

 集金にきたちゃっらい男に嫌みたらしく言われるが、羽振りがよろしい私は怒らない。そう、レディとは、余裕がある女性のことを言うのですから。

「じゃ、いつも通り裏に運んでおきますよっと」
「ありがとうございます。また来月もお願いしますねー」

 金銭状況は劇的な改善を見せ、なんと酒代に困ることもなくなった。
 安いからという理由で選んでいたビールだったが、銘柄によっては意外と美味しいものもある。

 ……いや、違った。

 安くても量をたくさん飲めてしまう時点で、節約にはならなかった。
 そう、むかつく酒屋の罠にはまり、私の計算は狂っていたのです。
 許すまじ、酒屋!

 そこに現れた救世主、イングウェイ・リヒテンシュタイン様。貴族のようないでたちのイケメン魔術師、そうです、彼はなぜか男のくせに魔法を使えるのですが、そこはどうでもいい。

 彼は何と、おかねもち! ……というほど現金を持っているわけでもないのですが、とにかく異常なくらい強いし魔術にも詳しいしで、低ランク冒険者とは思えないスピードで仕事をこなすのです。

 そして紳士的なことに、私の家にお金を入れてくれる。
 酒代を、入れてくれる。

 彼は言います。
「お前は飲むことでパーティーに貢献しているんだから、気にするな」と。
 これはもう、プロポーズ以外の何物でもありません!

 超優良物件をゲットで、玉の輿ですよ、私!


 さて、私は部屋の奥へ引っ込むと、冷蔵庫から冷えたビールを取り出し、コップにとくとくとついでいく。
 薄暗い部屋でソファにどっかりと座ると、目の前のビールを半分飲む。

 うまい。ぷはー、もう一杯。って、そうじゃないのです!
 今回はこれがメインというわけではない。明日は王様からの依頼で、イングウェイさんと二人きりで出なければならない。
 彼はお城などのフォーマルな場には、私を連れていくことが多いのです。これはきっと正妻として認められたに等しいでしょう。

 さて、今のうちにしっかりと力を補充しておかねばなりません。


 私はもう一つの瓶を、冷蔵庫から取り出す。蓋を開けると、わずかに酸を含んだ香りが鼻を吐く。
 私は瓶を傾け、色を確かめる。

 中に見えるのは、真紅と言っていいほどに赤い液体。いつも用意してもらうものはもっと夕日のような朱色に近いのだが、今日のは品質が良かったのだろう。
 せっかくの美しい赤が変色してしまわないうちに、コップに注ぐ。
 ビールと混じり合わずに淀む赤を、手近にあったアスパラガスで軽くかき混ぜる。

 鮮血の麦酒レッド・アイ。イングウェイさんは、そう呼んでいた。私の秘密のオリジナルカクテルだったが、彼も同じものを知っていたのだ。まったく彼は、どこまで博識なのか。
 ゆっくりと味わいながら飲むと、野の酸味がさわやかに喉を潤す。
 少しだけ、頭がしゃっきりしてくる。

 うん、これで、明日も美味しく飲める。
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