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第六章 女神の洗濯
信者の皆サン
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「トルピード様! これは、その、入信希望者が失礼なことを……」
ヒューラは焦ったように取り繕う。
トルピードと呼ばれた男は、物腰の柔らかそうな青年だった。高価そうなローブを羽織っている。ブラウンの緩やかにウェーブした髪と切れ長の瞳は、知性を感じさせる。
「だからどうしたというのです。入信希望ですって? ならば、キャンポーテラ神について、まだよく知らないのは当然のことです。我々がすべきは声を荒げることではなく、一つ一つ彼らの疑問を解いてあげることですよ?」
ほう、話が分かりそうなやつが出てきたな。
俺がやる気満々でウキウキしていると、レイチェルが隣から遮るように口を出す。
「もー、イングウェイさんもそれくらいにしておいてください! ええと、すみません、色々お話を聞きたいんですが、よろしいですか?」
「ええ、もちろんですとも」
俺たちはそのまま、信者たちの集会に参加することになった。
大きなホールにはオレンジ色のランプがいくつも並べてあり、少々薄暗いが幻想的なふいんきが漂っていた。
信者の皆さんと椅子に座って待っていると、先ほどのトルピードという男が壇上に登る。
厳粛な空気の中、よく通る声で彼は言った。
「皆さん、我々には時間があまりありません。魔族を束ねているのは、古の魔王。魔王の復活が、目前に迫っています。先日の襲撃も、その一端です。
そして魔族の侵攻に対し、アサルセニア王国軍も勇敢に立ち向かいましたが、かなりの犠牲が出てしまいました! なぜなのか!?
そう、王国軍が、真の武力の使い方を知らないからです。力に力で対抗しても、争いにしかなりません。我々は話し合うべきなのです!」
「「「わかるー。」」」
皆真剣に頷いている。
「しかし、話し合いだけでもいけません」
「ほう?」
適当に聞いていた俺だが、その言葉に少しだけ興味が湧く。
「話し合いとは、同じテーブルについて初めて進められるものです。では、相手がテーブルに着くことを拒否したらどうするか? そうです、その時は力しかありません。
ただしそれは、王国軍や魔族の行使する類の力とは、違うものでなければなりません。力とは、暴力で相手を従わせるためのものではなく、見せることで話し合うためのものであるべきです」
ふむ、思ったより良いことを言うじゃないか。
周りの信者の様子を見ると、皆身を乗り出すようにして真剣に聞いている。
充血しかけた目を見開き、プルプル小刻みに震え……。
む? なんか変だな。
気付くと、あたりにうっすらと甘い香りが立ち込めていた。
これはまさか。
気付かれないように静かに息を吐くと、ゆっくりと自分の体をチェックする。動きに問題はない、麻痺の症状はないようだ。判断力も落ちていない。
≪解毒≫の術を待機状態にして、自分とレイチェルにかけておく。遅延発動という、相手の罠などに対応するために前もって術を待機状態にしておくテクニックだ。
「おい、レイチェル、気を付けろよ。何か様子がおかしいぞ」
「ふへー? おかしくないれすよー。だいじょうぶ、寝てませーん」
しまった、うかつだった。
彼女の戦闘経験が浅い点を、もっと考慮すべきだった。
俺は前世の戦いの経験もあり、呪いに対する抵抗はあるほうだ。だが、レイチェルはどうだ。
赤い顔でぼんやりとしていて、目の焦点もふらふらと定まっていない。
このままここにいたら、じきに眠りに落ちてしまうだろう。
「レイチェル、おいレイチェル、大丈夫か?」
「ほえ? ふひー。むりっすー、むりむり、私ちょーいいきぶんなんですよ、なにもやる気しねーですよ」
レイチェルはそういうと、隠し持っていた焼酎をラッパ飲みした。
レイチェルは完全に出来上がっていた。小声なのがせめてもの救いか。
「おい、話を聞け」
「聞いてますよー。 じゃ、もっと聞いたら、うひい、キスしてくれます? ね? ちゅーですよー!」
「うるさい」
「しないなら踊ります! わたし、今からダンスです!」
なんと、レイチェルはいきなり椅子の上に立ち上がりかける。俺は慌てて座らせようとして、思わず抱き着くような格好になってしまった。
「きゃー、えっちー。うそですー。うーそー! あのトッピーちゃんを狙うんでしょ? わかりますよー」
トッピーちゃん? ああ、トルピードのことか。いやだめだ、狙うな、頼むからおとなしくしてくれ。
レイチェルはふらふらになりつつ、両手を壇上のトルピードに向け、あろうことか魔法を使用した。
「≪呪術移動≫~!」
組んだ両腕から、鈍い紫色の魔法陣が発生する。
トルピードに向けて黒い風が吹き抜けた。死霊術師の使う術のうち、特に禁術のひとつとされる、呪術移動の術だ。本来は酔っぱらったレイチェルが自らの酔いを道行く通行人に移し、さらに楽しく飲み続けるための術だ。
「う、なんだ、急に気分が……。 うっぷ、く、なんだこれはっ。貴様、何をした? 吐きそうだ……」
根っからの酔いどれであるレイチェルだからこそ耐えられるアルコール量。
いくらトルピードといえど、簡単に耐えられるものではないだろう。
ヒューラは焦ったように取り繕う。
トルピードと呼ばれた男は、物腰の柔らかそうな青年だった。高価そうなローブを羽織っている。ブラウンの緩やかにウェーブした髪と切れ長の瞳は、知性を感じさせる。
「だからどうしたというのです。入信希望ですって? ならば、キャンポーテラ神について、まだよく知らないのは当然のことです。我々がすべきは声を荒げることではなく、一つ一つ彼らの疑問を解いてあげることですよ?」
ほう、話が分かりそうなやつが出てきたな。
俺がやる気満々でウキウキしていると、レイチェルが隣から遮るように口を出す。
「もー、イングウェイさんもそれくらいにしておいてください! ええと、すみません、色々お話を聞きたいんですが、よろしいですか?」
「ええ、もちろんですとも」
俺たちはそのまま、信者たちの集会に参加することになった。
大きなホールにはオレンジ色のランプがいくつも並べてあり、少々薄暗いが幻想的なふいんきが漂っていた。
信者の皆さんと椅子に座って待っていると、先ほどのトルピードという男が壇上に登る。
厳粛な空気の中、よく通る声で彼は言った。
「皆さん、我々には時間があまりありません。魔族を束ねているのは、古の魔王。魔王の復活が、目前に迫っています。先日の襲撃も、その一端です。
そして魔族の侵攻に対し、アサルセニア王国軍も勇敢に立ち向かいましたが、かなりの犠牲が出てしまいました! なぜなのか!?
そう、王国軍が、真の武力の使い方を知らないからです。力に力で対抗しても、争いにしかなりません。我々は話し合うべきなのです!」
「「「わかるー。」」」
皆真剣に頷いている。
「しかし、話し合いだけでもいけません」
「ほう?」
適当に聞いていた俺だが、その言葉に少しだけ興味が湧く。
「話し合いとは、同じテーブルについて初めて進められるものです。では、相手がテーブルに着くことを拒否したらどうするか? そうです、その時は力しかありません。
ただしそれは、王国軍や魔族の行使する類の力とは、違うものでなければなりません。力とは、暴力で相手を従わせるためのものではなく、見せることで話し合うためのものであるべきです」
ふむ、思ったより良いことを言うじゃないか。
周りの信者の様子を見ると、皆身を乗り出すようにして真剣に聞いている。
充血しかけた目を見開き、プルプル小刻みに震え……。
む? なんか変だな。
気付くと、あたりにうっすらと甘い香りが立ち込めていた。
これはまさか。
気付かれないように静かに息を吐くと、ゆっくりと自分の体をチェックする。動きに問題はない、麻痺の症状はないようだ。判断力も落ちていない。
≪解毒≫の術を待機状態にして、自分とレイチェルにかけておく。遅延発動という、相手の罠などに対応するために前もって術を待機状態にしておくテクニックだ。
「おい、レイチェル、気を付けろよ。何か様子がおかしいぞ」
「ふへー? おかしくないれすよー。だいじょうぶ、寝てませーん」
しまった、うかつだった。
彼女の戦闘経験が浅い点を、もっと考慮すべきだった。
俺は前世の戦いの経験もあり、呪いに対する抵抗はあるほうだ。だが、レイチェルはどうだ。
赤い顔でぼんやりとしていて、目の焦点もふらふらと定まっていない。
このままここにいたら、じきに眠りに落ちてしまうだろう。
「レイチェル、おいレイチェル、大丈夫か?」
「ほえ? ふひー。むりっすー、むりむり、私ちょーいいきぶんなんですよ、なにもやる気しねーですよ」
レイチェルはそういうと、隠し持っていた焼酎をラッパ飲みした。
レイチェルは完全に出来上がっていた。小声なのがせめてもの救いか。
「おい、話を聞け」
「聞いてますよー。 じゃ、もっと聞いたら、うひい、キスしてくれます? ね? ちゅーですよー!」
「うるさい」
「しないなら踊ります! わたし、今からダンスです!」
なんと、レイチェルはいきなり椅子の上に立ち上がりかける。俺は慌てて座らせようとして、思わず抱き着くような格好になってしまった。
「きゃー、えっちー。うそですー。うーそー! あのトッピーちゃんを狙うんでしょ? わかりますよー」
トッピーちゃん? ああ、トルピードのことか。いやだめだ、狙うな、頼むからおとなしくしてくれ。
レイチェルはふらふらになりつつ、両手を壇上のトルピードに向け、あろうことか魔法を使用した。
「≪呪術移動≫~!」
組んだ両腕から、鈍い紫色の魔法陣が発生する。
トルピードに向けて黒い風が吹き抜けた。死霊術師の使う術のうち、特に禁術のひとつとされる、呪術移動の術だ。本来は酔っぱらったレイチェルが自らの酔いを道行く通行人に移し、さらに楽しく飲み続けるための術だ。
「う、なんだ、急に気分が……。 うっぷ、く、なんだこれはっ。貴様、何をした? 吐きそうだ……」
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